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株式会社労務研究所 代表取締役   可児 俊信

働きやすい職場作りを「福利厚生表彰・認証制度(ハタラクエール)」と「旬刊福利厚生」で支援

福利厚生は「働き方改革」と健康経営の実践ツール
――最近、福利厚生のニーズはどう変化していますか?
「働き方改革」と健康経営が、福利厚生分野でも大きなテーマになっています。「働き方改革」は、残業時間を縮減し労働時間を減らすことと、同一労働同一賃金に基づく非正規社員の待遇改善が2本の柱。 たとえば労働時間の短縮は、育児をしながら働けるようにするとか在宅勤務を可能にする、もしくは社員本人の能力をアップする、本人により健康になってもらえるようなメンタルの状態を構築することなどを通じて、仕事を効率化することによって可能になります。それらを、会社が育児費用を補助するとか、場合によっては自社で託児所を設けるというように、福利厚生施策という形で具体的に展開していくわけです。
もう1つ、非正規社員の処遇についてですが、福利厚生制度は伝統的に大企業のものだというイメージがあります。実際、福利厚生制度の立て付けは、ずっと「正社員、男性、世帯主」になっていましたが、バブル崩壊以降、女性社員が増えたほか、新卒で入社し退職まで一気通貫ではなくなり、中途退職や中途採用もごく普通のことになりました。それにともない、福利厚生制度も変化を余儀なくされる中で、最近では非正規社員の処遇をどう改善するのかが大きな問題になっています。
非正規社員の処遇改善に関して、賃金・手当は基準を作って一律に支払えばいいのですが、一番の問題は、福利厚生制度が正社員にはあっても非正規社員にはないケースが非常に多いことです。そうした中で、非正規社員にも正社員と同等もしくは働き方に見合った福利厚生を提供する必要があります。
ところが、大企業が設置している正社員向けの福利厚生制度にはコストがかかるものが多く、会社規模によらず、限られた原資の中で、いかに非正規社員にも適した福利厚生を設けるかが、多くの企業にとって悩みの種になっているのです。
一方、健康経営は、従業員の健康に会社として積極的に関わっていくことで、スポーツクラブの会員権を会社が取得するなど、福利厚生制度で具体的に何をやるかということになります
企業規模によらず福利厚生向上に取り組む企業を評価する「ハタラクエール」制度
――今年6月10日に、働く人を応援する「福利厚生表彰・認証制度(ハタラクエール)」の受賞法人が発表されました。
福利厚生の充実に取り組む「福利厚生推進法人」40法人と、その中でとくに優れた取り組みを行っている「優良福利厚生法人」14法人の認証・表彰を行いました。
「ハタラクエール」は福利厚生表彰・認証制度実行委員会が運営する民間資格で、福利厚生関連サービス提供企業8社が実行委員会企業として参画。学識経験者等で構成される審査委員会が審査・表彰を行い、当社が事務局を務めています。
――審査基準は?
評価ポイントは、自社の人事上の課題をどう認識し、それらを福利厚生制度でどう解決しているか。そして、社内にどんな制度を構築し、どのように広げようとしているか。加えて、実際に制度がどの程度利用されていて、経営者や担当者が、福利厚生に対してどれだけ熱意を持っているかです。経営者や担当者自身がどれだけ一生懸命考え行動しても、その思いを社内で多くの人と共有できなければ、制度は利用されません。
――大企業でなくても優れた福利厚生制度を構築できるということですね。
1つ大きなポイントは、誰もが知っている大企業が必ずしも選ばれているわけではないことです。まだ名前があまり知られてはいないものの、優れた制度を作り、熱意ある担当者が啓蒙・普及に務めた結果、社内で広く制度が利用されている中堅・中小企業を発掘できました。
今回、多くの中小企業から「当社のような小さな会社でも認証が取れるのでしょうか?」と問い合わせがありましたが、20世紀の福利厚生制度は社宅や保養所が中心だったので、スケールメリットが必要な社宅や保養所を持てるような会社でなければ、認証はとても無理だと思われる方もいるでしょう。
でも両立支援や健康経営をしっかり行い、働きやすい職場にするのが今の福利厚生のトレンドですから、社宅や保養所は必須ではありません。実際、今回は従業員数約4万7000人から4人まで、幅広い法人からエントリーがありました。ですから「規模が小さいから当社には無理だ」とあきらめず、熱意があり、自社の福利厚生制度に自信を持っている法人、または自社の福利厚生制度はどのような位置づけにあるのかを知りたい法人には、ぜひ応募していただきたいと思います。
――受賞企業・応募企業にとってのメリットは?
この制度による認証・表彰を受けることで、自社の福利厚生の水準が客観的に評価され、人材採用面で有利になるというメリットがあります。
実際、企業の募集要項には、かなり大きな企業でも「社保完備」や「社宅あり」程度の記述しかないため、就職活動をしている学生が、自分に本当に合った待遇のある会社を選ぶことができません。その意味で「ハタラクエール」を通じて、人材採用におけるミスマッチを防ぐことには大きな社会的意義があると思います。
もう1つの利点は、「ハタラクエール」に応募していただくことで、自社の福利厚生制度が社会的に見てどの程度の水準にあるかがわかること。応募の際にも認証・表彰の際にも一切費用はかからず、全応募企業に自社の福利厚生水準を評価した詳細なレポートを提出しますので、万一認証されなかった場合でもメリットはあります。
――今後の「ハタラクエール」認証制度の展開は?
1つは、新型コロナウイルス感染症の影響で延期していた表彰大会を、状況が許せばリアルの場で開催する予定です。表彰大会には受賞法人の責任者や担当者にお越しいただき、トロフィーを授与するほか、大学のキャリアセンター等の関係者にも出席いただく予定。大学側に対しても、「福利厚生を軸に、こういう基準で会社を選んでもらいたい」という情報発信の機会にもなると思います。
また、今年秋には、2021年度の募集も開始します。
福利厚生施策の事例豊富な実務誌「旬刊福利厚生」
――1951年に創刊した「旬刊福利厚生」の特徴は?
社宅を始め、毎号でさまざまな企業の福利厚生制度の実例を紹介しています。2020年6月上旬号では福利厚生関連税制を特集しました。福利厚生に関する税制で法律の本法に規定されているものは非常に少なく、ほとんどが通達等で決められており、顧問税理士に尋ねても、よくわからないことが多々あります。そこで「旬刊福利厚生」では、社宅・独身寮・寄宿舎から育児・養育費、健康・医療費、レクリエーション関連費、カフェテリアプランに至るまで、非課税か課税かといった税の取り扱いに迷うケースについて詳細に解説しています。
――編集方針は?
企業で福利厚生実務を担う人事担当者が主な読者対象なので、一般論よりも、具体的な事例を中心に、自社で応用できる情報を掲載しています。
たとえばネットの求人公告などに「社宅あり」という記載はあっても、詳細がわからないことが多いので、「社宅の使用料はいくらか」「そこに光熱費は含まれているのか」といった、外部にはなかなか出てこない情報を地道に調査。記事を読んだ企業の担当者が「社宅使用料が同業平均でこれぐらいだから、当社はこの金額に設定しよう」と実務の参考にしていただける情報を提供しています。
もう1つは、20世紀の終わり頃までは、企業が自前で福利厚生を行うのが普通でしたが、今では外部へのアウトソーシングが前提。専門業者が提供する福利厚生パッケージを利用したり、社宅管理や社員食堂の運営なども業者に任せることが多くなっているので、こうした外部サービスも積極的に取り上げるようにしています。
アウトソーシングサービスを組み合わせることで、規模が小さく資力が限られている企業でも、大企業と比べて遜色のない福利厚生制度を展開できる余地のあることが、最近の大きなトレンドですね。
――どんな企業に「旬刊福利厚生」を薦めたいですか?
現在は大企業の読者が多いのですが、中堅・中小企業、もしくは伸び盛りのIT企業を含め、今後さらに顕著になっていくと見込まれる人手不足にどう対処していくのかという問題意識のある企業に、ぜひ読んでいただきたいと思います。
自社と時代のニーズに合った福利厚生を築くポイント
――今後を見据えて、福利厚生制度をどう構築していったらいいのでしょうか?
従業員数がだいたい100名以下の企業では、経営者の目が社内に行き届くので、極端な話、きちんとした制度がなくても従業員満足度を向上させることは可能です。設立間もないベンチャー企業では、仕事自体の面白さゆえに、従業員満足度が高いケースもあります。
ところが企業規模が大きくなるにつれて、経営者の目が行き届かなくなるので、福利厚生の仕組みを通じて従業員満足度や「働きやすさ」を向上させる取り組みが必要になります。
しかし福利厚生は社宅や住宅手当から育児支援、食事手当まで幅が広いので、いったい何から手をつけていいのか迷うことが少なくありません。
そこで一番大切なのは、自社にはどんな人材が必要か、もしくは今社内にいるどんな人に一生懸命働き、力を発揮してもらいたいのかを見極めることです。
そのうえで具体的にやるべきことは、たとえば女性の多い職場なら、女性がさまざまなライフスサイクルの中で仕事を継続できる環境を整備することが第一。ほかに育児支援や介護支援もありますし、最近では家事支援を福利厚生制度で行うことも1つのトレンドです。
一方、会社が従業員の健康に積極的に関わることは、新卒で入社する社員や親にとっても重要な切り口。こうした健康経営のあり方も社員属性によって大きく変わり、平均年齢が若い会社であれば、疾病予防よりむしろ心のケアを含む健康増進が大事になります。
加えて最近、ポイント制度を活用して社内コミュニケーションを活性化したり、本人のやる気を引き出す仕組みも福利厚生の一環として認知されてきています。営業成績が1位になると海外旅行に行けるといった従来の表彰制度では、評価対象になる人が偏りがちですが、ポイント制度は、たとえば有効な提案をしてくれた社員に対して100ポイントを付与するというように、より多くの人にきめ細かい評価が可能になるという点で、新しい制度です。
昔は、男性の世帯主が定年まで会社で働くという前提で福利厚生制度が設計されていたので、社宅はあって当然と思われていましたが、社員が配偶者であれば、必ずしも社宅は必要とされません。その意味で、社員に女性や高齢者、病気療養中の人、外国人などが増えるにつれて、福利厚生のニーズも多様化するので、企業としては「ここぞ」と思う層に対して、十分に対処していく必要があるでしょう。
このように、福利厚生を今の時代に合わせて体系的・主体的に見直す、あるいは1から構築していくことは非常に手間がかかる作業です。当社は1951年以来、69年間にわたる「旬刊福利厚生」の刊行などを通じて蓄積したノウハウをもとに、福利厚生コンサルティングも行っているので、ぜひご相談下さい。
「取材・構成 加賀谷貢樹」
「旬刊福利厚生」創刊:1951年/発行:毎月2回(第2・4火曜日)
プロフィル
代表取締役 可児俊信氏(千葉商科大学会計大学院 教授)
1983年東京大学卒業。1983年、明治生命保険相互会社(現・明治安田生命)入社。1988年、エクイタブル生命(ニューヨーク市)派遣。1991年、明治生命フィナンシュアランス研究所(現明治安田総合研究所)。2005年、千葉商科大学大学院会計ファイナンス研究科教授に就任。2018年、労務研究所代表取締役に就任。
 1996年より福利厚生・企業年金の啓発・普及・調査および企業・官公庁の福利厚生のコンサルティングに携わる。
主著に、「新しい!日本の福利厚生」、「共済会の実践的グランドデザイン」、「福利厚生アウトソーシングの理論と活用」(いずれも労務研究所)、「実践!福利厚生改革」「確定拠出年金の活用と企業年金制度の見直し」(ともに日本法令)、「元気の出る生活設計」「賢い女はこう生きる」「あなたのマネープラン」(いずれもダイヤモンド社、共著)等。

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