究極の低消費電力にして処理遅延のない1ステージ型大規模集積回路の創出に挑戦

株式会社ウーノラボ 代表取締役 福島 眞粧美氏 株式会社ウーノラボ 代表取締役
福島 眞粧美氏
1ステージ化RISC-Vを実装した
Efinix社 FPGAの評価ボードTrion(T20)と
Titanium(Ti60)

経済社会のデジタル化が加速している。デジタルネットワークには人や企業、モノまでもが集い、大きなサイバー社会を形成。多くのビジネスがこのネットワークを舞台に展開されるまでになった。こうした動きは今後ますます加速する。そして、この先の広がりを支えるのもこれまで同様に半導体回路を核とした電子機器だ。ただ、電子機器には駆動するための電力が要る。屋外や移動体などでの電子機器のさらなる活用に際しては、バッテリーの持ち時間などの課題も少なくない。もっともっと電力消費の少ない回路を作れば…。ウーノラボの福島眞粧美代表取締役は、こんな世界の電子産業が目指す根本課題の解決に、これまでにはなかった“新発想”で挑戦している。

究極の低消費電力を特長とする半導体の開発を進めていますね

開発しているのは、電子機器の動作や制御をつかさどる中心的な半導体部品であるマイクロプロセッサーで、RISC-V RV32IM(ライセンス料不要の命令セット・アーキテクチャ)を適用しています。

ただ、現在一般的に使われているものとは中身が少し違います。現行型は、5つのステージを経て1命令サイクルの処理を行っているのですが、このうちの最も時間を要する「命令の読み出しステージ(IF)」を削除し、残りの4ステージをまとめて1ステージ化することに成功しました。これがウーノラボの「1ステージ化RISC-Vプロセッサー」です。

1ステージ化によりプロセッサーの回路規模は小さくなり、消費電力も少なくなります。

また、一般的なプロセッサーには、各ステージが歩調を合わせて作業を始めるための“クロック信号”という合図があり、5ステージ型では5クロックを要します。

このクロックは最も時間を要するステージに合わせて周波数が設定されるため、それよりも少ない時間で処理が完了するステージでは、次のクロックまでの無駄な待ち時間(遅延)が発生してしまいます。

しかし、演算が最適化された1ステージ型では、これらの待ち時間なしに「1命令サイクルを1クロックで処理」することができます。5ステージを1ステージ化すると、1クロックは少し長くなりますが、無駄がない分高効率な処理が可能になるということです。

人間の世界に例えるなら、5人の作業員がクロックに合わせて流れ作業をする場合と、最も時間のかかる作業(プロセッサーでは命令の読み出し)を省いて1人で作業をする場合とを想像して頂くと分かり易いかも知れません。

さらに現行型では、各ステージを並列に処理することで命令の先読みによる処理量の向上(高速化)を行っており、これをパイプライン処理と呼びます。

パイプラインは高速化の手法ではあるものの、途中で割り込み命令が入ると先読みした命令は全て破棄して割り込み処理を行い、それが完了すると再び何段もの命令を読み出さなければならず、割り込みのたびに遅延が発生して消費電力も増加してしまうという問題があります。

一方、1ステージ型の動作は、割り込み命令が入ると次のクロックで割り込み処理を行い、そのまた次のクロックで無駄なく元の命令に戻る単純明快なものです。現行の5ステージ型パイプラインとのベンチマークテストによる性能比較では、1ステージ型は約16分の1の消費電力量となることも実証しました。

もちろん、低消費電力よりも高速化を要求される機器もありますので、それぞれの強みを活かす・・適材適所ということですね。

アーキテクチャの比較イメージ図

5ステージ パイプライン

ある意味では理想的ですね

比較的小ぶりなプログラムを無駄なく高効率に処理する必要がある機器には最適です。

現行型のプロセッサーでは、あらかじめ外部のメモリ(記憶装置)に記憶されたプログラム(命令)を逐次読み出し、プロセッサー内部の制御回路で解読して実行しているのですが、この外部のメモリからプログラムを読み出すことに時間を要し、動作速度の高速化に影響を与えています。

この問題を改善するために、1ステージ型ではプロセッサー内部にメモリを設け、メモリと制御回路を直結して「プログラムを直接制御回路に渡す」ことにより高速化を図りました。

しかし、あらかじめ格納しておくところにあまり大きなプログラムを置くことは現実的ではありません。そういう意味では、巨大な基本ソフト(OS)を使うパソコンのような機器ではなく、モノのインターネットともいわれるIoT関連機器やAI・電気自動車のエッジコンピューティング、ドローンの制御用コンピューティング、バッテリーで動く情報端末などに向いています。通信機能のインターフェースが用意されているので、IoT用のSIMカードへの組み込みも考えられますね。

これは、今後デジタル化が進んでいく分野に向いている技術だということにもなりますね。見方を変えれば、これまで電源の制約などから電子機器が使いにくかった分野などのデジタル化が進められそうです

最近、巨大台風やゲリラ豪雨などによる災害が目立ちます。このため、川などの水位変化や水門の状態などを遠隔観測する機器が求められています。農業の分野でも、今後のスマート農業化やDX(デジタルトランスフォーメーション)が進むと、田んぼの水位や温度、日照などのデータをとる観測機器のセンサーとしてのニーズも高まるでしょう。いわゆるセンサノード(無線機能と簡単なデータ処理能力をつけたセンサー)には大変有効です。

林業の産業化や里山の観光資源化などを進める上では、将来的にアプリと連動して林道での位置情報表示や観光スポットの説明表示などへの使用も可能となるかも知れません。

開発中のプロセッサーが実用化できれば、小さな太陽電池などを使うことで、これらの機能を配電や大きなバッテリー無しに実現できるだろうと期待しています。

低消費電力にして処理遅延がないという1ステージ型プロセッサーの可能性は大きいと思いますが、そもそもこうした発想の転換をどう思いついたのですか

実は私はもともと日本航空の客室乗務員(CA)でした。結婚や子育てを機に研修講師なども手掛けてきましたが、大学でも専門は文科系で、電子技術や半導体とは全く無縁だったわけです。

そんな中、依頼を受けて訪れた研修で電子技術に関する専門家と出会い、話を聞くうちに興味を持ちました。ただ、理系でもないので、半導体を理解する上では大いに苦労しましたね。猛勉強しました。大変でしたが。

いろいろ教えを乞ううちに、賢くて万能だと思っていたコンピューターが、実は命令を逐次読み出していることに疑問を持ちました。そこで「こんな面倒なことせずに、ココとココをくっつけたらいいんじゃないですか?」と素朴な感想を述べたのが「メモリ(記憶装置)と制御回路の直結」だったのです。

これは素人ならでは。素人だからこその発想だったと思います。しかし、この考えに「マイコンの世界が変わるかも!」と賛同してくれたのが、マイコン一筋40年の専門家でした。

その後、全くの異業種コラボから誕生した瓢箪から駒のような技術が4ヵ国で特許を取得し、さらに私の好奇心に付き合ってくださる専門家とのご縁の中で、この特許を用いた1ステージ化プロセッサーが実現するに至りました。特に心強かったのは高校の同窓生からの紹介で弘前大学との共同研究が実現したことです。専門家以外にも支援してくださった方は大勢いらっしゃいますし、本当に感謝しかありません。

このように多くの方々のご協力を得てFPGA(製造後に購入者や設計者がプログラムできる集積回路)での非常に高いエネルギー効率を実証し、その実用性を明らかにするために、共同研究ではパルスオキシメーターへの適用にも成功しました。これまでに複数の学会で論文採択されたことも大変貴重な軌跡です。

今後のスケジュールはいかがでしょうか

今春からはいよいよFPGAで実現したプロセッサーを評価ボードに載せて出荷できる見通しです。おりしもコロナ禍の影響で半導体が不足していますので、評価ボード自体の確保が難しくなっているという問題はありますが、IoT・エッジコンピューティングにも最適な低消費電力・高性能FPGAを提供するEfinix社のボード(T20、Ti60)は入手可能なので、まずはこれを使い、3月頃から貸し出し・IPコア販売・FPGAの受託開発ができる状態にしたいと考えています。

なお、Xilinx社のArtix-7 100Tを搭載したカスタムボード(Arduino互換)の用意もあります。

将来展望や中長期的な目標はどうでしょうか

将来的には、さらなる低消費電力化と高速化のためにASIC(複数の回路を一つにまとめた特定用途向け集積回路)での提供(IPコア販売)を目標としています。

人間の体動や体温変化、僅かな風や水流から得られるエネルギー、電磁波エネルギー、小さな太陽光パネルが生み出す微細な電力でも動く究極の低消費電力プロセッサーができれば、配電やバッテリーさえも不要な無人観測器などのパラメーター関連機器や感知器なども実現可能です。

そのようなバッテリーフリーのデジタル機器への組み込み用として、最も電力を要するといわれるクロックを外した「クロック非同期式プロセッサー」の試作も検討していますが、非同期式では待機電流が限りなくゼロに近づくため、まさに究極の低消費電力化プロセッサーの実現となるものと期待しています。

特に、我々の目指す非同期式1ステージ化プロセッサーには従来のような非同期式回路設計は不要で、同期式の開発ツールを使用できる点も大きなメリットであると思われます。

私自身のユーザーに近い視点や、初めてのトライにさほど抵抗がない性格もプラスに捉えて、今後もウーノラボ独自の開発を続けていきたいと思っています。

ただし、当社だけでできることは限られていますので、今後も様々なご縁を大切にしながら、多様な技術やアイデアをお持ちの皆さまとともに世の中に貢献する新しいモノづくりができれば・・・と考えています。

イタリア語で1を意味するウーノラボのウーノのように、沢山の1人1人のチカラを集結して大きな木の幹を創り上げるイメージですね。

ツリーハウスをイメージした当社のロゴにはそのような願いが込められているのです。

【プロフィール】

福島 眞粧美(ふくしま・まさみ)

立教大学文学部英米文学科を卒業後、日本航空に入社

企業研修講師・マイコンセミナー講師を経て、2017年5月に株式会社ウーノラボを設立、代表取締役に就任