中小企業基盤整備機構 高田坦史理事長
景気の先行き不透明感が増す中、中小企業を取り巻く環境は厳しい。深刻な人手不足で成長を取り込めない上に、高齢化で事業承継も喫緊の課題だ。国内企業の9割を占める中小企業の活性化は地域や日本経済にとって不可欠。中小企業基盤整備機構(中小機構)の高田坦史理事長に課題への処方箋を聞いた。
--人手不足の対策は
「少子高齢化や需要拡大で中小企業の人手不足は深刻だ。働き方改革でデジタル化による生産性革命が欠かせない。情報通信技術(ICT)導入で生産性を上げないと地域や日本が成長できなくなる。中小企業がICT導入に二の足を踏む一番の理由は、導入効果の確信が持てないこと。このため、昨年10月に開設したICT導入支援の専門サイトに成功事例を掲載し、高額で操作が難しいとの先入観をなくし、具体的な提案もしている」
--廃業が増えている
「中小企業は約358万社で、この2年間で23万社減少した。安倍晋三首相の経済政策『アベノミクス』効果や景気回復で廃業は若干一服とも思われたが要注意だ。黒字でも後継者がいないため廃業せざるを得ないケースが相当数あると思う」
--事業承継への対策は
「中小企業経営者の年齢層の山が1995年の47歳から2015年の66歳へ高齢化が進んだ。25年までに事業承継のタイミングともいえる、70歳を超える中小経営者は245万人。約半数は後継者が未定で、廃業が進めば地域経済への影響も深刻だ。47都道府県に設けた『事業引継ぎ支援センター』では早期の事業承継を啓発するセミナーやM&A(企業の合併・買収)のプラットフォームも提供しているが、もっと売り手と買い手のマッチングを進める必要がある。中小機構のデータベースを見える化し、企業との提携も進めたい。ただ、海外の買い手も増えており、金型など日本のモノづくりを支える技術を国内に残す視点も必要だ」
国内消費市場の見通しは
「人口減で50年は、16年に比べ20%減の126兆円に落ち込むと予想する。実店舗での販売は半減するが、利便性や高齢化を背景に、電子商取引(EC)は約4倍の55兆円に膨らむ。この構造変化をうまく取り込み、越境ECを活用すれば成長する海外進出の足掛かりも築ける」
海外展開への支援は
「タイやベトナムなどから部品製造会社の最高経営責任者(CEO)を招く商談会が好評だ。日本企業との連携を希望する海外企業と、海外展開を目指す中小企業を事前に引き合わせるマッチングサイト『ジェグテック』を通じて事前に話を詰めてもらい、意思決定できるCEOと実際に面談する仕組みで、事前準備が奏功し、成約件数は増えている」
中小機構の支援策は
「窓口に来て経営相談をしてください、というお役所的な発想では駄目だ。3月からスマートフォンを使い経営相談がいつでもできるサービスを開始する。人工知能(AI)を使い、各企業の経営課題に応じてアドバイスをしたり、最適な専門家も紹介したりする。既に昨年から起業・創業の支援や共済加入相談を始めている。今は文字でやり取りしているが、将来は音声会話で相談できるようにする」
【プロフィル】
高田坦史 たかだ・ひろし
神戸大経卒。1969年トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)入社。2001年取締役、常務役員、専務取締役、トヨタマーケティングジャパン社長などを経て、12年7月から現職。72歳。静岡県出身。
「フジサンケイビジネスアイ」