日常生活の著作権

料理のレシピに著作権はある? -創作料理の著作物性-

弁理士の著作権情報室

料理のレシピに著作権はある? -創作料理の著作物性-

はじめに


近時、プロの料理人ではない家庭の主婦や料理を趣味とするアマチュアの愛好家といった人が自らが創意工夫を凝らして考案した料理を、テレビ番組やユーチューブ、SNSで公開し、発信することが行われています。もちろん、これらの人々は、多くの人にその考案した料理を作り楽しみ、さらには改良を加えてよりよいものにしてもらいたいと思っているでしょう。しかし、例えば他人が全く同一のレシピをあたかも自らが創作したかのように公開、発信したり、レシピ集等に掲載、出版したりした場合には、そこまで許容する意図はないと思われます。このような場合にレシピ、さらには創作した料理を法的に保護する方法はあるのでしょうか?

レシピとは


レシピとは「料理などの調理法」(デジタル大辞泉)で、例えば「1.小麦粉100g、卵1個、砂糖50gをボウルに入れて泡立て器で混ぜ合わせる。2.これをフライパンに入れて弱火で2分間焼く。3.裏返して、さらに2分間焼く。4。皿に盛り、バターとシロップをのせる。」といったように材料と分量、作り方の手順を記述したものです。

レシピの著作物性


それでは創作した料理のレシピは著作権で保護できるでしょうか。レシピはこれらの料理の材料、分量、作り方の手順を記述、すなわち文章で「表現」したものです。著作権で保護されるためには、この表現に創作性を有することが必要です。一般的なレシピは、上記のように材料と分量、作り方の手順をありふれた方法で記述したにすぎませんから、通常「創作的に表現」したものとは認められないでしょう。したがって、料理のレシピは著作物と認められず、著作権により保護することはできないと考えられます。

レシピを文学的に表現したら?


ではレシピの書き方に工夫を凝らし文学的あるいは詩的な文章で記述したらどうでしょうか。そのような場合は、レシピであっても「創作的な表現」と認められる余地があります。しかし、著作権で保護されるのは、あくまで「表現」であり、「思想又は感情」、すなわち創作された料理方法ではありません。したがって、「創作的な表現」で記述されたレシピをそのまま複製したり、公衆送信(SNS等での発信)したりすることに対しては著作権が及びますが、レシピに記述された材料と分量、作り方の手順のみを抽出して、ありふれた書き方でリライトされたものには著作権は及びません。さらに、当該レシピに基づいて料理を作ったとしても、料理には著作権は及びません。

創作料理は著作権で保護できる?


さてレシピは著作権で保護できないとしても創作者が実質的に保護して欲しいのは、創作した料理そのものであると思われます。では創作料理は著作権で保護されるでしょうか。創作料理が著作権で保護されるためには、創作料理が著作物に該当する必要があります。著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」です。これを創作料理についてみると、たしかに新たに考案された料理や工夫を凝らした調理方法は、創作者の思想又は感情の発露といえることから創作性が認められるでしょう。としても、著作権で保護されるのは、思想又は感情そのものではなく、思想又は感情を「創作的に表現」したものです。創作料理の本質は、材料の選択や組合せ、分量、作り方の手順といった料理、調理の方法にあり、これはアイデアすなわち「思想又は感情」そのものにあたります。したがって、創作料理は著作物とは認められず著作権で保護することはできないと考えられます。なお、例えば芸術的な外観を有し、美的鑑賞に堪えうるような外観の料理を創作した場合には、料理であっても美術の著作物と認められる可能性はあります。しかしながら、その場合でも著作権により保護されるのはあくまで料理の芸術的な外観であって、料理、調理方法は保護されません(他人が同一の料理、調理方法により同一の味の異なる外観を有する料理を作ったとしても著作権の効力は及びません)。とすると、「表現」を保護する著作権は、そもそもアイデアである創作料理ないしそのレシピの保護には向いていないといえます。

では、特許は?


特許は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」を保護するもので、「思想の創作」すなわちアイデアを保護するものです。料理方法は、自然法則を利用した技術思想の創作に該当し得ると考えられますので、発明として特許により保護される可能性があります。しかし、特許による保護を受けるためには、公開前に出願し、審査を受け手、新規性・進歩性等の要件をみたして登録されることが必要です。したがって、かなりハードルが高いと思われます。

営業秘密(不正競争防止法)としてなら?


多くの人にその考案した料理を作り楽しみ、さらには改良を加えてよりよいものにしてもらいたいとの趣旨には反することになりますが、例えば秘伝のタレのように外部に開示せず、ノウハウとして保持すれば、不正競争防止法により保護される可能性があります。「営業秘密」として保護されるためには、「秘密として管理され」、「事業活動に有用な技術上・営業上の情報」であって、「公然と知られていないもの」であることが必要です。「秘密として管理され」とは、客観的に秘密として管理されていると認識できる状態にあることが必要で、例えばレシピ情報にマル秘表示を付し、開示者に秘密保持義務を課し、閲覧制限を設ける等することが必要です。

商標は?


商標とは、商品等の出所表示のための目印であり、料理名等を商標登録することにより、他人が同一又は類似の料理名を使用することを防止し、ブランド価値を向上させることができます。ただし、創作料理やレシピそのものを保護するものではなく、他人が同一内容の料理に別の名前を付けて販売・提供することに対しては、商標権の効力は及びません。

令和7年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 木村 達矢

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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