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NFTアートと著作権

弁理士の著作権情報室

私も、お客様のご相談に乗っている時や経営者仲間とビジネスの話をしているときに、NFTについて質問されることが多くなってきました。

特にご質問が多いのは、NFTアートと著作権の関係についてです。

正直、このテーマに関しては、すでにインターネット上でもいくつも優れた記事が存在します。一からきっちり法律論を説明している記事もたくさんあるかと思います。

そんな中で、この記事では、一般的な法律論というよりも、もっと実際にNFTを利用してデジタルデータを販売しようと考えている方の視点に立って、ビジネスで役に立つ情報を提供できればと思って書きました。

NFTアートと著作権

NFTと著作権は全く違うもの


まず、大前提の話をしますと、当然のことながら、NFTと著作権は、全く違うものです。

ただ、インターネット上の記事などを見ますと、NFTのことを大雑把に「デジタル画像などのコピーを禁止する技術」と説明するものも見受けられますので、そうすると、著作権(英語ではcopyright。すなわち、コピーを制限する権利)とNFTはよく似たものに見えてくるかもしれません。

NFTとはデジタルデータが正規品であることを示す証明書のようなもの


念の為、NFTとは何かについて、ごくごく簡単におさらいしておきましょう。

ご存知の方も多いと思いますが、NFTとは「非代替性トークン(Non-Fungible Token)」の略称です。つまり、NFTとは、「トークン(token)」の一種と言えます。

それでは、「トークン(token)」とは何でしょうか。
「トークン(token)」という言葉は、仮想通貨などの分野の専門用語として使用されているので、ブロックチェーンなどの技術がわからないと、少し難しく感じるかもしれません。
しかし、実は、「token」という言葉は、仮想通貨などの分野でだけ使われる言葉ではなく、昔から存在する英語です。英和辞典を引くと、「証拠」とか「真正性を示すもの」という訳語が載っています。

以上のような、元々の「token」の意味を踏まえた上で、NFTとは何かを分かりやすく、例えを用いて説明するならば、「NFTとは、デジタルデータを購入した時についてくる、正規品であることの証明書のようなもの」といえると思います。

さらに、より具体的に例えるならば、絵画を買った時についてくる「作品証明書」とか、ロレックスの時計とかを買った時についてくるシリアル番号付きの「国際保証書」をイメージすると分かりやすいかもしれません。

「NFTはコピーできない」というのは、証明書がコピーできないという意味


さて、よく「NFTはブロックチェーン状に刻まれているのでコピーできない」というフレーズを聞くと思いますが、これは、文字通り、「トークン(証明書)がコピー」できないという意味です。

デジタルデータ(例えば、イメージデータ)自体がコピーできないわけではありませんので、誤解しないように注意が必要です。

証明書のコピーを防止するのがNFT。デジタルデータのコピーを防止するのが著作権


NFTとは、デジタルデータが正規品であることの「証明書のコピー」を防止する技術です。

それに対し、著作権は、「デジタルデータそのもののコピー」を禁止する法律上の権利です。

こうやって整理すると、両者の役割が全く違うことがわかると思います。

そして、今回のテーマのNFTアートというのは、ブロックチェーンを用いた複製不可能な証明書がついたデジタルアートのことです。

なぜ著作権があるのに、NFTが注目されているのか


ところで、ちまたでは、「NFTが注目されている理由」について、「デジタルデータの所有者を明確にできる」といった説明がされています。

しかし、そもそも、デジタルデータには著作権(複製を禁止する権利)があり、勝手にコピーされることはないはずなのに、なぜ、所有者が不明確になるのでしょうか。
それは、法律上はコピーすることが禁止されていても、現実的にはデジタルデータのコピーを防止することが非常に難しいことが、もはや社会の常識になってしまったからだと考えられます。

そんな中、なんとかデジタルデータに価値を持たせたいと考えた人が、「トークン(証明書)」つきのデジタルデータを作れば、その「トークン(証明書)」の希少性により付加価値がついて、通常より高く売れるのではないか・・・というアイディアを思いついたのだと思います。

この作戦を初めて思いついたのが誰なのかはわかりませんが、おそらく、当初は、本当に証明書をつけるだけでデジタルデータの付加価値が付くのか、半信半疑だったのではないでしょうか。
しかし、この、「証明書付きデジタルデータ」という新商品のアイディアは、思いのほか希少価値を求める人間心理を揺さぶることがわかってきました。そして、現在では、NFTアートは非常に注目を浴びる分野になっています。

NFTにとって最重要な希少性を確保する方法


上述の通り、NFTとは人間の「希少性」を求める願望を満たすためのものですから、NFTが有効に働くには、ユーザーに希少性を感じてもらわなくてはなりません。

希少性を確保するために、一般的には、NFTアートの販売数を数量限定にするといった方法が取られています。

さらに希少性を高める方法として、NFTアート購入者しか作品を見ることができないようにする販売方法も見受けられます。例えば、販売するときは見本だけ公開して、本物は、NFTアート購入者にだけデータを渡すといった方法です。これはなかなか面白い方法で、NFTに希少性を持たせることに加えて、デジタルデータ自体にも希少性を持たせて、さらに付加価値を増す手法だと考えられます。

NFTアートにとっても著作権が重要な理由


上述の通り、もともとNFTアートというのは、デジタル分野においては著作権による複製防止の効果がいまいち発揮されづらいことを前提にして生まれたものだと考えられます。

しかし、私は、NFTアートにとっても著作権はかなり重要な権利になると考えています。
なぜかというと、いくらNFTで正規品である保証を得ていたとしても、その後あまりにコピー品が出回ったら、その希少性による満足度も低減してしまう可能性があるためです。

例えるならば、極めて精巧なロレックスの模倣品がたくさん世の中に出回れば、いくら偽物とはいえ正規品のロレックスの価値にも影響が出てしまうのと同じと考えられます。

そうすると、NFTアートを販売する際に、誰が著作権を持つのか、どのように権利を行使するのかは非常に重要です。
例えば、NFTアートを購入した人は、一点もの(1名限定販売)とかでない限りは、その作品の著作権は譲り受けていないのが通常だと思います。その場合、購入者には著作権がありませんので、購入後にその作品のコピーがどれだけ出回ったとしても、著作権に基づいてそれを差し止めることはできません。
したがって、もし自分がNFTアートを購入したのちにコピーが出回ることを防止したいと思う場合は、著作権者(多くの場合はデジタルアートを創作した人)に頼るしかありません。あらかじめ著作権者と契約を結んで、そのようなコピーが出回らないようしっかり著作権を行使してもらうことも考えられます。

NFTアートは著作権侵害による損害賠償請求がしやすい?


アーティストの方が自分の作品をNFTアートとして販売する最大のメリットは、先ほども記載したように、NFTにより希少性を出して付加価値を高め、同じ作品でも高く売れることです。

これに加えて、私は、NFTアートには、「著作権侵害による損害賠償請求がしやすい」というメリットもあるのではないかと考えています。

例えば、10万円でNFTアートを販売している人がいるとします。そして、NFTアートを購入した人にだけ、そのデジタルアートを自分のウェブサイトなどに掲載することを許可する契約をしていました。
今、このデジタルアートを勝手にコピーして自社サイトに掲載した人がいたので、著作権侵害で訴訟を起こしたとします。この時、損害賠償請求をしたら、いくらの賠償金を得ることができるでしょうか。
前提として、損害賠償請求をするには、損害額の証明が必要なのですが、NFTアートの場合、この証明は比較的簡単にできそうに思います。
例えば、本件の場合、通常、10万円を支払わなくてはそのデジタルアートを自社サイトに掲載することはできないのですから、少なくとも、10万円の損害賠償請求が認められる可能性が高いのではないかと考えられます。

NFTアートの分野では、判例の蓄積がないため確かなことはいえず、上記は私の推測に過ぎないことをご了承ください。
ただし、参考になる判例として、アマナイメージズ事件(東京地裁2015年4月15日判決、事件番号:平成26年(ワ)24391号)があります。
この事件は、デジタル素材サイトのアマナイメージズが有償で利用の許諾をしている写真素材を、許可なく自社サイトに使った人に対し、損害賠償が命じられた事件です。
この判例では、アマナイメージズが設定した正規の利用料金である1作品43200円を基準として損害額を算出しています(その他、弁護士費用などの損害も少し認められました)。
*詳細本「弁理士の著作権情報室」の「判例から学ぶ!著作権の注意点」の記事「ウエブを作成するときに気を付けた方が良いこと~知らなかったではすまされません!アマナイメージズ事件~」を参照 
デジタルアートに関する著作権侵害が絶えない一つの理由として、著作権侵害者に対して訴訟を起こしたくても、勝訴したところで経済的に割に合わない場合が多いという事情があると思います。
また、そもそも、損害額の立証が難しいため、どれだけの賠償金が得られるかがわからないという事情もあります。

しかし、NFTアートとして高値で販売していた場合、損害額の立証は、比較的しやすいように思えますし、高額商品であれば、裁判費用に見合うだけの損害賠償を得られるケースも増えるのではないかと思われます。
今後の判例に注目していきたいところです。

令和3年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 井上 暁彦

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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また、日本弁理士会各地域会の無料相談窓口でも相談を受け付けます。以下のHPからお申込みください。

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