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知らなかったでは済まされない著作権の話

第10回

有名タレントの写真で勝手にTシャツを作って販売するのは著作権侵害!?
~パブリシティ権にまつわる話

 

業績回復の切り札!有名タレントの顔写真入りTシャツは勝手に作れる??

大手アパレルメーカーの下請けでTシャツを製造し続けて50年のイノベーション衣料。丁寧な仕事とすばやい納品でアジアのライバル企業に対抗してきましたが、単価の下落と消費の低迷で業績は芳しくありません。帳簿を見ながらため息をつくA社長に、息子のB専務が話しかけました。

B専務 「社長、ウチも何かオリジナル商品を開発しないと。『脱下請け』だよ!」
A社長 「そうは言ってもなぁ。オレたちのデザインした洋服じゃ売れないだろうし、販路だって確保できないだろう・・・。」

悩むB専務は、ある日、大好きなヘビーメタルバンド「ジューダス・プリースト」の来日公演に出かけました。ライブ会場前の通りに人だかりができていたので、B専務は不思議に思いのぞいてみると、そこでは少し怖い顔をしたおじさんがジューダスのメンバーの顔写真をプリントしたTシャツを販売していました。「はは~ん、これは著作権侵害の商品だな!それにしても売れていてうらやましい・・・。」

B専務は、久々にヘッドバンギングして首を抑えながら帰宅した後、インターネットで著作権について調べてみました。すると、著作権という権利は"創作した"著作物を保護すると書いてあります。
「アーティストの顔は誰が創作したものでもないよな・・・。自分が撮影したアーティストの顔写真だったら、写真自体の著作権は自分にあるので、自由に利用できるんじゃないか!!よし!有名タレントの顔写真をプリントしたTシャツを作って、オリジナル商品として販売するぞ!」

有名タレントの顔や氏名は「著作権」では守られていませんが・・・

翌日、「これは違法行為なんじゃないか??」と心配するA社長の心配をよそに、B専務は、アイドルの追っかけをやっている息子と娘が撮影した有名タレントの写真を使って、早速Tシャツ制作を開始しました。そして自社でWEBショップを立ち上げると、アクセスが殺到し、AKB48、嵐、そしてジューダス・プリーストのオリジナルTシャツは飛ぶように売れていきました。

「社長!これで今期の決算は増収増益だぜ!」と喜ぶB専務のもとに、ほどなく複数の芸能プロダクションから内容証明郵便で警告書が届きました。「これは著作権侵害じゃないんだよ!」と自信満々なB専務でしたが・・・。

有名タレントの顔や氏名の経済的利益は「パブリシティ権」で守られています

有名タレントの顔写真を利用してTシャツを制作して販売する行為は、B専務の言う通り、確かに著作権侵害ではありません。著作権とは「著作物」を保護する権利で、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」であり、タレントの顔や氏名などは、絵や音楽と異なり、誰かが創作したものではないからです。

しかし、有名タレントの顔や氏名を利用した商品を勝手に作って販売して、お金儲けをしたらいけないだろうということは、A社長のみならず、みなさんも肌感覚で感じることと思います。こうした有名タレントの顔や氏名の商業的利用に関しては、「パブリシティ権」という権利で保護されています。

みなさんも「肖像権」という言葉は良く耳にすることと思います。肖像権は、誰でも勝手に自分の顔などを撮影されたり公開されたくないという権利を、プライバシー権や人格権のひとつとして保護しています。ただ、タレント、アーティスト、スポーツ選手、政治家などの有名人は、逆に自分の肖像や氏名を社会に広めていくことが仕事のうちですし、公的な存在として常に報道の対象となりますので、「肖像権」は一般の人に比べて大きく制限されています。しかし、その一方で、有名人には、その肖像や氏名をグッズや広告に掲載したりして商業的に利用することにより大きな経済的価値を生み出すことができるため、自分の肖像や氏名を、対価を得て第三者に専属的に利用させる権利を「パブリシティ権」として認めたのです。

パブリシティ権は人格権でもあるので、人間以外には認められません

ひとつ余談となりますが、パブリシティ権は「人間」にしか認められないといわれています。例えば、ディープインパクト、オグリキャップ、ハイセイコーなどの競走馬の肖像や馬名も、商業的利用によって大きな経済的価値を生み出しますが、ゲームやグッズに無断で利用しても、違法行為にはならないとされています。パブリシティ権は、有名人の肖像や氏名の「経済的価値を守る権利」ではありますが、その背景にある名声を支える「人格権」に由来する権利といえるから対象を「人間」に限定したのでしょう。

さて、芸能プロダクションからの警告書に対して、違法行為ではないと自信満々だったB専務ですが、知り合いの法律家から「パブリシティ権」のことを教えられ、あえなく白旗をあげました。B専務は、会社の社会的信頼を回復するために、毎日取引先へのお詫び行脚で走り回っています。

※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。
※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 
 

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会会員
日本弁理士会著作権委員会委員
(2020年度は委員長、2019年度は副委員長を務める。)
東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員
株式会社ボングゥー代表取締役


「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
https://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
https://www.bon-gout-office.jp/
 
【著書】

「知らなかったでは済まされない著作権の話」(上)・(下)
上巻:https://amzn.to/2KB8Ks5
下巻:https://amzn.to/2rV7qcG
 
弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。

知らなかったでは済まされない著作権の話

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