著作権Q&A ~著作権の基本を解説します~

「映画の著作物」って何?著作者は著作権者じゃないの?

弁理士の著作権情報室

映画が好きな筆者は、年末が近づくと今年の“お正月映画”は何を観ようかとソワソワし出し、配給会社のホームページに掲載されているトレーラー(予告編の動画)や映画評論家のYouTubeチャンネルなどを観て、あれこれ吟味し、悶々とするのが恒例になっています。
ここで、「映画」とはいわゆる劇場等で上映する映画のことなのですが、私たちが日常用語として使う「映画」と著作権法が保護対象としている「映画の著作物」とは、指し示すものが異なります。
今回は、著作権法における「映画の著作物」とその「著作者」・「著作権者」の関係について
取り上げてみたいと思います。

「映画の著作物」って何?著作者は著作権者じゃないの?

「映画の著作物」の「著作者」について


次に、映画の著作物の「著作者」について、見ていきましょう。
著作権法では、「著作者」とは「著作物を創作する者」と定義されています。
そのうえで、「映画の著作物の著作者」については、原則「その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」と規定しています。
つまり、映画の「著作物を創作する者」とは、「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」であり、“モダン・オーサー”とも称され、具体的には、監督やプロデューサー等がこれに該当することとなります。

「映画の著作物」の「著作者」を敢えて定めている理由


劇場公開映画やテレビ番組だけでなく、近年は動画配信サービスにおいても大作と言われる映像作品が次々と制作されています。今も昔も、その制作工程においては多岐に渡る分野から多くのスタッフが関与するため、誰が著作者となるのかが問題となります。
そこで「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」とは、「一貫したイメージを持って映画制作の全体に参加している者が映画の著作者である」(著作権法逐条講義 加戸守行著)とし、円滑な市場の流通を阻害しないようにしたのです。

「映画の著作物」の「著作者」にならない人


映画の原作となった小説や脚本等の著作者や映画に使用された音楽等の著作者については、映画自体の著作者ではないとして除外されています。(こうした著作者は、“クラシカル・オーサー”として原著作物の著作者としての権利を有しています。)
また、部分的な創作寄与するにとどまる制作スタッフも著作者には含まれず、俳優や歌手等の出演者についても、たとえ創作性のある演技や歌唱をした場合であってもその映画の著作物の著作者には該当しません。(実演家は、著作隣接権によって保護されます。)

特例だらけ!?「映画の著作物」の著作権者


これまで、映画の著作者とは「全体的形成に創作的に寄与した者」であると述べてきました。
著作権法では、著作者は「著作者人格権」という精神的権利と「著作権」という財産的な権利を有する旨が定められていますので、著作者は著作権者になりうることとなります。
「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」は監督やプロデューサー等であるから、著作権も著作者である当該監督やプロデューサー等に帰属するようにも思えるのですが、以下のような規定が設けられています。

1)法人著作の場合


その映画の著作物が、いわゆる法人著作に該当する場合は、その従業員の属する映画会社やテレビ局等が著作者となります。具体例としては、テレビ局の社員がプロデューサーとして職務で番組を制作する場合が該当します。この場合、著作者は、当該プロデューサーの使用者であるテレビ局となり、著作権も、原始的に当該テレビ局に帰属することとなります。

2)著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の制作に参加することを約束した場合


前述の例のような法人著作に該当しない場合であっても、著作者である映画監督等が映画会社等の映画製作者と参加契約をした場合には、その映画の著作権は、当該映画製作者に原始的に帰属するものと規定されています。(※1)(※2)
ここで、著作権法では「映画製作者」とは「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」と定義されており、「法律上の権利・義務が帰属する主体であって経済的な収入・支出の主体になる者」(著作権法逐条講義 加戸守行著)であると解釈されています。
映画の著作権者について、このような特殊な例外規定が置かれたのは、①わが国が加盟するベルヌ条約上の義務を履行するためだけでなく、②従前から当時者間の契約により映画製作者に権利行使が委ねられ、③映画製作者が製作に巨額の費用をかけ、企業活動として製作し公表する特殊な性格の著作物であることなど、映画製作の目的・態様に鑑みてなるべく映画製作者を著作権者に一本化しようと考えたからです。

なお、財産権である著作権が映画製作者に帰属したとしても、精神的権利である著作者人格権はその映画の映画監督等が有することになりますので注意が必要です。

(※1) 専ら放送事業者・有線放送事業者が放送・有線放送のための技術的手段として製作する映画の著作物については、番組に係る必要な利用権のみ放送事業者・有線放送事業者に帰属されるべき権利であるとして、当規定からは除外されています。

(※2)「映画製作者に著作権が帰属する「映画の著作物」の対象は、上映されるフィルムに収録されたもの(編集過程においては編集中フィルムに収録されたもの)に限られる。」(著作権法コンメンタールI p.594 小倉秀夫・金井重彦編著)とされ、編集残フィルムの著作権は該当しません。また、完成に至らなかった映画の未編集フィルムについても、映画製作者に帰属せず、著作者に帰属したままであるとしています。(三沢市市勢映画事件)

以上、「映画の著作物」とその著作者、著作権者の関係についてざっと概観してきましたが、他の多くの著作物と異なった性質を持っていることが垣間見えたのではないかと思います。
今後のIOTの進展により、個人も含めた映像作品創作の機会が増え、「映画の著作物」がますます増えていくものと思われます。
保護される客体が何か、権利行使の主体は誰か、気をつけながら利用していきましょう。

令和4年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 臼井 正和

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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