自動車各社、トランプ関税で収益悪化 日本政府は粘り強く引き下げ要求を
自動車関連業界の2025年4~6月期決算発表が出そろい、多くの企業で業績の落ち込みが目立った。日本経済の〝けん引役〟が大幅減益・赤字に陥った要因のひとつは、トランプ米政権が日本を含む世界各国・地域に発動した関税措置。最大の焦点は日本の対米輸出額の3分の1を占める自動車への関税だ。日米両政府は米国が27.5%に引き上げている日本の自動車関税を15%に引き下げることで「合意」しているが、引き下げ時期もはっきりしておらず、日本経済にとって予断を許さない状況が続く。
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財務省の統計によると、日本から米国への自動車輸出台数は24年で137万台に達し、金額では6兆円を超えた。国別では米国が最大の輸出先で、全体の3割を占める規模だ。自動車にはこれまで2.5%の関税がかかっていたが、米国が4月に25%の追加関税を実施、現行では27.5%となっている。日米両政府は7月、追加関税25%が半分の12.5%に引き下げられ、もとの2.5%と合わせて関税率は15%になるとしていたはずだ。
「トランプ関税」を受け、乗用車メーカー7社の4~6月期連結決算を見ると、関税に伴う影響額は合計で8000億円近くに上る。トヨタ自動車4500億円、ホンダ1246億円、マツダ697億円、日産自動車687億円などと大幅な営業利益引き下げ要因となった。純損益ベースではホンダが前年同期比で50%、トヨタも4割近くそれぞれ減益、経営不振が続く日産自動車、輸出依存度が高いマツダはそれぞれ1157億円、421億円の巨額赤字に陥った。
さらに26年3月期通期の業績見通しでは、日米交渉で合意した15%の自動車関税を前提とすれば、トヨタで1兆4000億円、ホンダで4500億円、日産で最大3000億円もの営業利益を押し下げるデメリットがあると見込む。ただ、トヨタの場合、関税が8月から引き下がる前提で見積もっており、引き下げまで時間がかかればマイナス額が一段と増えてしまう。
特にマツダやスバルは米国への輸出比率が高い。マツダは世界販売の3分の1を米国が占め、日本からの輸出が米国での販売の5割まで達する。8月、期初に未定としていた26年3月期通期の純利益が前期比82%減の200億円になると発表し、関税影響は2333億円と説明した。スバルも世界販売の7割を米国が占め、その5割を日本から輸出。26年3月期に関税影響が2100億円あるとみて、純利益が53%減の1600億円と厳しく予想せざるを得ない。
決算会見では、多くの自動車メーカーが「今後も収益への影響は計り知れない」(首脳)との見方が強まり、米国での需要の落ち込みを警戒し、車両価格値上げなど販売戦略の見直しにも言及した。ホンダや日産からは「慎重に判断する」「機会があれば改定する」などとの発言も聞かれた。値上げに踏み切ったとしても関税分の全てをコスト転嫁するのは困難な一方、関税を回避すべく米国へ生産拠点などを移転するとなると膨大なコスト負担も不可欠となるだろう。例え、自動車関税幅が縮小したとしても、収益には巨額なマイナスに寄与するのだけは間違いない。
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自動車の大量輸送を手掛ける海運大手3社も、4~6月期の純利益がいずれも前年同期比50%以上マイナスとなった。トランプ関税による需要減退が懸念され、コンテナ船事業で運賃が下がったことなどが響いた。日本郵船は26年3月期の連結純利益が前期比50%減の2400億円になる見通し。関税について期初に通期で最大1000億円の減益要因と試算していたが、不確定要素が多いとして、業績予想には織り込んでいなかった。
市場関係者は「海運大手の自動車船事業は堅調な輸送需要に支えられ、好調に推移しているが、車両販売動向を注視する必要がある」(メガバンク系アナリスト)と指摘する。関税を踏まえ、車両値上げにつながることになれば、米消費者の購買意欲が冷え込む事態も想定され、海運全体に悪影響を及ぼすためだ。
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石破茂政権は8月に入っても、米国と自動車関税では負担軽減措置で合意済みと訴えているが、依然実行されていない。政財界からは「これほど日米の言い分が食い違うことがあるのか⁉」と交渉自体を疑問視する声も少なくない。
自動車関税引き下げが遅れれば遅れるほど、自動車メーカー各社の対応は鈍化し、部品メーカーなど取引先への影響懸念が着実に増してくる。日米関税合意の履行へ向け訪米している赤沢亮正経済再生担当相は、米国が大統領令を修正・適用する時期に関し「引き続き、可及的速やかに修正するよう申し入れていく」と繰り返す。政府は「自動車は日本の基幹産業であり、米国には日本経済への影響が極めて大きい自動車関税の引き下げ、日米合意を実施するための措置を速やかに取るように求める」(石破首相)と強調しているだけに、〝トランプ流ディール外交〟に惑わされず、粘り強く引き下げを求め続け、一刻も早く実現すべきだ。