知らなかったでは済まされない著作権の話

第1回

ひこにゃん事件って何で大騒ぎになったの??
~著作権人格権にまつわる話

 

ゆるキャラのスター“ひこにゃん”をめぐる彦根市と作者との戦い!

日本人は世界でも類を見ないキャラクター好きと言われています。ここ数年話題の地方自治体の“ゆるキャラ”をはじめ、テレビや雑誌の広告には企業のイメージキャラクターが溢れています。こうしたキャラクターは、人気が出てくると高い商業的価値が生まれてきます。また本来キャラクターが担っている広告価値のみならず、関連グッス商品が発売されるなど直接的な売上に結びつくケースも多くなってきています。なんでもその市場規模は1兆円を上回っているとか。みなさんも、携帯ストラップなどのキャラクターグッズを買った経験はあるのではないでしょうか。

今から遡ること5年ほど前、「国宝・彦根城築城400年祭」のイメージキャラクターとして登場した「ひこにゃん」は、その愛らしいルックスから、瞬く間にその後のゆるキャラブームを牽引する大スターになりました。
その盛り上がりの真っ只中に、ひこにゃんの作者が、彦根市と400年祭の実行委員会に対して、ひこにゃんのイラストの使用中止を求めて民事調停を申し立てた話は、新聞などでも大きく報じられたのでご存知の人も多いかと思います。

でもちょっと待ってください。ひこにゃん(正確にはひこにゃんの作者が制作した3ポーズのイラスト)の著作権は、同実行委員会が作者から買い取り、その後彦根市が商標登録していたと聞いています。ではすでに著作権がない作者は、何の権利にもとづいて、この民事調停を起こすことができたのでしょうか??

著作権の中には譲渡できない権利があるの??

日頃私たちが使っている「著作権」という言葉は、実は「著作権(著作財産権)」と「著作者人格権」の2つの権利の総称として用いている場合が多いのです。

キャラクターのイラストを、広告に掲載したり、グッズを作ったり、はたまた漫画にしたり、映画化するといった権利は、著作権(著作財産権)のことをいいます。これらの著作権(著作財産権)は、著作者が自由に他人に譲渡することができます。同実行委員会は、こうした権利は作者から譲り受けていたようです。
しかしこれに対して著作者人格権というのは、作者が「作品に自分の氏名を表示してほしい!」とか「作品をいつ公表するか自分で決めたい!」とか「自分が作ったキャラクターのイラストを勝手に変えないでほしい!」といった権利のことをいいます。そしてこれらの権利は、なんと著作者に一身専属のもので、作者が承知したとしても他人には譲渡することができないのです。

すでに著作権は手放していたひこにゃんの作者が、民事調停を申し立てることができたのは、自分が描いた「座る」「跳ねる」「刀を抜く」の3ポーズ以外の新しいポーズや、当初にはなかった尻尾が勝手に描かれているイラストが出回ったことに対して、著作者人格権にもとづいて「自分の作品を勝手に変えられた!」と主張したからなのです。その他にも、同委員会が「ひこにゃんはお肉が好物!」とかいう性格付けを勝手にしたことも納得がいかなかったようです。

今回ひこにゃんにはご登場いただけないので、代わりに東京・足立区のゆるキャラ「アダチン」に登場してもらいましょう。

これが「アダチン」です。目つきが怖いですね・・・。全然ゆるくないです。

このアダチンを、作者に無断で、こんな感じに角をはやしたり、

こんな感じに毛の色を金に変えてしまったりするのは、いくらアダチンの著作権を譲り受けた人でもすることができません。まあ、ここまで激しい変更を加えなくても、例えばイラストのトリミングをしたぐらいでもNGになる場合もあります。

著作権フリーのものでも取扱いには注意が必要です!

イラストに限らず、絵や音楽や文章などの著作物というのは、まさに作者そのものであり、その著作物には人格が大いに反映されているといえます。だから著作者人格権は、財産権である著作権とは異なり、売買の対象とすべきでないと考えられたのでしょう。また「一身専属」といっても、「作者が死んでしまったら何をやってもOK!!」というわけではありません。著作者が生きていたなら「人格権の侵害だ!」と思われるケースでは、遺族の人たちが差し止めの請求をすることができるようになっています。

実務上では、著作権譲渡契約書などでは、「著作者は著作者人格権を行使しません」という条項を入れることが多く行われています。権利の譲渡ができないのだったら、権利の行使をしないと約束しろというのは、少々屁理屈のようですね。学者の中には、「人格保護のための規定なのに権利を行使させないことを約束させる契約なんて無効だ!」という意見の人もいるようです。しかし実際にキャラクターを利用している企業や地方自治体などからすると、作者の了解なしにまったく変更を加えることができないとすると、せっかく作ったキャラクターの利用に支障が出てしまうことがあるのは否めません。

みなさんも、著作物を取り扱う際には、「著作権を取得しているから平気!」とか「著作権フリーだから自由に使える!」という場合でも、もう一度その著作物の著作者人格権の取り扱いについてどのように決められているかを確認する必要があります。わからないときは、是非著作権を専門に扱う行政書士にご相談ください。

※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。
※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 
 

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会所属 東京都行政書士会所属 東京都行政書士会著作権相談員 東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員 株式会社ボングゥー代表取締役

「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
http://www.bon-gout-pat.jp/


○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
http://www.bon-gout-office.jp/

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