知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.3

第10回

業務上の違法コピーは会社の責任?社員の責任?~パソコンソフトウェアの不正コピーにまつわる話

堀越 総明 2015年8月3日
 

経費削減のため新人のパソコンに画像編集ソフトを不正にインスト-ル


中堅旅行代理店「イノベーションツアー」のA主任は、職場の同僚が急に退社してしまったため、1人で2人分の仕事をすることになり、てんやわんやの大忙しです。イノベーションツアーは、大手との価格競争を避けるため、お客様1人1人に合わせたオンデマンドのツアー販売を強みとしていますが、そのため旅行行程表の作成など事務作業は実に煩雑で、A主任は、今日も夜遅くまでパソコンとにらめっこの状態です。
B支店長「よぉ、Aくん。いつも夜遅くまで大変だね~。」
A主任 「支店長、同情するなら補充人員をください。」
B支店長「・・・キミは少し古いね~。でも、いまは全社を挙げて経費削減に取り組んでいるんだよ。退社による自然減には補充人員はないんだ。でも、キミに倒れられたら元も子もないからね。正社員は難しいけど、パート社員を採用してあげるよ。」

数日後、A主任の職場に、新しいパート社員のCさんがやってきました。Cさんは、子育てがひと段落したママさんで、産休前はメーカー勤めをしていたそうです。A主任は、最初はCさんの実力に半信半疑でしたが、Cさんは文書作成も表計算も完璧で、瞬く間にA主任の職場になくてはならない存在になりました。

そんなある日、A主任が旅行行程表に掲載する写真の画像編集をしていると、CさんがAさんのパソコンを覗きこんできました。
Cさん 「A主任、画像編集なら私得意ですよ。実は美大のデザイン科を出てまして、そのソフトもいつも使っていました!」
A主任 「本当!?それは助かる!ボクは画像編集が苦手でね。それじゃこれからはCさんにお願いするよ。」

不正コピーの事実が業界団体に内部告発されることで発覚!


しかし、Cさんの使っているパソコンには画像編集ソフトが入っていません。A主任は、早速、B支店長のもとに行き、Cさんのパソコンに画像編集ソフトをインストールするようにお願いしました。
B支店長「うーん困ったね。今期は経費の予算がまったく余ってなくてね。。。Aくん、総務課に何か適当な理由を言って、CD-Rを借りてきてインストールしちゃえよ。」

A主任はいけないこととは思いながらも、自分の仕事を少しでも楽にしたい一心で、自分のパソコンに不具合があったので再インストールすると総務課に嘘をついて画像編集ソフトのCD-Rを借りてきて、Cさんのパソコンに勝手にインストールしてしまいました。

「いやー、美大出身の人が編集した画像はクオリティが違うね~。」と上機嫌のA主任でしたが、それから1ヵ月後、B支店長が血相を変えてA主任のところにやってきました。
B支店長「Aくん、大変だ!私たちがパソコンソフトの不正コピーをしているって、業界団体に内部告発があったらしいぞ!!」


パソコンソフトの不正コピーは著作権侵害で犯罪となります!


パソコンソフトは、著作権法上「プログラムの著作物」に該当し、著作権で保護されています。つまり、著作権者であるパソコンソフトメーカーに許諾を受けることなく、勝手にそのソフトを複製することは、著作権侵害となってしまいます。

パソコンソフトは、通常は購入するときにインストールできるパソコンの台数が決められています。購入したパソコンソフトをCD-Rに複製して転売する行為は、不正コピーとして著作権侵害になることは当然ですが、この決められた台数を超えて複数のパソコンにソフトをインストールしてしまうことも、不正コピーとなり、著作権侵害となります。

そして、この不正コピーは、被害者のパソコンソフトメーカーから民事上の損害賠償を請求されるばかりでなく、著作権法上10年以下の懲役もしくは1千万円以下の罰金、またはその両方が課せられるという刑事罰が規定されています。経費予算を守るためにB支店長とA主任が軽い気持ちでとった行動は、意外にも重罪なのです。

不正行為者も上司も会社も、すべてが著作権侵害の責任を負うこととなります!


ところで、パソコンソフトの業界団体からの指摘を受けた社内調査の席で、A主任は「会社の業務の遂行のためにやったのでボクは一切個人的利益を得ていません!」「ボクはB支店長の指示に従っただけです!」と主張しています。それではA主任には本当に責任はないのでしょうか?

まずは民事上の損害賠償責任ですが、これは著作権侵害の行為によって、その侵害により経済的利益を得た者が負うこととなります。A主任が言う通り、パソコンソフトの不正コピーにより、A主任は経済的利益を得ていません。経済的利益を得たのは会社となりますので、パソコンソフトメーカーから損害賠償請求をされた場合は、そのメーカーにお金を支払う必要があるのはイノベーションツアーということになります。

しかし、刑事責任は、損害賠償責任とは異なり、実際に侵害行為を行った者、つまりA主任が負うこととなります。なぜなら、具体的に悪い行為をした者が反社会的な行為を行ったとして、処罰されるべきだからです。確かにA主任が言う通り、A主任は会社の業務の遂行のため、B支店長の指示に従って不正コピーしたわけですが、実際に不正コピーという行為をしたのがA主任であるので、少なくともA主任は刑事責任を負うこととなります。

それでは、A主任に不正コピーの指示をしたB支店長には、刑事責任はないのでしょうか?この場合、上司であるB支店長の指示により、A主任が不正コピーを決意したとすれば、B支店長はA主任と同様の刑事責任を負うこととなります。
さらに、具体的行為をしたA主任、A主任に指示をしたB支店長だけでなく、A主任やB支店長に対する注意義務が足りていなかったとして、イノベーションツアーも3億円以下の罰金という厳しい刑事罰が課されることになるのです。

社内調査で自らの罪を認め、深く反省したB支店長とA主任は、パソコンソフトメーカーに出向き心からの謝罪をし、イノベーションツアーも、すぐに正規のパソコンソフトを必要数購入したことにより、パソコンソフトメーカーは刑事告訴を思いとどまってくれました。著作権侵害の罪は、被害者からの刑事告訴がなければ、逮捕されたり起訴されたりすることはありませんので、B支店長とA主任はほっと胸をなでおろしたということです。


※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。
 
 
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ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会所属 東京都行政書士会所属 東京都行政書士会著作権相談員 東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員 株式会社ボングゥー代表取締役

「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
http://www.bon-gout-pat.jp/


○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
http://www.bon-gout-office.jp/

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