出典の明示以外に必要なこと〜他人の著作物の適法な引用とは〜

先日投稿の「「出所を書けばOK」は誤解!SNS・コピペが違法引用になる境界線」では、SNSやブログなどウェブ上での引用の注意点を解説しましたが、本記事では、身近ながらも意外と誤解されがちな「出典の明示」と「適法な引用」の関係について、もう少し踏み込んで解説をしたいと思います。
出典の明示は適法な引用の要件ではない?
一般に、「引用」とは、「人の言葉や文章を、自分の話や文の中に引いて用いること。」を指すものとされます(デジタル大辞泉)。しかし、ここにいう人の言葉や文章、あるいは写真や絵画など、引用しようとする対象が他人の創作した「著作物」である場合、使い方によっては著作物の「利用」に該当することになり、著作権法に照らした検討が必要になります。
ここで、具体的に著作権法上の「引用」のお話に入る前に、よく見聞きする「出典の明示」について触れたいと思います。著作権法では、著作物を引用する場合には、「著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。」と定めています。
実は、ここでいう出典(出所)の明示は、特に「引用」について定められたルールではありません。これは、著作権法で定められている様々な他人の著作物利用の際のルールで、例えば、いわゆる教科書に小説を載せる場合や、視覚障害者のために点字で複製する場合など、著作権者の許諾を得ずに利用をする場合のいくつかの類型において明示が必要であるとされています。つまり、「出所明示」が引用固有のルールではないのです。
かたや、著作物の「引用」については、後述のように、別途適法となるための要件が定められています。その要件判断の中に出所明示が適切にされているかを織り込んで判断する裁判例も見受けられますが、出所明示が引用の直接的な要件ではない、ということは知っておいていただくと良いかと思われます。
このことから、「出典を明示」しさえすれば「適法な引用になる」というわけではない、ということがお分かりいただけるかと思います。
適法な引用とは
それでは、他人の著作物を「引用」した場合に、それが適法なものとなるにはどのような要件を満たす必要があるのでしょうか。知財高裁令和7年7月31日判決では、著作権法の条文に照らし、以下の要件を示しました。
<引用の要件>
① 利用される側が公表された著作物であること
② 当該著作物の利用が引用に該当すること
③ 当該引用が公正な慣行に合致すること
④ 当該引用が報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものであること
ここでポイントなのは、これらの4つの要件のいずれかを満たせば良いのではなく、全てを満たす必要があることです。もう少し詳しく見ていきましょう。
まず、未だ著作者が公表していない著作物を勝手に引用しようとしても適法な「引用」にはなりません。
また、引用する側の作品に接した一般人が、引用されている部分を認識し得ることが前提となりますので、利用される側の著作物が明瞭に区別でき、かつ利用する側が主で利用される側が従であるという主従関係が必要とされます。
そして、その引用が公正な慣行に合致し、あるいはこれが存在しない分野にあっては社会通念上相当な方法等によるものであることも求められるところ、著作物の出所が明示されていれば、公正な慣行・社会通念上相当な方法等の一要素として考慮されることになります。
加えて、その引用が引用の目的に照らして正当な範囲内かということも加味され、最終的に適法かどうかが判断されることになります。
このように、著作権法における「引用」が認められるための条件、つまり無断利用が違法の評価を受けないための条件というのは、ひょっとすると「出典を明示」しさえば良いと思われていた方からすると厳しすぎるよう映るかもしれません。しかし、著作権者の知らぬ間に無許諾で利用ができるというためには、著作物の保護と利用のバランスを取った判断が必要となりますので、自由に利用したい側と勝手に利用されたくない側のバランスを取るルールだとご理解いただくと良いかと思います。
出典の明示の位置付け
さて、以上見てきたように、出典の明示というのは、引用の要件のうちの3つ目「公正な慣行」に合致するかどうかの判断で加味されていることがわかりました。
したがって、冒頭お伝えのように、確かに「出所の明示」をしなければ引用が認められなくなるというほどの直接的な要件ではないものの、文章や写真・イラストなど、明示する慣行が存在するであろう分野においては、「出所の明示」をしなければ「公正な慣行」に合致していないとしてネガティブに評価される可能性が出てくるという意味で、重要な要素となります。
著作権法で例示されている著作物は、小説、脚本、論文、講演、音楽、舞踊、絵画、映画、写真など多岐に亘り、他にも様々な著作物が日々生み出されているわけですが、こうした多彩な著作物を「引用」により利用をしたいという場合には、その分野でどのような慣行があるかを把握した上で、およそ妥当であろうという判断のもと、適切な出所明示を行うということが重要になってきます。
出典の書き方
それでは、出所明示をする際にどのように表示をすることが望ましいのでしょうか。前述のように著作物の分野によって慣行は異なるため、具体的にこうしなければならないというルールは存在しません。しかし、例えばセミナー資料などにウェブサイトのキャプチャ画像を引用しようとする場合、その引用した直後に、ウェブサイト名、URL、運営者名を列記するということは比較的よく見かける手法で、この種の引用の場合には概ね妥当するものと考えられます。
あるいは、Xなどのソーシャルメディアで引用しようという場合、最低限「引用元」としてURLを示すだけでも公正な慣行に該当すると認められることもあります(東京地裁令和7年12月25日判決参照)。ただし、媒体に応じて如何なる明示が公正な慣行に合致するかはケースバイケースですので、常に引用元としてURLを載せさえすれば良いとまでは言い切れませんので注意が必要です。
これらの他、例えば文章中で引用を示す場合には、著者名、書籍名、版、出版年、出版社名、該当頁といった、引用箇所を特定できる情報を括弧書きで示すといったやり方が良いでしょう。
安心して「引用」するために
このように、ひとくちに「引用」といっても考慮すべき事柄は少なくなく、単に「出典を明示」すれば良いというものではありません。
特にウェブ媒体は手軽に投稿でき多くの人の目に触れやすい反面、他者からの批判にも晒されやすく、ともすれば炎上にも繋がりかねません。
また、セミナー資料や書籍・論文の執筆などでも他人の著作物を引用したいという場面は多々あることでしょう。
こうした場合に、例えば周りの人もやっている、あるいはネット上のマナーとしては許容できるようなものであったとしても、適法な「引用」でなければ、法的には著作権侵害だという評価を受けることにもなりかねません。営利・非営利の目的を問わず、著作権法に照らした引用のルールに気を配ることが大切です。
なお、弁理士の著作権情報室では、他にも「引用」に関する記事を掲載しています。同じ「引用」をテーマにするものですが、いずれも執筆者や観点が異なるものですので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
・引用するときに翻訳したり要約しても著作権侵害になりませんか?
・~研究論文に記載されたデータの「引用」について~
・著作権のルール 引用について
令和8年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 伊藤 大地
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