知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.3

第7回

著作権の譲渡を受けたのに二重譲渡で別の人が著作権者に!?~文化庁の著作権登録にまつわる話

堀越 総明 2014年9月1日
 

埋もれたキャラクター“ミドリー”の著作権を買い取ってアプリを開発!


ITベンチャー会社A社のB社長は、スマートフォン向けのアプリ開発をいち早く手掛けたことで、ここ数年間会社の業績を大きく伸ばしてきました。この夏、本社も○○ヒルズに移転し、更なる飛躍に向けて、今日も会議で気勢を上げています。
B社長 「これからは著作権ビジネスの時代だ!自社開発でキャラクターを作るのもいいが、有望なキャラクターがあったらどんどん買い取るんだ!」

B社長の檄を受けて、営業企画部のC山さんは新しいキャラクター探しに奔走しています。全国津々浦々に色々なキャラクターがあるのですが、有望なキャラクターとなるとなかなか見つかりません。ある日、C山さんは、高校時代の友人D川さんに、仕事でキャラクターを探していることを話すと、思いがけずD川さんから良い情報を得ることができました。

D川さん 「俺の地元のE市に“ミドリー”っていう市の環境PRキャラクターがいるんだけど、市長に気に入られていないみたいで、全然使われていないんだよ。なんでもキャラクターをデザインしたのは、有名な新進気鋭のクリエイターらしいんで、クオリティはすごいだけにもったいない話だよな。。。」

C山さんは早速インターネットで“ミドリー”について調べてみると、D川さんの言うとおり、確かになかなかのキャラクターです。しかも、“ミドリー”関連の著作権はE市ではなく、作者のF田さんが保有しているというではありませんか。
C山さんは、次の日の朝、B社長にこのことを報告しゴーサインをもらうと、F田さんの
仕事場に飛んでいき、F田さんから“ミドリー”関連の著作権を○○万円で譲渡してもらう交渉をまとめてきました。E市のほうも、民間で積極的に“ミドリー”を活用することについては、むしろ大歓迎という反応です。

著作権を買い取ったのに著作権侵害に!?


C山さんは、会社の顧問行政書士が作成した「著作権譲渡契約書」にF田さんのサインをもらうと、開発部と連携して、きせかえ、ゲームと次々に“ミドリー”が登場するアプリを投入しました。E市公式キャラクターの本格的な面白いアプリということで話題も呼び、いずれもダウンロード数は好調です。
その中でも“ミドリー”が東京の各所を次々と緑化してしまうというゲーム「ミドリーの東京ジャングル」が大ヒットし、B社長はご満悦です。

しかし、そんなある日、B社長のもとに、関西にあるライバル企業のG社が「ミドリーの大阪ジャングル」というゲームを発売するという情報が飛び込んできました。
B社長 「C山!どうなってるんだ!?“ミドリー”関連の著作権はうちが譲渡を受けたんだよな!?」
C山さん 「もちろんです!作者のF田さんには『著作権譲渡契約書』にサインもしてもらっていますので間違いありません。」
B社長 「それじゃ、何でG社が『ミドリーの大阪ジャングル』を出すんだ!?」

それから数日後、追い打ちをかけるように、B社長のもとに、G社から内容証明郵便で警告書が送られてきました。文面を読むと、“ミドリー”関連の著作権は、G社がF田さんから著作権譲渡を受け、文化庁に著作権譲渡の登録もしているので、A社が“ミドリー”のアプリを制作販売する行為は著作権侵害だというのです。
C山さんは慌ててF田さんに電話して確認すると、F田さんは、お金に困ったのでいけないことと思いながら、A社に著作権譲渡した後に、G社にも同じように“ミドリー”関連の著作権を譲渡してしまったと、泣きながら告白してきました。

B社長 「文化庁への著作権登録だか何だか知らないが、うちのほうが先に著作権譲渡を受けているんだ!著作権侵害しているのはG社のほうだ!」

著作権は無体財産権なので二重譲渡されやすいという性質があります


F田さんは事もあろうか“ミドリー”関連の著作権を、A社に譲渡した後に、G社にも譲渡してしまったことになります。これを「二重譲渡」といいます。
著作権のような無体財産は「物体」ではないため、買った人は売った人からその引き渡しを受けることができません。ということで、F田さんのような悪い考えの人がいると、今回のように二重譲渡ということが起こりやすくなってしまいます。

この場合に、A社とG社のどちらへの著作権譲渡が有効となるのでしょうか?「そんなの先に著作権の譲渡を受けたA社に決まっているじゃないか!」と思う人も多いことでしょう。
確かに、著作権の譲渡は、当事者間の契約により成立します。そして、A社はF田さんと「著作権譲渡契約書」を締結していますし、その契約日はG社とF田さんの間で締結した「著作権譲渡契約書」の契約日より早いようです。

しかし、もしみなさんがG社の立場でしたら、どうでしょうか?“ミドリー”について、F田さんから著作権を買い、多額の資金を投じて“ミドリー”のゲームの開発を始めたとします。そんなときに、実は“ミドリー”関連の著作権者はA社だということが発覚して、G社は無権利者だったということになれば、せっかくの多額の投資がすべてふいになっていまいます。
このように、先に著作権の譲渡を受けた人が常に勝つとすれば、自分が著作権を買う際には、売主がすでにその著作権を他の人に譲渡していないかや、売主が本当に正しい権利者なのかを、いちいち調査しなくてはなりません。それを買う側が自力で行うことは現実的にはかなり難しいといえます。

二重譲渡の場合は文化庁に先に著作権登録したほうが勝ちになります!!


そのため、文化庁の著作権登録という制度があります。著作権の譲渡(移転)を受けたときは、文化庁に申請してその事実を登録することにより、二重譲渡があった場合、他の譲受人から「著作権者は自分だ!」と主張されても、正当な権利者としてその主張を退けることができます。つまり、たとえ契約上では後に著作権を譲り受けた人でも、先に文化庁に著作権登録をしていれば勝ちになるのです。

また、著作権は財産権ですから、著作権者となったG社から更に別の人に譲渡され、その後も転々と流通することも考えられます。そんなときも、著作権を買う人は、その売主がその著作権の譲受人として文化庁に登録されていることを確認できれば、安心してその著作権を買うことができます。著作権登録制度は、不動産の登記制度に近いものと思っていただければ良く理解できるのではないでしょうか。

A社は、とてもかわいそうに思えますが、最初にF田さんから“ミドリー”関連の著作権譲渡を受けたときに、すぐに文化庁に著作権登録していれば問題がなかったわけですから、致し方がありません。
もちろん、A社は、F田さんに対しては、契約の債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができます。また、F田さんは場合によっては刑事罰を受けることもあります。しかし、“ミドリー”関連の著作権はG社のものであることには変わりなく、A社がその著作権を手に入れることはできないのです。

B社長は「ミドリーの東京ジャングル」を含めすべての“ミドリー”関連のコンテンツの販売中止に追い込まれました。F田さんはお金がないため、損害賠償もままならず、A社は大きな損害を受けてしまいました。
それからというもの、B社長は、他者から買い取った著作権については、専門の行政書士に依頼して、すべて文化庁に著作権登録するようになったということです。


※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 
 
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ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会所属 東京都行政書士会所属 東京都行政書士会著作権相談員 東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員 株式会社ボングゥー代表取締役

「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
http://www.bon-gout-pat.jp/


○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
http://www.bon-gout-office.jp/

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