知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.3

第3回

他人の論文などの文章をコピペしても罪にならない!?~引用にまつわる話

堀越 総明 2014年4月3日
 

工学博士の異色広報部員が新車発表会のプレスリリース資料作成に挑戦!


大手自動車メーカーの広報部に所属するA子さんは、有名大学の大学院博士課程を修了した才女です。自動車工学の専門家で、これまでは技術系の部署で活躍していたのですが、機転が利くため、この春に広報部へ異動になり、マスコミ対応を任されることになりました。異動早々に、A子さんは、次回の新車発表会の準備で大忙しです。今回発表する新車“イノベーションⅡ”は、団塊世代をターゲットにしたスポーツカーで、他社を圧倒するエンジンの性能が特長となっています。「すごい車が発売になるぞ」という社内外の期待が膨らむ中、A子さんの上司のB部長も力が入っています。

B部長  「やぁA子さん、次の新車発表会のプレスリリース資料は出来たかい?」
A子さん 「はい部長!“イノベーションⅡ”のエンジン性能をきっちり伝えることを心がけて作成しました。」
B部長  「ふむふむどれどれ・・・何だこの資料は、難しい数式ばかりで全然わかんないぞ。」
A子さん 「エンジンの性能を表すには数式が一番なんですよ。αがβでγがΣして、それで・・・」
B部長  「わかった、わかった。でもA子さん、ここは広報部だよ。マスコミの心をつかむもっとドラマチックな文章を頼むよ。。。」

雑誌の記事を勝手に転載して資料を作成、そして新車発表会は大成功に


B部長からダメ出しされ、プレスリリース資料を書き直すことになったA子さん。しかし、B部長が言うようなドラマチックな文章など書いた経験がありません。困り果てて、パソコンの前で固まってしまったA子さんですが、ふとあることを思い出しました。

A子さん 「そうだ!この新車のひとつ前のモデル“イノベーションⅠ”を発表したときに、確かモータージャーナリストのC山さんが「月刊自動車」にその車についての記事を書いていたわ。それを参考にさせてもらいましょう。」

早速、A子さんはインターネットで検索してみると、出版社のWEBサイトに転載されていたC山さんの記事を発見しました。読んでみると、さすが売れっ子モータージャーナリストが書いた文章だけあって、実にドラマチックではありませんか!「ありがとう、C山さん!」と心の中でつぶやいたA子さんは、C山さんの書いた記事をコピー&ペーストし、それに自分が新車について書いた文章を付け加えて、プレスリリース資料を完成させました。



「いやーすばらしい文章だね~!」とB部長もご機嫌です。“イノベーションズⅡ”の新車発表会は大成功に終わり、マスコミでは大きく取り上げられ、お客様からの購入の予約も殺到しています。大役を無事果たして喜ぶA子さんでしたが、それから数日後、広報部の事務所にC山さんが血相を変えて怒鳴り込んできました。
C山さん 「私の文章を勝手にコピペしたのは誰だ!著作権侵害だぞー!!」

コピペも「引用」として認められれば著作権侵害にはなりません!


「著作物」とは、法律では、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいうと定義されています。「文章」は、余程短くてありふれた表現でない限り、創作的な表現とされ、「著作物」となります。つまり、上司の期待に応えたいという一心で、C山さんが執筆した文章を無許諾でコピペしてしまったA子さんの行為は、著作権侵害といえるでしょう。ただ他人の文章を無許諾でコピペすることが、すべて著作権侵害になってしまうかというとそうではありません。著作権法には、「引用」という規定があり、一定のルールのもとに、他人の著作物を無許諾で利用することが認められているのです。

最近、ある万能細胞を発見したとされる研究員の論文が、他人の論文の一部をコピペしたのではという疑惑が持たれ、連日マスコミを賑わせていました。そのニュースの中で、識者が「他人の論文を無断でコピペする行為は、その出典も明らかにしていなければ引用にもならないので問題だ」とコメントしていました。ということは、他人の論文をコピペした箇所に、その執筆者の名前や論文のタイトルなどを表記し、出典を明らかにさえしていれば、著作権法における「引用」となり、著作権侵害にはならないのでしょうか?

確かに法律では他人の著作物を引用する場合は、その出所を明示しなさいという規定があります。しかし、出所さえ明示すれば、「引用」ということで他人の文章を自由に無許諾で利用できるかというとそうではありません。「引用」として認められるには、「公正な慣行に合致すること」と「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内であること」という2つの要件をクリアしなければならないのです。

引用は「公正な慣行」「報道、批評、研究などの正当な範囲内」という要件が必要です


例えば、「村上春樹大研究」という本を執筆するにあたり、その本の中に「海辺のカフカ」を丸々全部転載して「これは引用です!」と主張しても、これはもうどっちが主で従なのかわからなくなってしまい、この行為は研究の目的上正当な範囲内とはいえないでしょう。また、他人の論文を細かく分断して、その間に自分が執筆した文章を加えて、全体として新しい論文を作った場合では、読者からすると、どの部分が引用した文章なのかまったくわからなくなってしまいます。こうしたことは公正な慣行とは到底いえないでしょう。つまり、「引用」のひとつの基準として、引用した部分と自分で執筆した部分とが明瞭に区分されていることと、引用した部分が自分で執筆した部分に対して量的にまたは質的に「従」といえる程度であることが必要とされています。

また、「引用」は、あくまでも報道、批評、研究などの目的である必要があるので、自分が執筆する小説の一部分に他人の小説の一部分を利用することはできません。そして、自分で文章を書くのが大変だからとか面倒だからとかという理由で、自分と同じ意見の文章を探してきてコピペすることも、これは報道、批評、研究などの目的外といえるので、「引用」とは認められないでしょう。ただ何が「公正な慣行」で「正当な範囲内」なのかは、文芸、学術、美術、音楽などのそれぞれの業界によっても異なってきますし、時代によっても変わってくるかもしれません。引用をする際に不安に思ったら、著作権の専門家に相談することをお勧めします。

さて、C山さんの怒りの訪問を受けたA子さんですが、C山さんに「コピペがいけないこととは思っていませんでした。。。」と正直に深々とお詫びして、一定の著作物利用料を支払うことで許してもらいました。

※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 
 
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ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会所属 東京都行政書士会所属 東京都行政書士会著作権相談員 東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員 株式会社ボングゥー代表取締役

「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
http://www.bon-gout-pat.jp/


○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
http://www.bon-gout-office.jp/

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