メドレーのオンライン診療システムが表示されたモニターを前に、オフィスに立つ豊田剛一郎代表取締役医師=東京都港区
「どうやったら日本の医療を持続可能にできるか」。フロア一面にパソコンが並ぶIT企業「メドレー」のオフィスで、代表取締役医師の豊田剛一郎さん(34)が医療の未来を真剣に語る。
同社は、スマートフォンやパソコンのビデオ通話で医師の診察を受けるオンライン診療のシステムを手掛けるベンチャー。全国で約1100の医療機関に導入され、業界トップを誇る。
豊田さんは東大医学部を卒業、脳神経外科の研修医として病院勤務の後、専門性を高めるため米国に留学した。だが帰国後に選んだのは、臨床現場ではなく外資系の大手コンサルタント会社。日本の医療に危機感を覚え、「医療を救う医者になろう」と思ったからだ。
その後、幼なじみが立ち上げたメドレーに参画。医師として経営に携わる中、オンライン診療に将来性を見いだした。通院や待ち時間の負担はなく、患者のメリットは大きい。ただ従来は離島や僻地(へきち)などでしか認められず、医療界では長く「異端」の扱いだった。「画面だけで何が分かるのか」「医療の乱用を招く」。こうした反発が根強くあったためだ。
初診の患者にビデオ通話だけで安易に診断を下すわけではない。利益至上主義でもない。それでも「初対面では怪しまれるし、浮ついたやつだと思われた」
だが話をすると医師たちは共感してくれた。「病院で医師の前に座った人だけが患者ではない。通院の負担を軽くし、継続的に受診できるようにするのも医療の役割だ」。そう説いて回った。
昨年、潮目が大きく変わった。厚生労働省が公的保険制度の中でオンライン診療を正式に認め、外来、入院、在宅医療に次ぐ第4の診療形態として幅広く使える道が開けたのだ。豊田さんの熱意が、政府や日本医師会を動かした面もあった。
「医療のIT化は今年から数年で大きく動く」と予想。オンライン診療はあくまで第一歩。「例えば電子化された自分の医療・健康データを、いつでも見られるようになれば、人々の健康意識は高まるはず。それが不要な薬の使用や安易な『コンビニ受診』の一番の抑止力になる」
少子高齢化で厳しさを増す日本の医療財政。ITの活用で「患者が納得できる医療」を目指す。それが処方箋になると信じている。
「フジサンケイビジネスアイ」