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「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第32回

企業が伝えたいことと金融機関が知りたいこと

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
現在、金融庁は「中小企業を支援しない地域金融機関は存在意義を認められにくくなる。捨てられるかもしれない」とか、「金融機関は、中小企業の決算状況だけでなく、事業性を評価して融資を判断しなければならない」というメッセージが発しています。明治時代に渋沢栄一が、産業を振興するためにはまず金融機関を整備しなくてはならないと考えたことなどを思うと、このメッセージは的を射ているなと感じます。


事業性評価への前向きな姿勢

一方で、このメッセージを聞いた中小企業の側には、2つの反応があるように感じられます。一つは「どうせそんなことを言っても、金融機関は変わらないよ」という反応、もう一つは「そうか、だったら金融機関に積極的にアピールしよう」との反応です。今まで何十年も金融機関と付き合ってきた社長さんからすると、前者のように考えるのも仕方ない面はあると思います。しかし是非とも、後者のように考えてもらえたらと感じます。

最近支援させて頂いている社長さんは、後者のようなお考えをお持ちでした。もともとのビジネスに加えて新しいビジネスに挑戦するために別会社を作りましたが、5年以上にわたって赤字経営でした。幾多の改善策を試し、昨年からの策がヒットして経営が上向きになった時、この波に乗る資金が不足するようになったのです。金融機関からは「債務超過を解消するまでは手持ち資金で頑張るように」と言われましたが、事業性を評価して融資してもらえるよう、計画書を作ってトライすることにしました。


企業が伝えたいことと金融機関が知りたいこと

事業性評価融資に向けた事業計画書作りをご支援する時に感じるのは「中小企業が伝えたいと思っていることと、金融機関が聞きたいと思っていることには違いがあるな」ということです。一般的に「企業は、技術の優秀性や製品の素晴らしさを訴えようとする。金融機関は、確実に返済してもらえるかどうかを知りたいと思っている」と言われており、その通りだと思います。但し、両者が全く違うベクトルだと思う必要はないと思います。両者を繋げることで、金融機関が知りたいことをしっかりと伝えながら、企業として訴えたいことを知ってもらうことができます。

ここで留意しておきたいのは、企業の「技術の優秀性や製品の素晴らしさを訴えたい」という願望はピンポイントであることが多いということです。金融機関の「確実に返済してもらえるかどうか」の疑問は、逆に総花的です。技術力や製品も、もちろん大切ですが、顧客の反応も同じくらい大切です。従業員や取引先などの協力体制が機能しないと、技術力や製品も絵に描いた餅に終わりかねません。そして、事業を継続できる業務体制や、事業のエネルギー源となる財務体質も重要です。現在の取組みが将来にどう繋がっていくかの展望も知りたいでしょう。これらを伝えてもらうことで、企業の事業性を評価することができるのです。


広範な関心事に積極的に取り組む

これらの要素を盛り込んだ事業計画書の作成をご支援するために、顧客の反応や従業員や取引先などの協力体制、業務体制、財務体質、将来展望などについて把握しておられなかったりビジョンをお持ちでなかったりすると、「今ここで考えましょう」とお勧めすることになります。その場合の社長さんの反応には、2種類あります。一方は「そんな面倒なことは不要ではないか」と思うタイプ、もう一方は「自社を見つめ直すのに、とても役に立つな。やってみよう」と思われるタイプです。

こういう捉え方の違いは、事業計画書を持って金融機関に赴き、担当者からの質問に答える時に、如実に出てきます。前者のような反応だった社長は、その場でも「またか」という表情をして、技術力や製品力を中心とした説明になりがちです。その他の、金融機関にとっては重要な情報については、うまく伝えることができません。一方で後者のような社長は、技術や製品以外の質問にも、時には喜んで返答されます。

先ほどの社長は、金融機関から「毎期、これほどの事業計画書を作成するのですか?」という質問に対して、「苦境にありながらも積極策に転じるためには特別な取組みが必要だと思って、今期初めて作成しました。計画書を作る過程で、いままでモヤモヤとしてきたことがはっきり見えるようになり、こうやってご説明できます」と答えました。金融機関も、こういう社長さんなら、事業性を評価した融資判断をしたいと思うのではないかと思います。

このように、一口に「事業性の評価」と言っても、企業の側と金融機関の側では、関心を持つポイントが異なります。多くの場合、金融機関は、企業が思っているよりもかなり広範囲の要素を検討したいと考えています。これに対応することにより、企業の側も、自らの企業力をより強化することができるようになるでしょう。
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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