家族の笑顔を社会の笑顔に広げる「未来キッチンプロジェクト」

「未来のキッチン」を作る長期プロジェクトが始動

住設機器大手のクリナップ(本社・東京都荒川区)は、システムキッチン発表50周年にあたる今年から、既存の発想にとらわれない「未来のキッチン」のデザインおよび提案を行う「未来キッチンプロジェクト」に本格的に取り組む。

同社は2023年2月22日、「クリナップ未来キッチンプロジェクト」発表会を神田明神ホール(東京都千代田区)で開催し、プロジェクトの概要を説明した。

同プロジェクトの柱は、①武蔵野美術大学とのコラボによる「未来キッチンラボ」の創設、②同社製キッチンに使用されているステンレスキャビネットをリサイクルする「キッチンキャビ リサイクルプログラム」の開始、③未来を担う子どもたちが「未来のキッチン」を思い思いに描く「未来キッチン イラストコンテスト」の開催。同発表会では芸能界でも指折りのDIYerの人気タレント・森泉さんがプロジェクトの応援リーダーに就任し、自らが思い描く理想のキッチンを披露した。

システムキッチン発表50周年の新たな挑戦

竹内宏社長執行役員 「2030年にはまったく新しいキッチン事業が経営の柱となるよう、未来を切り拓いていく」と述べる竹内宏社長執行役員

今は各家庭でシステムキッチンが普通のように使われている。だが50年前までは、日本の台所はいわゆる「三点セット」(ガス台、調理台、流し台)で構成されるのが一般的だった。

そんな中、クリナップは1973年に台所の各機能を組み合わせたシステムキッチンを、日本で初めて発表。あわせて顧客のニーズや住環境、生活環境を反映し、カスタムメイドでつくるキッチンというコンセプトを打ち立て、新たな市場を切り拓いた。「システムキッチン」という言葉も、同社が作った造語である。

クリナップ システムキッチン50周年特設ページ
https://cleanup.jp/kitchen/50th/

「未来キッチンプロジェクト」は、システムキッチンのパイオニアであるクリナップが、システムキッチン発表50年目にして行う新たな挑戦だ。

「当プロジェクトからキッチン、食住空間の新たな可能性を広げ、2030年にはまったく新しいキッチン事業が経営の柱となるよう、未来を切り拓いていく所存でございます」と、竹内宏社長執行役員は「未来キッチンプロジェクト」推進に向けた決意を述べた。

LDKにとらわれず、人と社会にもっと寄り添うキッチン

「未来キッチンプロジェクト」の主要テーマは「脱LDK」。これは(洋風の)居間、食事室、台所という場や、既存のシステムキッチンという概念にとらわれない新しい発想で、広く社会の要請に応えるキッチンを作っていこうというコンセプトだ。

クリナップは2021年に「人と暮らしの未来を拓く」ことをテーマにした長期ビジョン「クリナップサステナブルビジョン2030(CSV30)」(後述)を策定。「キッチンの未来ビジョン2021」も作成し、10年後にキッチンが社会の中で果たすべき役割に加え、同社主力のキッチン事業における10年後のビジョンを示した。

キッチンの未来ビジョン2021 クリナップが掲げる「キッチンの未来ビジョン2021」

クリナップは、「家族の笑顔を創ります」を企業理念に掲げている。「キッチンの未来ビジョン2021」では「笑顔」を、「個人の笑顔」と「家族の笑顔」、「社会の笑顔」に分類し再定義した。

「クリナップが考える『家族の笑顔』とは、人や社員など『個人の笑顔』、個人が大切にする『家族の笑顔』、家族の集合である『社会の笑顔』のことをいいます」(同社ホームページ)

竹内社長の挨拶に引き続き、「脱LDK」のコンセプトについて説明した同社の藤原亨・常務執行役員(開発担当)によれば、今回の「未来キッチンプロジェクト」は、とくに「社会の笑顔」に焦点を当てたものだ。

「未来キッチンプロジェクト」を通じて「未来のキッチン」を模索することは、クリナップが専業メーカーとして「社会の笑顔を創る」ために、どんな貢献ができるかを模索することでもある。実際、同社ではコロナ禍によって働き方や暮らし方が大きく変化し、自然災害も増加する中で、「社会の笑顔」をいかに創るかについて、問題意識を高めていた。

「とくにコロナパンデミック下におきましては、さまざまな制限がある不自由さを経験することで、われわれの暮らし方、働き方は大きく変わりました。不自由さの中で、人々がさまざまな試行錯誤をすることで、かえって自由な暮らし方、働き方が生まれてきております。難しい環境の中だからこそ、自由な発想を持ち続ければ、当社も主力事業であるキッチンにおいて、人々の暮らしに大きく貢献できるのではないかといった思いを強く抱くようになりました」(竹内社長)

従来のキッチンにとらわれず、自由な発想で「未来のキッチン」をデザインするためのパートナーとして、白羽の矢が立ったのが武蔵野美術大学だ。クリナップは、同大学クリエイティブイノベーション学科(2019年に新設)の山﨑和彦教授および同学科で学ぶ学生とコラボし、産学共同で未来のキッチンのあり方を考える「未来キッチンラボ」を創設。「人もキッチンも外へ飛び出すことで、もっと地域で支え合うことができるのではないか」という発想のもとで、「未来のキッチン」の開発に取り組んでいる。

その1つの試みが、2021年11月に実施された「移動式キッチン」の社会実験だ。車から電源を供給し、循環ろ過器で水をリサイクルしながら使用できる「移動式キッチン」を試作し、自動車メーカー関連企業の協力を得て実際に車で運び、調理を行った。

どこにでも設営し調理ができる「移動式キッチン」。日常では地域社会のコミュニケーションの活性化を支援し、非常時は地域社会で助け合うためのライフラインを支援するツールとして広く利用されることを目指している。

未来キッチンラボ 「移動式キッチン」の試作品を車に載せて運び、調理を行う社会実験を実施。電源は車から取り、水は循環ろ過器でリサイクルしながら利用する

ステンレス材料をリサイクルし環境保全に貢献

2つ目の試みが、同社製システムキッチンに使用されているステンレスキャビネットをリサイクルする「キッチンキャビ リサイクルプログラム」だ。キャビネットとはキッチンの骨組みにあたる部分のことで、従来は木製である。

同社は1960年にステンレス流し台の製造販売を開始し、1975年に日本で初めてステンレスキャビネットキッチンを開発している。2011年に主力機種の「クリンレディ(現・STEDIA〈ステディア〉)」をモデルチェンジした際、ステンレスキャビネットを標準装備した。

ステンレスはリサイクル性が高く、日本ではリサイクル率が80%を超えている。同リサイクルプロジェクトを統括する連(むらじ)健悟常務執行役員・営業本部長は、「当社は以前から環境に配慮した製品を開発してきました」と語る。

一般に、ステンレスキャビネットは木製キャビネットより割高だが、「クリンレディ(現・STEDIA)」では構造を工夫しコスト低減に努めた。キャビネットを簡易分解構造にすることで、リサイクル性をさらに高める配慮が、設計段階から施されていた。使用しているステンレス材はレアメタルであるクロムとニッケルの含有量をほぼ半減させることにも成功し、環境負荷の低減を進めている。

今回の「キッチンキャビ リサイクルプログラム」は、全国約4000社の工務店やリフォーム店などの元請業者および流通販売店による会員制組織の「水まわり工房」と連携し、ステンレスキャビネットキッチンのリサイクル体制を構築するものだ。

同社製ステンレスキャビネットキッチンのユーザーが、「水まわり工房」加盟店から新たにステンレスキャビネットシステムキッチン(最上位機種のCENTRO〈セントロ〉またはSTEDIA)を購入する場合が主な対象となる。古いステンキャビネットキッチンを「水まわり工房」加盟店が解体し、回収したステンレス部材の処理をリサイクル事業者に依頼する。

同プログラムを利用し製品を購入するユーザーは特典が受けられる。ステンレスツールの贈呈または、国土緑化推進機構が運営している「緑の募金」への寄付を選択できる。同プログラムは今年4月にスタートする予定だ。

キッチンキャビ リサイクルプログラム

未来を担う子どもたちが描く「未来のキッチン」

3つ目の取り組みは、小学1~6年生の子どもたちが「あったらいいな」と考えるキッチンのイメージを思い思いに描く「未来キッチン イラストコンテスト」。今年6月1日~10月15日に作品を募集し、12月に審査結果の発表が行われる。最優秀賞に輝いた作品は、クリナップと武蔵野美術大学の学生たちがコラボし、具体的な形にして受賞者にプレゼント。入賞者への賞品のほか、応募者全員に参加賞を用意するという。

未来キッチン イラストコンテスト https://cleanup.jp/miraikitchen/contest/

子どもたちの自由な発想によるアイデアは、クリナップが取り組む新たなキッチン事業に活かされる。その意味で同プロジェクトは、子どもたちとの共創により、2030年より先の「未来のキッチン」を模索する試みといってよいだろう。

また同発表会では、森泉さんを「未来キッチンプロジェクト」の応援リーダーに迎える就任式も行われた。

未来のキッチンをテーマに竹内社長と対談を進める中で、森さんは、自身が理想とするキッチンのイメージをイラストレーターが描き起こしたイラストを披露。「新鮮な野菜がおいしく食べられる、畑とつながったキッチン」という斬新なアイデアに、竹内社長も「われわれでは想像もつかないような新しい発想をいただいた」と思わず舌を巻いた。

プロジェクト応援リーダー就任式 芸能界屈指のDIYerとして人気のタレント・森泉さんが「未来キッチンプロジェクト」の応援リーダーに就任

「社会の笑顔」を創る――「未来キッチン」と長期ビジョンが目指すもの

先にも紹介した通り、クリナップは2021年、「人と暮らしの未来を拓く」ことをテーマに掲げる長期ビジョン「クリナップ サステナブルビジョン2030」(CSV30)を策定した。同社はCSV30の事業戦略(財務目標)として2021~23年(21中計)を「重点施策の実施」の期間と定め、2024~26年(24中計)を「ファン化促進・専業力強化」の期間、2027~30年(27中計)を「持続的な成長への戦略投資」の期間に設定している。

中期経営計画

今回の「未来キッチンプロジェクト」も、この長期ビジョン達成を目指す取り組みの一環として実施されているものだ。21中計の基本戦略の1つに盛り込まれている「新規事業による新たな顧客の創造」をより積極的に推し進め、「ファン化促進・専業力強化」(24中計)のフェーズにつなぐ。そのうえで「持続的な成長への戦略投資」(27中計)、2030年およびその先の未来に向けてクリナップが進むべき1つの方向性を示す羅針盤の役割を、同プロジェクトは果たしていくものとみられる。

中でも注目されるのが、同プロジェクトがとくにフォーカスしている「社会の笑顔」の創造だ。クリナップはこうした一連の事業戦略を進める一方、CSV30の非財務目標として、「ESG/SDGs視点での課題解決 + 成長を支える経営基盤の強化」を掲げている。

生活環境、社会環境、地球環境という3つの環境との関わりの中から新たなライフスタイルを提案しようとする長期ビジョンのイメージは、まさにESGおよびSDGsと大きく重なり合うものだ。

長期ビジョン 長期ビジョンのイメージ

たとえば地球環境との関わりについていえば、同社はCSV30における2030年度目標の1つに、「2013年度比温室効果ガス50%削減」を設定している。

「クリナップサステナビリティレポート2022」によれば、2021年度はたとえば生産部門で、鹿島工場(福島県いわき市)にLED照明を導入し年間CO2排出量を約2.8t-CO2削減。各工場内の製造ラインを「省エネパトロール」が定期的に巡回し改善活動を行うことで、年間CO2排出量を約6.5t-CO2削減している。本社総務部門でも年間CO2排出量を前年比5.6%削減した。

地球環境との関わりとして、こうした個別的な取り組みも、もちろん重要である。だが今回の「未来キッチンプロジェクト」で同社は、パートナーの「水まわり工房」加盟店と連携してシステムキッチンのステンレスキャビネットをリサイクルするスキームを構築している。それにより、年間5、6万台を超えるスケールで、個別的な取り組みを積み上げるよりもさらに大きな環境負荷の低減が望めるはずだ。

「移動式キッチン」1つをとっても、非常時は地域社会における共助のためのライフライン支援ツールとして大きな役割を担うという、社会環境面での貢献が期待される。また「移動式キッチン」を中心に、新たな地域社会のコミュニケーションの場が生まれるかもしれない。さらに「移動式キッチン」が普及することで、脱LDKのライフスタイルが広がり、個人の生活環境にも大きな変化が生じるかもしれない。

こうして生活環境、社会環境、地球環境の面から、「社会の笑顔」が広がっていく。CSV30のゴールに設定されている2030年、クリナップは生活環境、社会環境、地球環境という3つの環境との関わりの中から、「社会の笑顔」を創造する企業へと成長を遂げているはずだ。

取材・構成:ジャーナリスト 加賀谷貢樹

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