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障がい者の「自律」と「共生」に取り組み創立10周年

3月9日、システムキッチン大手クリナップの特例子会社クリナップハートフル(東京都荒川区)は、同区内にあるホテルラングウッドで創立10周年の記念式典を実施した。

2008年2月8日に設立された同社は、同年3月7日に障がい者の雇用に特化した特例子会社として認定されている。社員数は60人で、うち障がい者は40名(2018年4月1日現在)。

各社員は、給与計算係(月次給与・賞与計算、社会保険・労働保険手続等)、事業推進係(グループ社員の名刺作成、各種データ入力等)、施設管理係(クリナップ本社や関係会社ビルの清掃等)、フードサービス係(「クリ夫のパン屋」の運営等)の各部門で、それぞれの能力を活かして働いている。

システムキッチン大手のクリナップの特例子会社・クリナップハートフルの創立10周年記念式典で、勤続10年および5年の社員がそれぞれ4名表彰された。 システムキッチン大手のクリナップの
特例子会社・クリナップハートフルの
創立10周年記念式典で、
勤続10年および5年の社員が
それぞれ4名表彰された。

式典には、クリナップハートフルの社員および歴代社長を始め、同社設立に尽力したクリナップ本社社員など約70名が出席。現社長(4代目)の井上泰延代表取締役は社員を代表し挨拶し、パラリンピック発祥の地であるイギリスでは、2012年に開催されたロンドンオリンピック・パラリンピックの成功に向けて、2010年頃からハード面およびソフト面の整備に取り組んだ結果、障がい者に対する英国民の理解が大きく進んだ事例を紹介。

「ロンドンでは、パラリンピックを機に、障がい者が職を得やすくなり、障がい者の存在がより尊重されるようになったのです。日本でも2020年の東京オリンピック・パラリンピックを2年後に控えた今年4月から障がい者の法定雇用率が引き上げられます。その意味で2018年は、日本でも障がいを持つ人への目線が変わり始める1年になるでしょう。それを踏まえ、(障がい者は)社会に生きる1人の人間としての責任を自覚しなければならないという心構えを持っていただきたい」と述べた。

また式典では、勤続10年および5年の社員がそれぞれ4名表彰された。式典の模様を写真に撮影したのも、手話通訳を担当したのも、障がいを持つクリナップハートフルの社員たちだ。

障がい者と共に創り上げる街の繁盛店

創立10周年を迎えたクリナップハートフルが目指すのは、障がいを持つ人の雇用創出を通じて社会・地域に貢献すること。

たとえば同社の施設管理係では、クリナップ本社に加え、同社製キッチンやバスルーム等の水回りの設置・メンテナンス等を手がけるクリナップテクノサービス(埼玉県草加市)の清掃作業を行うほか、荒川区内の施設や公園の清掃作業も創立以来続けており、区から定期的に外販収入を得ている。東京都荒川区は、クリナップが本社を置くグループ創業の地だ。

2016年には新事業のフードサービス係を立ち上げ、同11月には「クリ夫のパン屋」も本社近くの住宅街にオープン。地元商店街の焼きたてパン店が数年前に閉店したことから、「地域の人々に、また焼きたてのパンを食べてもらいたい」という思いを込めて、地元密着の社会貢献を目指す。フードサービスは、同社がいま最も注力している事業だ。

「クリ夫のパン屋」の従業員は、パートを含めて合計10人。

そのうち障がいを持つ社員は3人で、販売データ等の入力や、クリナップの公式キャラクター「クリ夫」をあしらったオリジナルの紙手提げ袋の製作、後述の新商品「クリ夫のクッキー」の袋詰めを行うシーラー作業などを担当。シーラー担当の野口雅晶社員は作業が早くて正確で、1日に約200袋のシーラー作業をこなす日もあるという。

同社のフードサービス係は、クリップ本社近くの住宅街にある「クリ夫のパン屋」を運営。地元の顧客に愛される街の繁盛店を目指す。 同社のフードサービス係は、
クリップ本社近くの住宅街にある
「クリ夫のパン屋」を運営。
地元の顧客に愛される街の繁盛店を目指す。

「最初は店舗オペレーションをどう進めるかいいか迷った部分もありますが『ここは君、ここはあなた』と責任の範囲を分担することで、障がいを持つ社員たちも作業に慣れ、自信がついてきたと思います。昨年1年間で、安定した運営の土台を築くことができた」と、「クリ夫のパン屋」の金子久美店長は話す。

ホイップクリームと粒あんが醸し出す食感が人気の「くり夫のあんぱん」を始めとする定番商品も売れているが、塩バターパンも「ここが一番おいしい」と地域の顧客に評判だ。

また、年配の顧客にも人気のごま団子などの新メニューの開発にも余念がない。

隠れた人気のソフトクリームの仕入れ先は、地域企業との連携を進めている。店員が腕前を競うオリジナルの日替わりスープなど、同店ならではの名物も加わった。

地域に根差し、地域の顧客の支持を得るための努力も結び始めている。同店は開店以来、地元の商工会の祭りや小学校のイベントなどにも積極的に参加し、地域住民との交流を深めてきた。「今年度も4半期に1度は地域のイベントに参加し、コミュニティの輪をひろげていきたい」と金子店長はいう。

その一方で、2017年11月にオープン1周年を記念して実施し好評を得た「焼きたてワッフル店頭販売」のように、「クリ夫のパン屋」みずからの企画や情報発信にも積極的に取り組み、売上向上につないでいく考えだ。

新商品のクッキーは、障がい者雇用への理解を広げる「媒体」

2017年11月に「クリ夫のパン屋」オープン1周年を記念して行われた「焼きたてワッフル店頭販売」。 2017年11月に
「クリ夫のパン屋」オープン1周年を
記念して行われた
「焼きたてワッフル店頭販売」。

さらに2018年1月、「クリ夫のパン屋」では新商品「クリ夫のクッキー」の出荷を開始。4個入りx4袋セットで1箱500円(税抜)。チョコチップ、ココナッツ、アーモンドチョコ、ココアの4つの風味を楽しめる。

当面は、全国に124カ所あるクリナップ営業所に向けて販売し、ショールームを訪れる顧客へのノベルティなどに利用してもらう。

「まずはクッキーという媒体を通じて、当社が手がけていることをグループ内に認知してもらいことが大事。その中で全国の営業所を通じて(クッキーを手に取る)お客様に認知が広がり、お客様から当社に声がかかるようになれば、最終的にBtoCの形でクッキーの外販が事業として成立していくと思います」と井上社長。

「クリ夫のクッキー」のパッケージには、クリナップハートフルの理念がこう書かれている。

― 障がい者の「自律」と「共生」を目指して ―

「クリ夫のパン屋」は障がいを持つ社員が元気に働く、クリナップハートフル(株)が運営しています。2008年にクリナップ(株)の特例子会社として事業を開始したクリナップハートフル(株)は、障がいを持つ社員が社会的に「自律」できる会社、健常者と障がいを持つ社員が、地域社会と「共生」し、心のこもった価値を「創造」する会社を目指しています。

つまり「クリ夫のクッキー」は、障がい者の「自律」と「共生」への理解を、クリナップグループ内から社会に広げていくための「媒体」なのだ。

人材育成と能力を軸に業容拡大を目指す

現在、クリナップハートフルが行っている事業の9割以上がグループ内受託のため、同社は外販比率の向上を目指している。

たとえば事業推進係の名刺チームが行っている名刺作成業務は、以前は外部からも請け負っていたが、増大するグループ内需要への対応に集中するため外販を一時中止していた。同社では名刺チームの体制を整備し、外部からの受注をしたい考えだ。

「そのために不可欠なのが人材の育成です」と井上社長はいう。同社ではこれまでスペシャリストの育成に力を入れてきたが、能力の高い人に仕事が集中する属人化が進んできたのも事実で、今後はジョブローテーションも活用しながら、チームとしての生産性を向上させたうえで販路開拓に取り組み、外販比率を高めていく。

こうした業容の拡大と事業の多角化を進めていくうえで、「人への投資」が大きなポイントになるのは、一般の会社でも特例子会社でも変わりはない。同社では今後、社員を対象に、手話や食品衛生管理者などの公的資格の取得を支援および補助を行っていく。

また社内で働く障がい者をケアする指導員にも「ジョブコーチ(職場適応援助者)」などの資格取得の支援および補助を行い、クリナップハートフルで働く障がい者および健常者1人ひとりの力を高めていく考えだ。

もう一つ、人材の獲得も大きな課題。

今年4月1日から、民間企業における障がい者の法定雇用率が2.0%から2.2%となり、さらに2021年4月までに、2.3%に引き上げられることが決まっている。そのため、特定子会社は障がい者の採用者数を増やす必要があり、すでに人材の獲得競争が始まっている。同社では、特別支援学校および障がい者職業能力開発校などの職業訓練施設に足繁く通い、採用活動に力を入れていく。

「将来的には、クリナップグループの行動理念である『心豊かな食・住文化の創造』に関わる事業を手がけたい」と、井上社長は将来の展望を語る。

そこには、特定子会社の同社で働く障がい者を持つ社員たちに、クリナップグループが「家族の笑顔を創ります」という企業理念のもとで、どんな取り組みを行っているのかをもっと理解してもらい、グループの本業に貢献したいという井上社長の思いが背景にある。キッチン関連商品の製造・販売等も手かけていきたいと井上社長の夢は広がる。

障がい者と健常が「一家一族」として支えあう

3月9日に開催されたクリナップハートフル創立10周年の式典で、勤続10年の社員が4人、勤続5年の社員が4人も表彰されているように、同社の特徴は、障がい者が長く働ける場であることだ。「当社との相性が良かったということもあると思いますが、『家族の笑顔を創ります』というクリナップの理念に共感し、当社を好きになってくれた人が多いのではないかと考えています」と井上社長。

職場のバリアフリー化といったハード面での配慮も、障がいを持つ社員の定着につながっていることはもちろんだ。しかしある意味、厳しいグローバル競争にさらされる中で、少なからず日本企業が失いかけている家族的な「温かい社風」を大切にしていこうとする同社の姿勢も、障がい者の働きやすさにつながっているようにみえる。

井上社長の祖父にあたる、クリナップ創業者の井上登名誉会長(故人)は、現在のクリナップの企業理念の元になっている「創業者理念(五心)」を定めた。 その1つに「一家一族の精神(創業の心)」というものがある。

「我々は一家一族の精神に則(のっと)り喜びも苦しみも頒(わか)ち合い永遠に発展する会社をつくらねばならぬ」というクリナップの「創業の心」が、特例子会社であるクリナップハートフルにもグループのDNAとして継承されている。そうした中で、今後も同社は障がい者と健常者が共に支え合う場に成長し続けていくのだろう。

同式典では、参加者全員にクリナップハートフルの社員名鑑が配布された。社内に制作チームを作り、障がい者と健常者が共同で作業を進め、約1カ月で完成させた「手作り」の名鑑だ。名鑑には、社員1人ひとりが「ハートフル社員としての5年後の夢」を語るビジョンが記されている。

その中で、最優秀賞に輝き、式典でも表彰された給与計算係の小林亮太氏。「感謝の気持ちを忘れずに、仲間と助け合い成長」という小林氏のビジョンには「『感謝の気持ちを忘れずに』は、ハートフルを通じてこの10年間で出会ったすべての方々への感謝。そして、 これからも『仲間と助け合いながら、切磋琢磨し成長』していき、みんなでハートフルをこの先20年、30年とつなげていけるように頑張ろうという思い」が込められている。

優秀賞を獲得した給与計算係の河野友紀子氏の5年後のビジヨンは「こつこつ小さな事から大きなハートフルへ」。

「1人ひとりには得意不得意があり、1人でできることは小さいかもしれないですが、得意なことや才能を活かして、小さな力を大きな力へと、協力して広げていきたいです」という。

コツコツと、小さなことを積み重ね、全員が協力して「大きなハートフル」を目指すというビジョンはクリナップハートフルがまさに次の20年、30年に向けて成長を遂げようとする姿を象徽している。

クリナップハートフル

会社概要

住所:東京都荒川区西日暮里6-10-11

▼ 設立:2008年2月8日
▼ 資本金:2500万円
▼ 社員数:60名(うち障がい者40名)
▼ 代表取締役:井上泰延氏
▼ URL:http://cleanup.jp/heartful/

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