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IT関連の著作権

生成AIで出力したAIイラストが、著作権侵害になる場合は?

弁理士の著作権情報室

2024年2月28日に掲載の記事では、「AIイラストに著作権が発生するか」について、入門的に説明しました。

今回は、別の基礎的な論点として、AIイラストが、著作権侵害になるのはどういった場合か、入門的に説明したいと思います。

ところで、再掲となりますが、文化庁は令和5年6月に「AIと著作権」と題したセミナーを開催しました。その資料は下記サイトにて見ることができます。
AIと著作権」(PDF)

また、さらに様々な論点に対する考え方について、「AIと著作権に関する考え方について(素案)」が開示されています(令和6年1月15日(月)、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第6回))。なお、本稿執筆時点においては2月29日版が開示されました(第7回)。
AIと著作権に関する考え方について(素案) 」(PDF)


著作権侵害になる場合とは?


AIイラストの侵害判断については、基本的には、判断はこれまでの人が制作したイラストと変わらないとされています。
「AIを利用して生成した場合でも、その利用が著作権侵害となるかは、人がAIを利用せず絵を描いた等の場合と同様に判断されます。
(出典:文化庁 令和5年6月 「AIと著作権」)
ということで、まず「著作権侵害が成立する場合」をわかりやすく簡単な表現でまとめると、
 1.他人の著作物(著作権のあるイラスト等)に依拠して(よりどころとして)制作されたものであること
 2.AIイラストがその他人の著作物と類似していること
 3.私的使用など、無許諾での利用が法的に認められている利用態様でないこと
が要件となります。

ここからわかることですが、著作権法は「アイデア」「作風」や「事実」自体を保護するものではないので、たとえ「依拠」していても(参照して制作したものであっても)、「表現」が「類似」していなければ、権利侵害は成立しません。しかし、「表現が類似しているか(似ているか)」の判断は、機械的に定まるものではなく、地裁・高裁・最高裁で判断が異なったケースが存在しますし、専門家でも難しい場合があります。

また、仮に「類似」していたとしても、全くその著作物を知らずまた見たこともなく、自分で独自に創作したものであれば(偶然一致であれば)、依拠がなく侵害にはならないことになります。

また、私的使用の場合などは、依拠しておりかつ類似の創作物であっても、侵害が成立しません。しかし、このような場合は限られており、ウェブやSNSへの投稿は基本的に私的使用と認められないので注意が必要です。この点は、下記の記事が参考になるでしょう。
著作権侵害にならない「私的使用」の限界はどこか


AIイラストに特有の留意点はある?


前項では、判断は「人が制作したイラストと変わらない」と述べましたが、実は、一点、AIイラストに特有な論点があります。
それは、
「AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI 学習用データに当該著作物が含まれる場合」(出典:文化庁「AIと著作権に関する考え方について(素案)」)
です。

。。。ちょっと難しいですね。これは、先ほど述べた「依拠」に関するところです。これまでは、制作した「人」が全く知らずまた見たこともなく偶然一致であった場合は、侵害にならないとされていました。一方、生成AIは、生成者が全く想像もしなかったようなイラストを沢山出力してくれます。しかし、そのAIイラストが、そのAIが学習したことのある「イラスト」と似ているものであった時、どう考えるか?という話です。

今のところ、その著作物を「学習していた場合」には、依拠を認め侵害とするとする見解が強いようです。(ただし、司法判断はまだ出ていません。なお、日本弁理士会著作権委員会は、依拠性を認めることを排除しないが、完全に一律には認めるべきではないという報告書を作成しています。2月29日版の素案では、同趣旨の内容が素案に追加されました。詳しい紹介は、今後機会があれば記事にしたいと思います。)。

。。。見た方が早いですね。下記の写真風イラストを見て下さい。

生成AIで出力したAIイラストが、著作権侵害になる場合は?

これは、Stable Diffusion Demo2.1、単に「海から見た富士山の写真」と入力して出力されたものです。
私としては、このような写真を見たこともありませんし、どなたかの写真や絵に基づいて(依拠して)制作したものではありません。しかし、富士山の写真は膨大に学習されていると考えられます。、Stable Diffusionの技術的処理を考えれば、完全同一写真・絵等はないと想定されるのですが、ひょっとすると部分的にでも一致する、学習済み写真・絵があるのかもしれません。そうすると、私の知らない写真・絵に基づき依拠が認められ、この写真風画像が、(2月29日版の素案によれば反論の余地はあるかもしれませんが)著作権侵害となる可能性が生じる、ということになります。この点は、人が自分で制作した場合とは異なる点です。

注意点


このような事情に基づきますと、いくつか注意しなければならないことがあります。
・生成者の全く知らない絵・写真に基づいて、著作権侵害が成立する可能性があります(そのAIが生成したイラストが、学習済みの著作物に類似している場合。)。このため、利用する生成AIサービスの選択や、利用態様についてはよく気を付けましょう。ビジネスで使用したい場合や大々的に使用したい場合など、判断が必要になった場合には、弁理士などの専門家に聞いてみるなど、よく相談しましょう。
・「類似」しているか否かの判断は、容易でない場合があります。安易な判断は避け、判断が必要になった場合には、弁理士などの専門家に聞いてみるなど、相談しましょう。
・SNSやウェブへの投稿は、著作権が及ばない「私的使用のための複製」に該当しません。利用態様についてはよく気を付けましょう。

令和5年度 日本弁理士会著作権委員会委員長

弁理士 高橋 雅和

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

※ 著作権に関するご相談はお近くの弁理士まで(相談費用は事前にご確認ください)。
また、日本弁理士会各地域会の無料相談窓口でも相談を受け付けます。以下のHPからお申込みください。

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