株式会社労務研究所 代表取締役 可児俊信 氏
手厚い福利厚生で従業員のエンゲージメント向上 人材確保、企業価値向上をもたらす
従業員をコストではなく資本と捉え、その価値を最大限に引き出す人的資本経営が注目を集めている。企業にとって優秀人材の採用・定着につながるからで、給与の引き上げだけでなく、福利厚生にも力を入れる。福利厚生分野の専門機関である労務研究所の可児俊信代表取締役は「手厚い福利厚生で従業員エンゲージメントは高まり、企業価値の向上をもたらす」と効果を説く。
- ――企業はなぜ福利厚生に注目しているのか
- 一例を挙げれば、ライフスタイルの多様化で世帯主である従業員が減少し、独身者が多くなった。このため(企業が従業員の結婚や出産、葬儀などの際に支給する)慶弔見舞金が減り、新たな還元が課題になってきた。世帯主も独身も平等に受益するという福利厚生へのニーズはますます高まるからだ。
- 今後は、慶弔金のようにライフコースによって受益格差が発生する福利厚生ではなく、より健康、より楽しい生活の支援ではないだろうか。背景にあるのが人的資本経営であり、健康経営だ。
- ――どんな福利厚生が求められているのか
- 代表的なものとして社宅・独身寮、職場給食、レクリエーション活動などがある。加えて最近では、多様なニーズに応えられるカフェテリアプランであり、ワーク・ライフ・バランスの実現支援、自己啓発支援、福利厚生サービスのアウトソーシングなどが受け入れられるようになった。健康経営の視点ではスポーツや人間ドックへの補助は有効だ。手厚い福利厚生はエンゲージメントを高め人材の定着を促す。これにより生産性は向上し企業価値を高める。新卒者も企業の選考基準に福利厚生の手厚さを挙げる。自ら使いたいのは勿論だが、従業員を大事にする企業、安定している企業と判断できるからだ。このため大企業でなくても、福利厚生の充実をアピールして採用強化を図っている。
- ――政治の後押しもある
- 2026年度から税制改正により食事代補助の非課税枠が月3500円から2倍超の月7500円に引き上げられた。物価高でワンコイン(500円)ランチが見かけなくなり、都心のランチ代は1000円超も珍しくない。従業員にとって食事代を節約できる効果は大きい。また、10月からは「同一労働同一賃金制度」の指針が改訂される。正規と非正規(契約社員やパートタイム労働者など)の間の不合理な待遇格差が禁じられる。家族手当のほか、正社員と同じく転居を伴う配置転換の可能性がある場合には住宅手当を支給しないと不合理な格差とされる。病気休暇も正規との格差を認められなくなる。非正規のエンゲージメント向上、長期就業につながる。
- ――福利厚生にかかるコスト、つまり費用対効果はどうなのか
- 賃金は人手不足と採用競争の激化で水準は毎年引き上がっている。初任給は月20万円が30万円になり、年間のコストは120万円の上昇だ。そろそろ賃上げも限界に近づいている。一方、福利厚生(健康保険、厚生年金など法定福利費を除く)は平均で月2.5万円。これを3.5万円に引き上げても費用は年12万円の増加に収まる。1万円増えるだけで他社と差別化できるし、それだけ採用につながりやすい。
- ――福利厚生に力を入れた方がいい
- 給与が高いことに越したことはないが、給与だけを重視して働いているわけでもない。とはいえ福利厚生の内容次第といえる。例えば女性が多いなら育児重視、旅行好きが多いのであれば宿泊補助をアピールしたほうが、エンゲージメントの向上につながりやすい。従業員の要望を聞いて対応すべきだ。経営者にとって健康経営を打ち出し実行すれば従業員が健康になり病気で休む人が減る。それだけ労働生産性が向上し企業価値が高まる。企業の人材戦略として有効だ。
- ――厚生労働省が後援する福利厚生表彰・認証制度「ハタラクエール」の事務局を務める
- 事務局としてすべてを担っている。毎年10月に募集し3月に表彰・認証企業を発表、5月に表彰式というスケジュールで動いている。2026年に厚労省が後援に入った。ハタラクエールは、福利厚生の充実・活用に力を入れる法人であることを学識経験者らで構成する審査委員会が審査し「優良福利厚生法人」「福利厚生推進法人」として表彰・認証する。第三者機関による客観的認証なので新規採用と従業員の定着に効果がある。ロゴマークも使える。
- ――審査基準は
- 評価の主な視点は、福利厚生に対する従業員ニーズを把握しているか、経営・人事戦略における課題解決手段として認識し有効に機能しているか、自社の制度を従業員に周知しているか。知名度向上により応募企業も増えており、表彰・認証企業は延べ877法人に達した。
- ――ところで、福利厚生専門誌「旬刊福利厚生」の休刊を決めた。その理由は
- 1952年から発行してきた。福利厚生はトレンドとして盛り上がっているが、情報提供ルートが多様化し、紙からウェブという流れもあり、今年1月下旬号を最後に休刊した。バックナンバーの販売は当面継続する。福利厚生の専門書はないので福利厚生書籍の事業は続ける。福利厚生への注目度は引き続き高いので今後はコンサルティングやセミナーなどを強化していく。専門機関として蓄えてきたデータ、ノウハウを生かしていく。
可児俊信(かに としのぶ)
株式会社労務研究所(福利厚生専門誌「旬刊福利厚生発行」) 代表取締役
千葉商科大学会計大学院会計ファイナンス研究科 教授
株式会社ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所 所長
1996年より福利厚生・企業年金の啓発・普及・調査および企業・官公庁の福利厚生のコンサルティングにかかわる。年間延べ700団体を訪問し、現状把握と事例収集に努め、福利厚生と企業年金の見直し提案を行う。著書、寄稿、講演多数。
▼略歴
1983年 東京大学卒業
1983年 明治生命保険相互会社(現明治安田生命保険)
1988年 エクイタブル生命(米国ニューヨーク州)
1991年 明治生命フィナンシュアランス研究所(現明治安田生活福祉研究所)
2005年 千葉商科大学会計大学院会計ファイナンス研究科教授 現在に至る
2006年 ㈱ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所所長 現在に至る
2018年 ㈱労務研究所 代表取締役 現在に至る
▼著書 「新しい!日本の福利厚生」労務研究所(2019年)、「実践!福利厚生改革」日本法令(2018年)、「確定拠出年金の活用と企業年金制度の見直し」日本法令(2016年)、「共済会の実践的グランドデザイン」労務研究所(2016年)、「実学としてのパーソナルファイナンス」(共著)中央経済社(2013年)、「福利厚生アウトソーシングの理論と活用」労務研究所(2011年)、「保険進化と保険事業」(共著)慶應義塾大学出版会(2006年)、「あなたのマネープランニング」(共著)ダイヤモンド社(1994年)、「賢い女はこう生きる」(共著)ダイヤモンド社(1993年)、「元気の出る生活設計」(共著)ダイヤモンド社(1991年)
▼主な講演歴(委託者、順不同):
<非営利団体向け>
(一社)日本経済団体連合会、日本商工会議所、(公社)大阪府工業協会、(一財)中部生産性本部、(一社)財形福祉協会、(一社)東京都信用金庫協会、(一社)地方銀行協会、電気事業連合会、全国中小企業団体中央会、(公財)日本賃貸住宅管理協会、(一社)日本新聞協会、(一社)全国青果卸売市場協会、NPO法人日本ファイナンシャル・プランナーズ協会、(一社)企業福祉共済総合研究所、企業福祉管理士会、確定拠出型年金教育普及協会、
<企業向け>
日本生命保険(相)、第一生命保険(株)、明治安田生命保険(相)、住友生命保険(相)、(株)名古屋銀行、(株)都民銀行、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)、SMBCコンサルティング(株)、みずほ総合研究所(株)、東京ガス(株)、(株)船井総合研究所、エヌ・ティ・ティ・ビジネスアソシエ(株)、(株)守谷商会、リード エグジビション ジャパン(株)、(株)アドバンテッジリスクマネジメント、(株)日本法令、(株)パソナ、ダイワライフネクスト(株)、ラジオ短波(出演)、j.union株式会社、(株)ビズアップ総研、(株)日刊工業新聞、(株)ユウワビジネス、(株)ダイヤモンド社、プルーデント・ジャパン(株)、日本CHO協会、(株)OKAN
<公的団体向け>
国税庁税務大学校、全国都道府県庁職員福利厚生事業協議会、三重県共済組合協議会、東北地区市町村福利厚生連絡会、都市職員厚生会、横浜市(経済局雇用労働課)、
<労働組合向け>
全国ガス労働組合連合会、日本食品関連産業労働組合総連合会(フード連合)、日本発条労働組合