知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.3

第6回

著作権使用料をJASRACに払っていればヒット曲をアレンジして使用しても大丈夫!?~同一性保持権にまつわる話

堀越 総明 2014年7月24日
 

「東京おじさんコレクション」でおじさんファッションを復権!?


創業100年となる中小紳士服メーカー「イノベーション衣料」。イノベーション衣料は、昭和の時代に、いわゆる「おじさんファッション」で業績を伸ばしてきましたが、ここ数年の経営は青色吐息です。3代目となるA社長は、社長室の窓から会社の前の通りを歩く人々を眺めながら、今日も番頭役のB部長にグチを言っています。

A社長 「あの男性の服装を見てみなさい、年配の人とは思えないおしゃれな着こなしだよ・・・。昔は、おじさんといったら、みんなが地味なポロシャツをズボンの中に入れて着ていたものだけどな。」
B部長 「あの頃は我社の時代でしたね。。。」
A社長 「かと言って、おしゃれなデザインの服を作っても、大手のアパレルにはなかなか対抗できないし、業績回復の何か良い方法はないかね?」
B部長 「・・・。そうですね、我社唯一の20代社員C山くんの、我々とは違った柔らかい頭で何か良い企画を考えてもらいましょう。」

それから1か月後、C山さんがB部長に連れられて社長室にやってきました。緊張して落ち着かない様子のC山さんが手にした企画書の表紙には「東京おじさんコレクション」と書かれてあります。

A社長  「『東京おじさんコレクション』??・・・ひょっとして、アレの真似かい?」
C山さん 「・・・アレの真似です。」
A社長  「・・・面白い!やってみなさい!!ファッションショーのBGMは、演歌がいいぞ。これは盛り上がるぞ!」

JASRACに著作物使用料を支払って、BGMの演歌をEDMにアレンジ!


社長直々の命を受けて、C山さんは早速「東京おじさんコレクション」の準備に取り掛かりました。モデルのおじさんを街中でスカウトし、自慢の自社製品である地味なポロシャツ、ループタイ、ウエストポーチ、セカンドバッグ、2タックのパンツ、透け透けソックスを着用してもらい、本番に向けてモデルさんの歩き方の特訓をしています。さらに、総務部の法務担当の人とも連携して、BGMで使用する演歌については、きちんとJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)に著作物使用料を支払う手続きを行いました。

しかしリハーサル当日、C山さんの表情は今ひとつ冴えません。心配したB部長が尋ねました。
B部長  「C山くん、もうすぐ本番だっていうのに何か心配事でもあるのかい?」
C山さん 「実は、BGMが演歌だとファッションショーとのテンポが合わなくて上手に盛り上げられないんです。」
B部長  「とは言っても、演歌にしろというのは社長命令だからね。困ったね・・・。」
C山さん 「・・・そうだ!良いアイデアが浮かびました!!」

そしていよいよ「東京おじさんコレクション」の当日を迎えました。C山さんが心こめて行ったプレスリリースも功を奏し、会場には多くのマスコミ、そして観客が詰めかけ、そして注目のファッションショーがスタートしました。
暗くなった会場には、北島三郎の曲が大音量で流れましたが、何か様子が違います。
「はこだて~~~♪チャチャチャン♪チャチャチャン♪チャカチャカチャカチャン♪」

B部長  「C山くん、これはどうした!?」
C山くん 「EDM(エレクトロニックダンスミュージック)ですよ!!いま世界中で大流行のサウンドなんです!思い切って、ボクが北島三郎の曲をEDMにアレンジしてみました!とってもクールでしょ!?」
B部長  「バ、バ、バカモン!キミの行為は違法行為だぞ!」
C山さん 「えっ!でも音楽の使用料はJASRACにきちんと支払っていますよ。」

BGMで音楽を使用するときはJASRACに著作物使用料を支払う必要があります


営利目的のイベントなどで音楽CDなどを再生する権利は、著作権の中の「演奏権」という権利であり、その音楽の著作権者(通常は作詞者、作曲者、編曲者)に帰属しています。つまり著作権者の許諾をもらわなければ、営利目的のイベントで勝手に音楽CDを再生することはできません。
だからと言って、イベントの主催者が、使用するすべての音楽の作詞者、作曲者、編曲者の連絡先を個別に調べて連絡するのも大変ですし、許諾する作曲者などのほうもそのような電話やメールが自分のところに毎日殺到しては煩雑でたまりません。
そこで、音楽の著作権については、JASRACのような著作権管理団体が、作曲者などから管理委託を受けて、作曲者などに代わって、音楽の利用を希望する人にその利用を許諾し、利用者からその使用料を受け取るというやり方が一般的になっているのです。
ところで、C山さんは、「東京おじさんコレクション」のBGMで使用する音楽について、事前にきちんとJASRACに手続きを済ませていました。それでは、B部長は、C山さんの行為をどうして違法行為だと咎めたのでしょうか?

JASRACに著作物使用料を支払っても音楽を勝手に作り変えることはできません!!


実は、著作物を創作した著作者は、「著作権」だけでなく「著作者人格権」という権利も持っています。この著作者人格権の中のひとつに、自己の著作物を意に反して勝手に改変させないという「同一性保持権」という権利があるのです。
「著作者人格権」は、その名が示す通り、著作者の「人格」を保護することに目的があります。音楽をはじめとした著作物は、著作者の思想や感情が表現されたものであるため、著作者の人格に直結しているものといえることから、その人格を踏みにじるような使い方は許すべきでないということになっているのです。確かに、自分が思いを込めて作曲した音楽を、全然イメージの違うものに他人に勝手に作り変えられたら、作曲者は良い思いはしないのではないでしょうか。

つまり、C山さんのように「著作権」の使用について許諾を受けた人はもちろんのこと、「著作権」の譲渡を受けた人であっても、その音楽を、作曲者などの意に反して勝手に改変することはできないのです。C山さんは、その音楽の使用料をJASRACに支払っていましたから、音楽CDをそのまま会場で再生することはまったく問題なかったのですが、それをEDM風にアレンジするためには、別途その音楽の作曲者などに個別に許諾をもらう必要があったのです。

行政書士の友人がいるため著作権に詳しかったB部長の判断により、BGMは急きょ音楽CDのままの演歌に差し替えられました。C山さんはがっくりと肩を落としていましたが、詰めかけたおじさんの観客には、かえって純粋な演歌のほうが耳に合っていたようで、「東京おじさんコレクション」はめでたく大成功となったようです。

※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 
 
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ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会所属 東京都行政書士会所属 東京都行政書士会著作権相談員 東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員 株式会社ボングゥー代表取締役

「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
http://www.bon-gout-pat.jp/


○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
http://www.bon-gout-office.jp/

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