知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.3

第2回

ゴーストライターが書いた本の著作権は誰のもの??~著作者の認定にまつわる話

堀越 総明 2014年2月27日
 

カレー大好き社員が社命によりカレーの歴史本を執筆することに!


大手食品メーカーA社の宣伝部に勤務するB係長。来春に、主力商品のカレールウ『イノベーションカレー』が大幅なモデルチェンジをするため、その発売日に向けたキャンペーンの準備で大忙しです。そんなある日、B係長はC部長に内線電話で呼び出されました。

C部長 「やあB君、キャンペーンの準備は順調に進んでいるようだね。『イノベーションカレー』はうちの看板商品だ。宣伝費はバンバン出すから、思いっきりやってくれよ!」
B係長 「恐縮です。」
C部長 「ところでね、このあいだ大手出版社のD社から、うちの会社でカレーの歴史の本を書いてほしいという依頼があってね。常務とも相談したんだけど、カレーが大好きで、我社の“キレンジャー”と言われているキミに是非執筆を担当してもらおうということになったんだ。ちなみに本の発行日は、『イノベーションカレー』の発売日と合わせたからね!」

本の執筆はゴーストライターに依頼!!


B係長は、困りました。確かに自分は“キレンジャー”と呼ばれるほどカレーが大好きで、カレーに関するうんちくも相当なものです。しかし、今はキャンペーンの準備で多忙を極め、本を執筆している余裕はありません。悩んだ末にB係長は、あることを思いつき、○×銀行に勤めている親友のE山さんに電話をかけました。
B係長  「おーE山、久しぶり。突然だけど、おまえ、カレー好きだったよな?」
E山さん 「ああ、“○×銀行のキレンジャー”って呼ばれてるよ。」
B係長  「頼みがあるんだけど、俺の代わりにカレーの歴史の本を執筆してくれないか?」
E山さん 「面白そうだなあ。昔から物書きの仕事に憧れていたんだ。引き受けるよ!」

次の日曜日に、B係長はカフェでE山さんに会い、A4の紙1枚に書いた指示書のようなものを渡しました。
E山さん 「この指示書の中の最初の黒い台形みたいな図は何だ?」
B係長  「東インド会社がカレーをイギリスに広めていった時代を表してるんだ。」
E山さん 「へえ~。次のこの大きめの黒い台形は?」
B係長  「幕末にカレーが日本に伝わった時代を表してるんだ。ここはこの本の最大の盛り上がりだね!」

本は大ヒット、そして衝撃の告白へ・・・

E山さんは、このB係長のへんてこな指示書を参考に、カレーの歴史の本を書き上げました。B係長は、E山さんから渡された原稿をC部長に提出し、本は無事に「A社編著 『ビバ!カレー!』」として発売されました。

カレーの歴史の本『ビバ!カレー!』は、カレー好きの人気タレントがテレビのバラエティ番組で取り上げたこともあり、なんと、本は瞬く間にベストセラーになりました。ベストセラーの執筆者としてB係長はテレビの料理番組に出演したり、マスコミから取材を受けたりするまでになり、しだいにB係長は自分が執筆していないという罪悪感に苛まれるようになります。そして、ある日、B係長はマスコミに対し、衝撃の告白をしました。
B係長 「すみません・・・。その本を書いたのは私ではありません。実はゴーストライターがいます・・・。」

ゴーストライターがいる場合の著作権の権利関係は?


ここまでのお話はフィクションですが、先日、人気作曲家が作曲したクラシック楽曲が、実はゴーストライターが作曲したものであった、という事件がありました。この事件では、人気作曲家が、知り合いの音楽家に、曲のイメージを記載した指示書を渡して作曲を依頼し、その音楽家がゴーストライターとして作曲した楽曲を自己の名で発表していたことが報道されました。
このように、楽曲や本について、実はゴーストライターがいる場合、その権利関係はいったいどうなっているのでしょうか?

社外のゴーストライターが執筆すると職務著作は成り立ちません


今回のお話の『ビバ!カレー!』の件についてみますと、まず、この本は、A社名義で発行されています。著作権法では「職務著作」という規定があり、会社の発意により会社の従業員が職務上作成し、会社の名義で公表したものは、原則として会社が著作者となり、また著作権者になる、とされています。
C部長をはじめ、A社は、『ビバ!カレー!』は、従業員のB係長が職務上作成したものと思っていましたから、職務著作に該当し、この本の著作者はA社であって、著作権もA社に帰属していると思っていたでしょう。
ところが、実際に『ビバ!カレー!』を執筆したのは、社外のE山さんでした。

著作権法では、著作者とは「著作物を創作する者」と規定され、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」と規定されています。つまり、著作物を具体的に表現した人が著作者となり、単にアイデアを出した人は著作者にはなりません。
そのため、この本の著作者は、本を具体的に執筆したゴーストライターのE山さんであり、B係長は単に本のイメージが記載された指示書を渡してE山さんにアイデアを示したに過ぎませんので、著作者とはいえません。
よって、『ビバ!カレー!』は職務著作には該当しないため、この本の著作者はA社でなく、E山さんとなります。

ゴーストライターでも創作者である限り著作権者となります!


次に、著作権者は誰になるのでしょうか。著作権は、著作物を創作した時点で、著作者に帰属します。そのため、執筆した時点でE山さんが『ビバ!カレー!』の著作権者であったことは間違いないでしょう。しかし、この本は、A社名義で発行されています。E山さんが「自分はゴーストライターだから」という理由で、A社名義での発行を承知していたことにより、E山さんがA社に著作権を黙示的に譲渡したという見方もあります。しかし、E山さんのA社に対する著作権譲渡の意思が確認できなければ、たとえA社名義で発行されていても著作権者もE山さんであると考えるのが妥当だと思います。

つまり、B係長が社外のE山さんにこの本のゴーストライターを依頼してしまったことで、E山さんがこの本の著作者や著作権者になってしまい、本来は著作者や著作権者になるはずだったA社はまったくの無権利者となってしまったのです。B係長はいたって軽い気持ちだったのでしょうが、結果は重大な問題を引き起こしてしまいました。

さて、知り合いの行政書士に相談して、『ビバ!カレー!』の著作権がE山さんにあることを知ったC部長は、E山さんに新しい「イノベーションカレー」1年分をプレゼントし、A社はE山さんからこの本の著作権について譲渡を受ける契約を交わすことができました。

※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 
 
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ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会所属 東京都行政書士会所属 東京都行政書士会著作権相談員 東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員 株式会社ボングゥー代表取締役

「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
http://www.bon-gout-pat.jp/


○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
http://www.bon-gout-office.jp/

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