【知恵の経営】「従業員とその家族」を大切にする旅館

□法政大学大学院政策創造研究科教授 アタックスグループ顧問・坂本光司

 長野県須坂市の郊外、スキー場で著名な菅平の麓にある仙仁温泉の一角に「岩の湯」という名の小さな和風旅館がある。ロケーションはお世辞にも便利なところにあるというわけではない。

◆1年先も予約

 しかしながら、同旅館はホームページを持たないばかりか、広告宣伝費もほとんどかけなくても、全国各地からわざわざ訪れる「こだわり客」で、常に1年先まで全18部屋は予約でいっぱいである。

 もとより、料金が格安だからではない。事実、1泊2食の宿泊料金は6人部屋で1人当たり3万円前後である。

 温泉地に立地する旅館の多くは、近年、客離れや顧客の奪い合い競争の激化、さらには、その結果としての客単価の低下が著しく進行しており、業況は総じて厳しい。

 事実、旅館関連の統計を見ると、20年前には全国で約7万9000軒の旅館があったが、現在では約4万9000軒に減少している。20年間で3万軒、率にして38%もの大幅減だ。

 ではなぜ、この辺鄙(へんぴ)な場所にある小さな高級旅館が、多くの宿泊客の高い支持を受けているのであろうか。その要因は、こだわりの施設と食事、さらにはチェックアウトタイムが午後3~4時といった時間のサービスなど多々あるが、最大の要因は従業員の家族的な心からのおもてなしや感動のサービスの数々にあるといえる。

 その内容やエピソードを取り上げる紙面的余裕はない。しかし、読者が知るべきは「なぜ当旅館では、従業員一人一人のおもてなしのレベルが高いか、なぜサービスのレベルが感動的か」である。

 回答をあえて一言でいえば、同旅館では宿泊客にサービスを提供する「従業員とその家族」をとことん重視した経営が貫かれているからである。

◆稼ぎ時に休館

 例えば、温泉地の旅館は年中無休が一般的だが、同旅館の年間休館日はなんと27日である。しかも、休館日はお盆時期とクリスマス時期、そして年末年始時期というから驚く。

 これらの時期は、温泉地旅館の稼ぎ時であり、宿泊代金も通常の1.5倍以上に跳ね上がるのが一般的である。しかしながら、同旅館はこの時期にあえて旅館そのものを休館日にしているのである。

 その理由は、「従業員とて人間。この時期は誰だって久方ぶりに家族水入らずで、家族だんらんのひと時を過ごしたいだろうから」と社長は言う。

 こうした思いやりの経営姿勢が、従業員とその家族の心をしかととらえ、宿泊客への感動サービスへとつながっているのである。

 CS(顧客満足度)が低い企業の将来は危うい。だからこそ、CSのアップに不可欠なES(従業員満足度)への気配りが経営の重要事項なのである。

【会社概要】アタックスグループ
 顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。

「フジサンケイビジネスアイ」

 
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