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株式会社ベーシック 代表取締役   田原 祐子

“人的資本”を“知的資本”に 暗黙知の形式知化で組織を活性化

雇用の流動化や働き方の変化などで、社員教育やスキルアップを目指した研修のあり方にも変革が迫られている。伝統的に続けられてきた組織内の教育システムは、もはや十分に機能を発揮しない時代を迎えつつある。こうした中で、ベーシック代表取締役で社会構想大学院大学教授の田原祐子氏は、組織の機能や力を伝承し発揮していくため組織を構成する“人”に宿る形式化されていない“知”、いわゆる「暗黙知」の発掘や共有、活用が肝要だと呼びかけている。

――「暗黙知」に注目が集まっていますが、実務や実践の中でその重要性を見出し、活用する術を構築してきました
創業前はコンサルティング会社にいました。新規事業創出を支援する部署で、電力会社の“オール電化”などを支援するという業務に従事していましたが、この仕事でいろいろなことを学びました。当時は電力会社がオール電化を始めた段階です。オール電化住宅もまだほとんどないため、その導入メリットをどう説明し、どう普及させていくのかが課題でした。
ただ、勤め先の会社はコンサルティング会社でしたので、コンサルタントが行かないと実績が上がらない仕組みになっていました。一方、支援先である電力会社などの現場では、人の派遣ではなく顧客に導入してもらうためのノウハウを欲しがっていました。このため、次第に客先と所属する会社との板挟みになり、「客先にメリットが提供できないコンサルティングのやり方」に疑問を感じるようになり、会社を退職。現在のベーシックを起業することになりました。これ以降、顧客に提供しているのが、そのノウハウなどに代表される暗黙知を形式知化し、それを人材育成に活用方法など、改善のための“知”となりました。
――起業した会社は、これまでとはだいぶ違うアプローチに挑戦するコンサルティング会社になりましたね
はい。これまで以上に「顧客のため」にフォーカスすれば自然に、この形態を選択するはずです。ベーシックではそのために“知(ナレッジ、知恵、Knowledge)”を提供してきましたが、これは私の中では一貫しており、“知”は、人材や企業を育成し繁栄するための資源です。この点が評価され、ベーシックは起業後、国内の大手電力会社全10社とオール電化の普及促進にかかわるコンサル契約をさせていただくことができました。
――実際に成果もあがりました
ベーシックが展開しているのは“ナレッジマネジメント”です。これは、簡単に言うと “仕事ができる人のノウハウを組織で共有する”ための方法です。たとえばモノを売る場合でも、上手に売る人となかなか売れない人がいるものです。が、上手に売る人、実績を上げる人が持っているノウハウを水平展開することで、誰もが上手に売れるようになります。同じ取り組みをしても違いが出ることはあります。そんな時は、両者の違いを分析して成果のでている方策に修正する。こういう形(フレームワーク)で広げていくと、飛躍的に実績が伸びます。これが実際にオール電化の普及活動では非常に効果的でした。
――日本ではまだまだ昔ながらの“日本式経営”や教育システムが多くみられます
コンサル業に従事する前は、外資系の人材派遣会社にいました。そこには、外資系の特徴でもあるシステマティックな教育システムがありました。その点では、日本企業は遅れています。雇用の流動化や働き方の変化で、日本企業が得意としたOJTを軸とした教育は難しくなってきています。“背中を見て育つ”といいますが、テレワークの拡大などで背中をみる機会は減っています。そもそも背中も減ってきました。
とはいえ、日本企業などには多くのノウハウや経験を有する人材がいます。これは大きな強みでもあり貴重でもあります。例えばミドルシニア層は多くの経験やノウハウを有しています。しかし、言語化して伝えることに慣れていません。最近はミドルシニアが組織内で居場所を無くしていますが、これは勿体ないことです。彼らの持つノウハウや経験といった“暗黙知”を形式知化して水平展開できれば、それは大きな力になることでしょう。デジタル技術を持った若者が強く求められる時代ですが、いくらDXだといっても本来の仕事のスキルやノウハウ、経験がないと中身の薄いDXになりかねませんからね。
――暗黙知は宝の山ですね
ミドルシニアの持つ暗黙知の活用は、日本経済にとっても大きな力になることでしょう。そんな暗黙知を棚卸して形式知化し、可視化する。これは人的資本を知的資本に変えていくことでもあります。可視化した知は結合の機会も増え、新たな事業を創造するイノベーションにもつながります。そういう、知の構造化やつながりが新しいものを生み出していくことに期待がもてます。
ナレッジマネジメントの理論を追求する中で書籍や論文を書き、それがきっかけで大学教授や社外取締役などの仕事も担うようになりました。この取り組みが、活動の幅をさらに広げる原動力になり始めています。この活動を通じ、知的資本の蓄積を促していきたいと考えています。これが、今、危機的状況になっている、日本経済復興の起爆剤となり、日本の強みと底力を活かした組織の活性化にも求められているように思います。
田原 祐子(たはら・ゆうこ)
株式会社ベーシック 代表取締役

社会構想大学院大学「実践知のプロフェッショナル」を養成する実務教育研究科教授、 日本ナレッジ・マネジメント学会理事。

トップマネジメントや、次世代を担うエグゼクティブの、コンピテンシー分析・意思決定暗黙知の形式知化や、企業内の知財の可視化(人的資本・知的資本・無形資産含む)にも貢献し、上場企業2社の社外取締役も拝命している。

環境省委託事業、経産省新ビジネスモデル選定委員、特許庁では特許開発のワークショップ実施。2021年より、厚生労働省「民間教育訓練機関における職業訓練サービスの質向上取組支援事業」に係る運営協議会および認証委員会委員。

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