ヴィノスやまざき専務 種本祐子氏
■創意工夫で魅力ある商品を
「創意しつつ良きことはまねよ」-。
ヴィノスやまざきの朝礼で唱和している言葉だ。確かに他業種からヒントを得ることも多い。ただ、われわれは自ら創意工夫しながらやっているつもりだ。
こんな当社が考えた小さなアイデアも、最近はまねされることが多くなった。当社の商標登録である「蔵直便」に似た言葉もこの業界で良く聞かれる。驚いたことに、大手企業の子会社である酒小売店には、われわれが試行錯誤して考えた、同じタイプの棚が並び、ワインの説明書を入れるケースまで似かよっている。まねされるのは光栄なことだが、本音を言えば複雑な気持ちだ。
かつて、ある企業のトップに「まねされること、競合が増えることはマーケットが広がるということですよ」といわれたことがある。どんなに外側だけまねされても、ワインの品質や接客面はまねできないといわれるように頑張りたい。
ワイン造りも同じことだ。有名ワイン評論家が高い点数を付けると、その評価点をセールスポイントにするワイナリーが増える。高い点数を付けてもらうために、点数狙いの味のワインを右にならえで作るワイナリーもある。個性が魅力なだけに残念なことだ。そんな中、何が何でもわが道をいく生産者がいる。フランス・ボルドーのシャトー・ムーラン・オー・ラロックにブドウ園を持つエルヴェ氏だ。ワインクレージーといわれるほど、ほとんどの時間をブドウ園で過ごす。醸造の時期には醸造所のタンクの隣に寝袋を持ち込み、自分の耳で発酵音を聞きながら徹夜することも多い。点数狙いの濃いだけの味ではなくフルーティさと複雑さを兼ね備えた素晴らしい赤ワインだ。
評論家が彼に取材を申し込んだとき「私は他の人と違って点数でワインを評価されるのは嫌だ」と追い返したのも彼らしいエピソードだ。彼のワインは長年の大人気で、お客さまの評価も高い。われわれも彼の姿勢はまねしつつも、創意工夫は続けていきたい。
【プロフィル】
種本祐子
たねもと・ゆうこ 静岡県生まれ。1987年、実家のやまざき酒店に就職。88年にヴィノスやまざきを設立。日本ソムリエ協会認定シニアワインアドバイザー。
「フジサンケイビジネスアイ」