日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 通信メディア・ハイテク戦略グループ グループ長 上席主任研究員 浅川秀之氏
「キャリアなど通信事業者は、モバイルWiFiルーターの今後の需要に強い関心を示しているものの、私の知る限りではこれまで精緻な調査結果はありませんでした」と語るのは、日本総合研究所(JRI)通信メディア・ハイテク戦略グループ長の浅川秀之氏。同グループは20年以上に及ぶ通信、メディア、ハイテク領域の専門知識の蓄積に基づき、民間企業を対象にICT(情報通信技術)のコンサルティングや支援を行なっている。情報分析・コンサルティングの専門家に今後のモバイルWiFiルーター普及について聞いた。
今回は独自に、モバイルWiFiルーター市場調査を行ないました。重回帰分析をベースとしたJRI独自予測モデルと、最新のウェブアンケート(ニーズ調査)に基づいて検証しています。=グラフ
まず、JRI独自予測モデルから言えることは、2018年頃まで急成長してきたモバイルWiFiルーター契約数は、2019年以降は過度な成長は期待できないということです。これは市場が飽和する可能性が高いということ。モバイルWiFiルーターには、自由に持ち運び可能な端末型と、屋内で使用する据え置き型がありますが、本調査では個人・端末利用、個人・据え置き利用、法人利用をそれぞれ予測した上で市場全体の動向を予測しています。
上掲の結果は、個人・端末利用や法人利用の今後の利用増があまり見込まれないことに由来すると考えています。現在の個人・端末ユーザーに関しては、価格の安さのみで選択している方が一定数存在し、その数は今後増えづらいと予想できます。法人に関しては飽和状態を迎えると言えるでしょう。
続いて、アンケート検証からも独自予測モデルとほぼ同様の結果が得られました。これはニュートラルシナリオ曲線に表れています。ただし、現在のユーザーの満足度向上のための対応を怠った場合は、普及が妨げられる可能性があります。それはネガティブシナリオ曲線の通りです。ネックとなるのは価格と通信品質で、低価格化を図り、通信の不安定さを改善することが、事業者に求められています。また、上掲の予測には含めていませんが、今後5G(第5世代移動通信システム)の普及によってさらなる超高速通信環境が実現した場合は、成長率を数%程度押し上げ、2021年以降には1,000万契約を超える可能性も考えられます。
――目前に迫る5G時代、WiFiは生き残れる?
現状は5Gスタート以降もWiFi市場は持続することが見込めます。1〜2年以上かけて5Gのインフラが整い、対応機器が普及したのち、5Gに緩やかに移行すると予想します。私は、5Gサービス定着の緩衝材として、据え置き型ルーターが活用されるのではと考えています。5G電波をWiFiに互換する据え置き型ルーターが登場することで、普及を支え、次世代のネットワーク社会の形成に貢献する可能性は大いにあると思います。
2019年12月12日フジサンケイビジネスアイ掲載