知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.3

第8回

業務で制作したデザインの著作権は会社のもの?社員のもの?~職務著作にまつわる話

堀越 総明 2014年11月11日
 

新しく雇用したアルバイトのデザイン力で業績は大幅に改善!


街の印刷会社「イノベーション印刷」を経営するA社長。先代から数えて50年も事業を続けていますが、ネット印刷会社の攻勢に押されて、ここ数年はまさに青色吐息の経営です。30年もチラシの印刷の注文を受けてきたスーパーからの取引中止の電話を受け、A社長は大きく肩を落としました。
A社長 「インターネットなんて発明されなければ良かったんだ!」
そうつぶやいたA社長は、デスクの上のパソコンを叩いて、窓から遠くを見つめました。

しかし、そんなA社長に新たな希望の光が射してきました。長年勤務したアルバイトのデザイナーが突然辞めてしまったため、若者のデザイナーBさんを新しく雇用したところ、そのデザイン力の高さが評判になり、新しい取引先が徐々に増えてきたのです。

A社長 「Bくん、君のデザインはすごいねー!お客様も大手の広告代理店を通して印刷の注文をしているようだと大喜びだよ。」
Bさん 「(流し目で)恐縮です。ところで社長、うちもインターネットで受注を取ってみませんか?僕は企業ロゴのデザインが得意なので、きれいなWEBサイトを作れば、結構受注があると思うんです。ロゴの受注と一緒に、封筒や名刺、会社案内の印刷もまとめて注文を受けちゃいましょう!」

A社長がBさんの言うとおりに新しいWEBサイトを作ると、Bさんの洗練されたロゴデザインが注目を集め、日本全国から注文が殺到しました。
「いやぁー、インターネットはすばらしい発明だねー!!」と、興奮しながら毎日忙しく働くA社長。しかし、間もなくなんと希望の星のBさんが突然退職願を出して会社を辞めていってしまったのです。

独立したデザイナーが在職中のデザイン実績をホームページに掲載


A社長はショックを受けながらも、日々殺到する受注をさばくべく、腕利きの新しいデザイナーを迎え入れ、なんとか業績を落とさずに踏みとどまりました。
しかし、ある日、A社長がインターネットでライバル企業のWEBサイトをチェックしていると、なんとBさんが独立して会社を設立し、WEBサイトを作って企業ロゴデザインの注文を受けているではありませんか。しかも、そのWEBサイトには、Bさんの実績として、Bさんがイノベーション印刷に勤めているときにデザインした企業ロゴも掲載されています。

怒ったA社長は、すぐにBさんの会社に電話をかけました。
A社長 「Bくん、久しぶりだな・・・!」
Bさん 「あっ、A社長。。。」
A社長 「うちの会社で作った企業ロゴを勝手に君の会社のWEBサイトに掲載しているけれど、そういうのを著作権侵害っていうんだよ。」
Bさん 「何を言ってるんですか!あの企業ロゴはすべて僕がデザインしたんです!著作権は僕にあります!」
A社長 「君はうちの会社の業務としてデザインしたんじゃないか!そのためのアルバイト代だって払っていたよ!」



著作権は実際に創作したデザイナーに帰属するのが原則です


さて、A社長から怒りの抗議を受けたBさんですが、それではBさんがイノベーション印刷時代にデザインした企業ロゴの著作権は、いったい誰のものなのでしょうか?

著作権は著作者に原始的に帰属し、著作者は著作物を創作する者となります。そして著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したもの・・・」と定義されています。つまり、その著作物を具体的に表現した人が著作者であって著作権者となり、その創作のためにアイデアを出しただけの人や、お金を出しただけの人は著作者とはなりません。これが原則です。

ということは、Bさんがイノベーション印刷在職時にデザインした企業ロゴの著作者は、会社ではなく、実際に手を動かして企業ロゴを表現したBさんであり、Bさんが著作権者ということになりそうです。
しかし、これではA社長は納得がいきません。企業ロゴを実際に制作したのはBさんであっても、会社はBさんにアルバイト代を払っていますし、企業ロゴデザインの注文を受けるためには、WEB制作費など多くの宣伝費を負担しています。
また、もしBさんが企業ロゴの著作権者となってしまったら、会社は、お客様からの注文を受けて、名刺、封筒、パンフレットなどにその企業ロゴを印刷する場合でも、いちいちBさんの許諾が必要になってしまいます。これでは営業的にも業務的にも大きな支障が出て困ってしまいます。

会社の業務で創作した場合は原則会社に著作権が帰属することになります!


そこで、法律では「職務著作」という制度を規定しています。おおまかな言い方にはなりますが、会社の従業員が会社の業務として著作物を創作し、その著作物を会社の成果として発表した場合には、その著作者は会社となり、すべての著作権は原始的に会社に帰属することとなるのです。ただし、会社の勤務規則や雇用契約書などで、「職務著作に該当する場合でも著作者は従業員になります」のような規定を設けることは自由です。しかし、こういう規定をわざわざ設けている会社は、ごく稀といえるでしょう。

この「従業員(従業者)」には、正社員、契約社員、パート社員、アルバイト、役員など実質的な雇用関係にある人をすべて含みます。ということで、アルバイトとして働いていたBさんが、業務として制作していた企業ロゴについては、職務著作が成立し、イノベーション印刷がその企業ロゴの著作者、著作権者となるのです。

A社長は、著作権に詳しい知り合いの行政書士からこのことを教えてもらうと、その行政書士に著作権侵害の警告書を作成してもらい、Bさんに内容証明郵便で送りました。Bさんはやむなく自分の会社のホームページからイノベーション印刷在職時にデザインした企業ロゴをすべて削除し、A社長にお詫びしました。


※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 
 

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会所属 東京都行政書士会所属 東京都行政書士会著作権相談員 東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員 株式会社ボングゥー代表取締役

「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
http://www.bon-gout-pat.jp/


○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
http://www.bon-gout-office.jp/

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