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WIPジャパン株式会社 代表取締役社長   上田 輝彦

AI駆使してサイトや書籍を外国語化

翻訳・通訳などを通じて多言語ビジネス支援を手がけるWIPジャパン(ウイップ・ジャパン)は、生成AI(人工知能)技術を活用した事業に乗り出した。圧倒的な翻訳支援機能を駆使しAI翻訳とAI校正、人による手動翻訳を組み合わせたAI翻訳サービス「AIシュリーマン」を売り出した。第1弾はウェブサイトを多言語化するサービスで、続いて日本の書籍を英語にして北米で出版するサービスを始めた。グローバル化とAI時代の到来を踏まえたもので、上田輝彦社長は「AIと戦うより、AIを取り込んで勝ち残る」と事業拡大に意欲を示した。

――「シュリーマン」と名付けた理由は
トロイの遺跡を発掘したドイツ人実業家、ハインリヒ・シュリーマンにあやかって名付けた。同氏は15カ国語を駆使して貿易業で巨万の富を得て、その財をトロイ遺跡の発掘に投下した。外国語を身に着けるためにひたすら音読したが、うるさくて周囲は引っ越したというほどだった。シュリーマンのように、外国語を自由に操って海外事業で成功を収める日本企業・経営者が数多く出てきてほしいとの思いを込めた。
――ウェブサイトの翻訳サービスとは
丸ごと翻訳するサービスで、AIが翻訳して、それをAIが校正。さらに高品質なプロの翻訳者がチェックして手を加える。使用する翻訳エンジンは、一般的な文章としての翻訳精度が頭一つ抜き出ているといわれる『DeepL』と、単語単位での検索精度が圧倒的に高い『Google翻訳』を組み合わせた。双方の弱みを補う独自アルゴリズムを適用し、文章にも固有名詞にも強い翻訳を実現する。
――すでにある翻訳サービスとの違いは
後発なので先行他社より機能を引き上げ、料金を抑えた。我々はもともと、翻訳・通訳事業を運営しており、翻訳の精度が違う。通常のAI機械翻訳は不安という企業・経営者は少なくない。プロ翻訳者を100点とすると、AI翻訳は80~85点。これにAI校正が入って5~10点高まり、プロのチェックで加点して100点になるといった具合だ。高い精度と自然さをもった翻訳を得ることができる。世界31か国語に対応できるため、ウェブサイトの内容が、外国の顧客やビジネスパートナーにも正確かつ自然に伝わる。
――手応えは
今年2月に提供を始めた。導入したのは現状で10社程度だが、関心は高い。ターゲットは中小企業というより上場企業であり、ナショナルクライアント。大企業でもウェブサイトの翻訳に取り組んでいないところは多くない。他社サービスを使っていた企業でもサイトのリニューアル期を迎え、契約を我々に切り替えるところも出てきた。予算取りの関係から契約は今年度ではなく、4月以降の来年度からという企業もある。ニーズは高いと判断し、差別化戦略の一つと位置付け、料金も強気の設定に改定する。
――第2弾については
日本初のChatGPTを搭載したクラウドサービスにより、日本の書籍をこれまでより早く安く簡単に、海外へ翻訳出版するサービスだ。『AIシュリーマン Swift Publishing(エーアイシュリーマン スイフトパブリッシング)』と名付け、今年10月から提供を始めた。
――サービスに乗り出した理由は
従来の海外における書籍出版は、有名な作家でない限り米国(海外)での出版は極めてまれで、ビジネス書や実務書はほとんどなかった。その理由は、日本語から英語への翻訳専門家が少なく、その質の担保が難しい。また翻訳の工数とコストが非常に大きく、1冊あたり200万~300万円程度の費用がかかる。このように海外出版には多大な手間と難度が伴ううえ、売れるかどうかの需要予測が難しく、著者が希望しても日本の出版会社は応じてくれないという。こうした課題を解決したかった。
――そのためAIをサービスに取り込んだというわけか
AI翻訳・AI校正・人力校正と海外出版を組み合わせたサービスをつくった。当面はビジネス書に特化する。北米で歴史のある出版会社、PCSとの強固な連携により、米国の出版スタンダードに合致した品質のもと、最終校正、デザイン、製本まで担当してもらう。納期も6カ月で、Amazonで販売する。製本200冊は日本に配送するのでブランディングに活用できる。しかも、従来は翻訳から現地出版まで計600万~1000万円かかっていた費用を半分以下に圧縮できる。
――興味や関心を持つ経営者は多いのではないか
日本には世界に発信すべき書籍が多く眠っている。日本の10~20倍といわれる英語書籍市場に届けば、著者はもちろん、世界中の読者にとっても喜ばしいことになる。長年の出版業界の課題を生成AI技術と連携の力で解消できる。チャレンジする価値があるので、ぜひ海外に出て行ってほしい。
――日本を知ってもらう機会を増やすことにもつながるのでは
書籍の世界では、世界の文学の多くが日本語訳されており、世界の文学が日本語で読める。翻訳大国・日本といわれるほどで、英語の本でも他国語で読めるわけではない。読みたい文学を読むために日本語を習いに来る外国人がいる。言い換えると、こうした外国人を介して日本の優れたコンテンツを翻訳して世界に発信する時代でもあるわけだ。日本の地位向上につながり、世界に貢献できる。言語の壁はあるが、宗教的に中立である日本がリーダーになれる。日本の安全保障にもつながる。翻訳を通じて日本を知ってもらうチャンスだ。
――そもそもAI翻訳サービスに乗り出したわけは
翻訳のAI化により、人が翻訳する仕事は5年後になくなる。ということは、我々のビジネスもなくなるわけで、生き残るためにAIをビジネスに組み込むことにした。コピーライティングなど海外マーケティングもAIを活用することになる。AIが下書きして人が直す流れになる。AIはあくまでもアシスタントととらえるべきだ。
――WIPジャパンらしいビジネスといえるのか
我々は1995年に『もっと理解しあえる世界をつくりたい』を理念に創業した。翻訳・通訳ビジネスは地味だが、理念に対しど真ん中の仕事といえ、理念にかなう。多言語でのコミュニケーションを実現できるため、言葉の壁によるビジネス機会の喪失を防げるだけでなく、日本企業のポテンシャルを最大限に引き出すことができ、多文化な顧客層にアプローチできる。何よりも日本の知識や文化を世界に広める新しいステージを創出できると考えている。
上田 輝彦(うえだ・てるひこ)
WIPジャパン株式会社 代表取締役社長
福井出身。上智大学法学部卒。1989年住友銀行(現三井住友銀行)入行。英国ケンブリッジ大学大学院留学(歴史学部)を経て95年ワールドインテリジェンスパートナーズ(現WIPジャパン)創業。

Webサイト: https://japan.wipgroup.com/index.html
AIシュリーマン:https://ai-translate.com/
AIシュリーマン Swift Publishing: https://japan.wipgroup.com/swiftpublishing

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