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芸術・文化の著作権

美術鑑賞に関わる著作権

弁理士の著作権情報室

美術館に行くとオーディオガイドの貸し出しサービスがありますが、美術館に行ったときにオーディオガイドを借りる派でしょうか、それとも独自に絵画を楽しまれる派でしょうか。私はどちらの楽しみ方も好きです。

オーディオガイドの貸し出しサービスと言えば、ICレコーダーとヘッドホンが貸し出され、お目当ての絵画の横に掲示されている番号をICレコーダーに入力して解説を聞くというスタイルが一般的であったと思います。液晶がついているICレコーダーもあれば、液晶なしのICレコーダーもありますが、例えば液晶がついているICレコーダーではどのような著作権が関係してくるでしょうか。

美術鑑賞に関わる著作権

ICレコーダーによる解説


まずICレコーダーから絵画の音声解説を聞くことができます。音声解説は、言語の著作物と言えるでしょう。音声解説は、作品の名称、作者、作品の作られた時代背景の説明などをすると思います。これらは①事実自体だけを述べている時代背景の説明、②創作性を欠く時代背景の説明、③創作性のある時代背景の説明に整理することができます。例えば、音声解説の中で鑑賞の仕方まで言及があったとしましょう。この角度から見るとこのような印象を持つが、あの角度から見ると異なる印象に代わるなどのような解説者独自の解説があると、思想又は感情を創作的に表現しているので創作性があり、言語の著作物に該当すると思います。このような言語の著作物を音声で聞かせることは上演にあたります。また、ICレコーダーに録音されている音声解説を再生することは口述にもあたります。これら上演、口述については著作権を構成する支分権の一つとして保護されています。

また、ICレコーダーの液晶画面には、どの絵画について解説をしているのかわかりやすくするために作品の番号だけでなく作品の縮小画像を表示することがあります。もちろん、絵画自体は美術の著作物に該当します。一方、液晶画面に映されたこの作品の縮小画像は、どうでしょうか。少なくとも元の絵画の複製物に当たります。この複製する行為についても著作権を構成する支分権の一つとして保護されています。私たちの生活のすぐそばに著作権が関わっていて、身近に感じてもらえたのではないかと思います。

スマートフォンによる解説


近年、さらに著作権を身近に感じることが起きているようです。液晶画面付きのICレコーダーはスマートフォンに同じような機能があります。そして、そのスマートフォンについてはこんな数字が発表されています。令和5年度版の情報通信白書によれば2022年度における個人のスマートフォン保有率は77.3%となっています。このような時代背景があるせいか、美術館のオーディオガイドもスマホアプリに取って代わられる気配があります。

液晶画面付きのICレコーダーはスマートフォンに似ていますが、違いもあります。スマートフォンにはスマホアプリがあります。スマホアプリの仕様にも依りますがオーディオガイドとして機能する場合には絵画の縮小画像や関連動画を表示させながら解説を聞くことが可能になります。スマホアプリを介して絵画の解説を聞く場合にさらなる違いはあるのでしょうか。

まず、スマホアプリを使用する場合、下記の二通りの仕様がありそうです。

(1)スマホアプリをダウンロードする際に該当する展示会で展示される絵画の縮小画像や関連動画もまとめてダウンロードする仕様

(2)スマホアプリを予めダウンロードしておき、絵画の縮小画像や関連動画を絵画の横に掲示されている番号を入力する都度ばらばらにダウンロードする仕様です。

(1)のようにまとめてダウンロードすることは「展示著作物について自動公衆送信」することに該当します。この公衆送信も著作権を構成する支分権の一つとして保護されています。

一方、(2)のようにばらばらとダウンロードする場合、スマホアプリをダウンロードするだけでは絵画の縮小画像や関連動画をダウンロードすることにならないから「展示著作物について自動公衆送信」することには該当しないように思えます。ただ、この自動公衆送信にはかっこ書きがあり、送信可能化が含まれます。送信可能化とは何かと言いますと、何かしらのリクエストが来たら、絵画の縮小画像や関連動画をダウンロード可能な状態にすることですので、ダウンロードが現に行われていなくても送信可能化に該当します。この送信可能化も公衆送信の一態様として保護されています。

まとめ


絵画を音声ガイド付きで鑑賞するときは、美術の著作物、言語の著作物が関係してきて、上演権、口述権、複製権、公衆送信権といった著作権を構成する様々な支分権が関わってきます。絵画を楽しむことに集中していただきたいですが、こんな著作権が関係しているのかということに少しでも関心を持っていただけると弁理士として嬉しく思います。

令和5年度 日本弁理士会著作権委員会委員

委員 岡村 祥有

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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