株式会社 Camphor Tree(カンファー・ツリー) 代表取締役・弁護士   佐藤聖喜

スタートアップのセカンダリー取引に注力

スタートアップの小粒上場が問題視される中、M&A(合併・買収)関連ビジネスを手掛けるCamphor Tree(カンファー・ツリー) は、未上場株式を流動化させるセカンダリー(2次流通)取引に注目、上場を迫らず長期の成長を促す株主を探し出し入れ替えるビジネスに力を入れている。長期投資家にとって、事業規模を大きくしてから上場させたほうが大きなリターン(投資収益)を獲得できると期待。スタートアップもじっくりと事業拡大に取り組むことで成長を加速できる。代表取締役で弁護士の佐藤聖喜氏は「長期目線による投資で企業価値を高めることができればセカンダリー株主、スタートアップともに得られる果実は大きい」と言う。

――セカンダリー取引に注目する理由は
スタートアップに投資したベンチャーキャピタル(VC)は早期の資金回収を目指す。そのファンドの運用期限は10年程度が目安とされ、多くはIPO(新規株式公開)で回収を狙う。しかし、償還期限内でのIPOに至らない投資先も出てくる。VCにとって塩漬け状態となるわけで、早期の売却機会を失うことになり、もったいない。そこで新たな出口戦略として考えられるのが第三者への株式譲渡だ。いわゆるセカンダリー取引で、これにより既存株主は投資資金を回収する。我々はそのための新たな株主を探索・選定する。新旧株主をつなぐ橋渡し役といえ、大きく力を入れていく。
――それだけのニーズがあるというわけか
償還期限内に上場できなくても会社として潰れているわけではない。(革新的な技術開発に挑む)ディープテックはそもそも事業化まで長期間を要するため、償還期限10年での上場が難しいだけで有している技術は先進的だ。セカンダリー取引によって新たな株主となったVCや事業会社のもとで、成長に必要な資金と時間をもらえば飛躍的な成長を目指せる。企業価値が高まれば新規株主は売却して利益を得られる。
――なぜセカンダリー取引への需要が高まっているのか
2016年ごろからスタートアップに投資するVCのファンドが増えた。VCは投資回収時期を迎えるわけだが、上場が難しい投資先は少なくない。このためVCから出口戦略について相談を受けることは多いし、我々から話を持ち掛けると「よく聞いてくれた」と喜ばれる。というのは、塩漬けのスタートアップに対し、VCファンドに資金を預けた投資家から「償還のタイムリミット」と圧(プレッシャー)がかかるからだ。セカンダリー市場が整備されると、VCはディープテックにも安心して投資できる。
――セカンダリー取引は活発なのか
日本は今、黎明期といえる。(時価総額が少ない)小粒上場が問題なのは、VCが投資資金を回収できないからだ。セカンダリー取引が活発になると、その心配も解消できる。新たな株主も長期で成長させてユニコーン(評価額が10億ドル以上の未上場企業)で上場という絵を描ける。米国はセカンダリー取引が充実しており、VCはディープテックへの投資を躊躇しない。ディープテックに資金が流れるのでゲームチェンジャーになれる。イノベーションも起きる。
――ディープテックはセカンダリー取引を生かしたい
ディープテックは償還10年での上場は困難だが、事業化にたどり着けば企業価値が大きく跳ねる可能性がある。だからこそ上場を急かさない新規株主からリスクマネーを得られれば再成長の可能性は高まる。米国のような流れは日本にも間違いなく起きる。世界で戦えるディープテックが誕生すれば日本経済に大きなインパクトを与えられる。生かさない手はない。
――事業会社もセカンダリー取引に期待しているのか
自前主義の限界を知る事業会社はオープンイノベーションの必要性を認識しており、セカンダリー取引はその一環になると気づき始めた。このため、自社に必要な技術とそれを生み出した人材を持つスタートアップの囲い込みに乗り出した。自前技術とのマッチングによる相乗効果を狙ったり、スタートアップが持つ技術をそのまま受け入れて事業化を図ったりしている。成長性が見込めれば連携して大きく育てる考えだ。株式を保有することで自分事になるので実効性に本腰を入れる。一方のスタートアップも事業会社の傘下に入ることで、そこが抱える優秀な人材、豊富な資金、最新鋭設備を使える。これにより技術を進化させることができる。
――ビジネスとしての手応えは
東京証券取引所は小粒上場を抑制するためグロース市場の上場基準を強化。上場から5年で時価総額が100億円に達しない企業は上場廃止になる。(現状は「10年後に時価総額40億円以上」)。小さく生んでも大きくならないのがグロースの課題だが、上場が厳しくなるとVCの投資回収も難しくなる。このため、今後はセカンダリー取引により長期目線で育てて大きくしてから上場するのが主流になる。案件も動いており、これから忙しくなるので自己資金で増資し、人員もここ1、2年で20人に増やす(現状は8人)。足りない技術系人材を採りにいく。M&A仲介事業者では複雑な法律が絡むためなかなか参入できないビジネスであり、参入障壁は高いと思っている。

佐藤 聖喜(さとう せいき)
株式会社 Camphor Tree 代表取締役
弁護士法人 千代田中央法律事務所 代表弁護士

京都大学経済学部卒業、同経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格。最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。
長島大野常松法律事務所を経て、千代田中央法律事務所を開設。
独立行政法人中小企業基盤整備機構において国際化支援アドバイザーを担う。
その後、スタートアップ・事業承継・成長戦略型のM&A業務、資金調達・資本政策支援に特化した株式会社Camphor Treeを創業。
主な案件実績として、国内上場企業の組織再編支援、IPOに際して主幹事である大手証券会社の立場からの法務デューデリジェンス等の大型M&A・組織再編支援のほか、SaaS、ITベンチャー、製造業、建設業等の幅広い業種のM&A・資本提携や、スタートアップの資本政策・出口戦略を担当。その他、弁護士として数多くの事業再生型M&Aを担う。

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