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教育・書籍の著作権

中学校の教師をしています。オンライン上の授業をすることが多くなったのですが、著作権法上の留意事項について教えて下さい。

弁理士の著作権情報室

コロナ禍の中、オンラインでの授業を行うことが多くなった先生方が多数おられると思います。学校の教室で生徒の前で教科書を使って授業を行っていたときとは違い、Zoomなどのオンライン会議ツールを使って、教材を画面共有やメール送信したり、また授業そのものを録画し、後で生徒が自宅で視聴するというような機会が新たに登場してきた訳ですが、このようなオンラインによる授業の実施と著作権法との関係はどのようになっているのでしょうか?授業を行う先生や学校として注意しておく点は何でしょうか?今回はその点について少し考えてみたいと思います。

中学校の教師をしています。オンライン上の授業をすることが多くなったのですが、著作権法上の留意事項について教えて下さい。

著作権法35条(学校その他の教育機関における複製等)


本来、著作物の利用については著作権者の許諾が必要ですが、「学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者」は、「その授業の過程における利用に供することを目的とする場合」には、「その必要と認められる限度において」、「公表された著作物を複製、公衆送信、公に伝達」をすることができます(著作権法35条1項)。

この35条は教育の情報化に対応するために平成30年に大幅な改正が行われ、それによって、従来は著作権者の許諾が必要であった様々な利用形態について許諾なしに行うことができるようになりました。具体的には、対面授業の予習・復習用の資料のメール送信、対面授業で使用する資料の外部サーバ経由での送信、スタジオ型のリアルタイム配信授業やオンデマンド授業での講義映像や資料の送信などです(文化庁著作権課法改正説明資料(令和2年4月))(なお、対面授業で使用した資料や講義映像を遠隔合同授業等(同時中継)で他の会場に送信することは、従来より許されていました。)

この改正により、非営利の学校において教師が行うオンラインで行う授業については、授業に必要と認められる限度で、著作権者の利益を不当に害する場合でない限りかなりのことが可能となったと言えます。

授業目的公衆送信補償金制度


ただし、上述の法改正で新たに著作権者の許諾なしに利用できることとなった行為については、その利用に当たり、著作権者に対して補償金を支払う必要があります(35条2項)。オンラインを介した授業の実施に当たっては何でも無条件に可能という訳ではないのです。

しかし、この場合、補償金の支払いは個別の教師ではなく、「教育機関を設置する者」(学校や自治体)なので、個別の教師に支払義務が生じる訳ではありません。逆に言うと、個別の教師がオンライン授業の実施に当たって必要な補償金の支払いを、学校や自治体が代わりに支払っているのです。この仕組みを「授業目的公衆送信補償金制度」と言います。

この補償金の額は、著作物等の種類、授業目的公衆送信の回数にかかわらず、1人当たりの年間補償金額に補償金算定対象者の総数を掛け合わせて算出することになっており、1人当たり年間補償金額は小学校で120円、中学校180円、高校420円、大学720円と決められています(授業目的公衆送信補償金規程)。この補償金を学校や自治体が、補償金をとりまとめる管理団体(一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS))に支払い、そこから分野毎の著作権管理団体を経由して著作権者へ分配する仕組みになっています。蛇足ですが、この補償金総額は2021年度分が約48億円で、このうち基金や手数料を除いた約34億円が今後権利者に分配されるそうです。 


「教育著作権フォーラム」と「改正著作権法第35条運用指針」


このように、学校の先生が通常の授業をオンラインで行う場合、著作権法上の問題はほぼクリアされていると思われますが、オンライン授業の形態は今後もいろいろと変わっていく可能性はありますし、また、通常の授業以外の学校活動などはどのように扱われるのかというような論点もあります。このような問題を考えるため、35条改正がされたときに、「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」(教育著作権フォーラム)が設置されました。(https://forum.sartras.or.jp/

このフォーラムでは、教育関係者、有識者、権利者による意見交換、協議を随時行い、改正35条を運用する際に使用する用語の定義や考え方などに関して、共通認識が得られたものを随時公表しています。現在、2021年度版というのが公表されています。

この中では、例えば、初等中等教育での授業の例として、(1)そもそも許諾不要で無償で著作物を利用できる(2)許諾不要で利用できるが、補償金支払いが必要(3)著作権者の許諾が必要(必要と認められる限度を超える、著作権者の利益を不当に害するもの)というようなカテゴリー毎の具体例が掲載されています。

(3)の例(公衆送信関係)としては、①漢字ドリルを児童に購入させず、学校や教員が持っている漢字ドリルをスキャンして、児童に宿題としてメールで送信する②出版物の一部を、授業の都度スキャンして生徒に予習の教材として複数回、電子ファイルでメール送信し、その結果、その出版物の多くの部分を送信する③様々な分野に関するTV番組を授業で自由に使えるようにするため、継続的に録画し、クラウド・サーバにアップロードして蓄積し、ライブラリ化しておく、など、気が付かないうちにうっかりとしてしまうかもしれないものが掲載されていますので、参考になると思います。

また、「授業」についても、講義、実習などに加え、学級活動、クラブ活動、学校行事などは該当しますが、入学志願者に対する学校説明会や教職員会議、学校で行われる自治会主催の講演会やPTA主催の親子向け講座のように「教育機関の責任において、その管理下で教育を担任する者が学習者に対して実施する教育活動」(改正著作権法第35条運用指針p7)とは言えないものは対象外になってしまうため、注意が必要です。

今後、教育の現場においてもDX(デジタルトランスフォーメーション)化が進められていくことを踏まえれば、このようなフォーラムでの様々な議論の方向性を、学校はもちろんのこと、教員一人一人も注視していく必要がありそうです。

令和4年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 篠崎 資志

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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