日常生活の著作権

編み図の著作権

弁理士の著作権情報室

毛糸やレース糸で編み物をする場合、編み図という編み方を図解した図面を利用することが多くあります。編み図は、書籍として販売されていたり、インターネット上で無料で提供されていたり、有料でダウンロード販売されていたりします。

編み図を収録した書籍には、書籍に掲載された編み物作品の販売を禁止しますと書かれているものが見られます。提供された編み図を基に個人の方が制作した編み物作品を販売することは著作権法との関係ではどう考えればいいでしょうか。

「編み図」そのものの著作権


まず、編み図には著作権の保護が及ぶでしょうか。裁判例は否定的です。東京地判平成23年12月26日判例時報2159号121頁(控訴審・知財高判平成24年4月25日裁判所HP)は、原告が、自身の作成した編み図、編み物作品に依拠して類似した編み図、編み物を被告らが作成、制作したとして編み図及び編み物の複製権侵害を主張したのに対し、編み図について、原告の主張する独自の構成は抽象的アイデアであり、著作物性を欠くとした上で、原告編み図について美術の著作物にも図面の著作物にも当たらないと判示しました。

■この裁判例で問題となった原告の編み図(抜粋)

編み図の著作権

また、近年の裁判例である大阪高判令4年10月14日判例タイムズ1518号131頁も、この事件の知財高裁判決を引用し「編み物の編み目(スティッチ)は、毛糸によって小物又は衣類を作成するに当たっての技法のアイデア又はその技法により毛糸が編まれた編み物の最小構成単位にとどまるものであって、思想又は感情の表現とは認められないから、それ自体を著作物と認めることはでき」ないと判示しています。これらの裁判例からは、編み図そのものに著作権があるとは考えるのは困難であると思われます。

「編み物」作品の著作権


では、編み物の作品の著作権はどうでしょうか。衣服のデザインは、応用美術の問題と考えられますが、近時、応用美術についての著作権性については、実用目的に必要な構成と美的鑑賞の対象となる部分とが分離できる場合に美術の著作物となるという分離可能性説を採用する裁判例が続いており、編み物の作品についても著作物性があるとみるのは困難なように思われます。そうすると、現在の裁判例の枠組からは、編み図についても編み物についても著作物性が認められないということになり、したがって、書籍に記載された書籍掲載の編み図に基づいて制作された編み物作品の販売を禁止しますという注意書きは、著作権法からは意味がないものということになりそうです。

契約構成と設計図の議論


しかし、編み図について一切の保護がないという結論は妥当でしょうか。少なくともダウンロード販売の場合、ダウンロード販売の条件として、編み図に基づいて制作された編み物作品の販売を禁止する契約は有効であると考えられます。もっとも、書籍の場合にはそのような契約は困難です。

ここでは、設計図の議論についても参照すべきものと思われます。機械には著作物性がありませんが、機械の図面に著作物性を認められる場合があるかという議論です。彫刻を制作するに先立って彫刻の設計図を描いた場合、この設計図は図面の著作物と認められるべきであろうという議論がありますが(高林龍『標準著作権法 第5版』(有斐閣、2022年)64頁)、編み物は彫刻ではなく実用品であり著作物性のない機械と同様だとすると、機械の設計図に著作物性を認めるかどうかの議論が編み図の著作物性と似た問題であると思われます。

令和7年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士・弁護士 竹内 亮

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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