【対談】イノベーターの視点

意思決定の本質を見続け「やりたいことを貫く」

株式会社M&Aコンサルティング 代表取締役 髙野健二

意思決定の本質を見続け「やりたいことを貫く」

変化の激しい時代に、新たな価値を創り出し、未来を切り拓こうと挑む人たちがいます。
既存の枠を越え、変革を起こす意志と行動力を持つ“イノベーター”たち。

「イノベーターの視点」は、イノベーションズアイ代表・加藤俊之が、その発想の原点や挑戦の背景、そして変革を支える戦略や思想に迫る対談シリーズです。

第10回は、M&Aコンサルタントとして20年以上のキャリアを持つM&Aコンサルティング代表取締役の髙野健二氏。
「M&Aは経営戦略の選択肢のひとつに過ぎない。その会社にとって本当に必要かどうかをまず問い直すことがアドバイザーの役割だ」と語る。中央大学付属高校から中央大学へ進学し、管理会計ゼミで「意思決定」というテーマに出会う。メーカー就職後に一念発起して公認会計士資格を取得。監査法人を経て事業会社でM&A業務を担当したのち、M&A中心の公認会計士として独立。2016年の法人化から10年を迎えた現在も、「M&Aをやらなくていい場合はやらない」という信念を貫きながら、経営者に寄り添うアドバイザリーを続けている。

「かっこいい大人」に憧れた学生時代

――将来の仕事を意識し始めたのはいつ頃ですか。

きっかけは少し意外かもしれませんが、Jリーグ(日本プロサッカーリーグ、1993年開幕)が始まった頃です。海外から有名な監督が日本に来て、日本のサッカーを変えていく姿を見て「かっこいいな」と思ったんです。

特に印象に残っているのが、名古屋グランパスに招かれたアーセン・ベンゲル監督。自分の経験や知識を携えてまったく異なる国に渡り、そこで成果を上げていく。その姿勢に強く惹かれました。

サッカーの選手や監督になりたいと思ったわけではありません。ただ、「自分の経験と知識を武器に、まったく違う環境に飛び込み、価値を生み出す」。そういうビジネスの道に進みたいという思いが、ぼんやりとではあっても確かに芽生えたのはこの頃でした。

――学生時代に影響を受けた本や人物はいますか。

高校3年生のときに始めた「百冊読むプロジェクト」の中の1冊で、『ピークパフォーマーズ(著者:チャールズ・ガーフィールド)』という本です。突出した成果を上げる人たちの共通点を分析したアメリカの著書で、「特別な才能ではなく、やりたいことに集中する人が成果を出す」という考え方が強く印象に残りました。

「普通の人でも、心の底からやりたいと思えることに向かえば、標準を超えるパフォーマンスを発揮できる」。その言葉は、今も自分の中に生きています。

当時好きだったロバート・パーマーというミュージシャンも、ベンゲル監督の姿と重なるものがありました。ソウル、R&B、ロック、ボサノバとジャンルをまたぎながら、「自分がいい」と思ったものを次々と取り入れていくスタイル。それが聴く側にもそのまま伝わる。そういう大人になりたいという気持ちが、この頃に固まっていきました。

――大学では管理会計ゼミを選びました。

大学時代はごく平凡な学生でしたが、ゼミだけは少し真面目に取り組もうと考え、管理会計のゼミに入りました。特に管理会計を学びたかったわけではありませんが、週4コマもあるゼミだったので「これなら自然と真面目になるかな」と思ったんです(笑)。

ただ、実際に学んでみると管理会計の面白さに気づきました。管理会計は別名「意思決定会計」とも呼ばれます。投資をするなら何年で回収できるのか、AとBのプランではどちらが合理的なのか。数字を使って企業の判断を支える学問でした。

――会計への興味とはどういうものでしたか。

数字そのものより、「数字を使って何を決めるか」という点に興味を持ちました。単なる帳簿処理ではなく、経営判断の材料として数字を扱うリアルさ。それが一番の面白さでした。

今のM&Aコンサルタントの仕事でも生きています。数字はもちろん重要ですが、あくまで意思決定のための材料です。「どう判断するか」。そのプロセスに関わることこそが、この仕事の本質だと思っています。

――大学卒業後の就職は。

ゼミでは土曜日にOBから話を聞く機会があり、公認会計士から話を聞いたこともありました。ただ、そのときは「そういう世界もあるのか」という程度の認識で、資格を取ろうとは思いませんでした。

むしろ、管理会計で学んだことを実践するならメーカーの方がイメージしやすいと感じ、メーカーに就職しました。

背水の陣で挑んだ公認会計士試験

――メーカーを辞めて公認会計士を目指したわけですが、その経緯は。

入社してすぐに出向を命じられ、やりたいことができない現実に直面しました。そのときに、自分のキャリアについて真剣に考えるようになりました。

「このままでは世の中の荒波を渡っていけない。何か武器を持たなければいけない」。そう思って大学のゼミの先生に相談したところ、「武器を持ちたいなら会計士を目指した方がいい」という言葉をいただきました。それで「わかりました」と。

出向先でも「やるからには成果を上げる」という気持ちで仕事に取り組みましたが、最終的には2年ほど経った頃、「勉強に専念したいので辞めたい」と伝えました。引き止めていただいたことは素直にうれしかったのですが、会計士を目指す気持ちは変わりませんでした。

――試験勉強はどのように進めたのですか。

まず独学で日商簿記2級を取得しました。思ったより手応えがあり、「会計士もいけるかもしれない」と思ってしまったんです(笑)。今となっては完全な勘違いでしたが、その勘違いが挑戦のきっかけになりました。

不安もありましたが、うじうじ考えるよりも「とにかく合格するしかない」という気持ちの方が強かった。まさに背水の陣でした。これを取れなかったら人様に合わせる顔がない、と本気で思っていました。

何年かかかりましたが、なんとか合格することができ、監査法人へ入所しました。

監査法人からM&Aコンサルタントへ

――監査法人の仕事はどうでしたか。

監査法人での経験は、一言でいえば「面白かった」というのが正直なところです。弁護士は。何か問題が起きてから相談に来るケースが多く、どうしてもネガティブな場面を中心に見ることになります。

会計士は違います。業績好調な優良企業も、苦境に立つ企業も、両方を見ることができます。経営の実態をフラットに、幅広く学べる環境として、これ以上ない場所だったと思っています。

――その監査法人を辞め、M&Aの世界に進まれた理由は。

監査法人でもM&Aに関するデューデリジェンスや株価評価に関わりましたが、それはあくまで業務の一部でした。企業のM&A支援を自分の武器として、企業や経営者の役に立ちたいと考えるようになりました。

そこで監査法人を辞め、「M&Aで成長を」という方針を掲げる創業100年超の専門商社に入り、M&Aを担当することになりました。そこで買収案件に関わりながら実務経験を積み、その後独立しました。

――独立後、最も大切にしていることは何でしょうか。

クライアントの利益を最優先にすることです。M&Aは経営戦略の選択肢のひとつに過ぎません。「売りたい」と相談に来た方でも、今は売るべき時期ではないと判断すれば、そう率直に伝えます。「買いたい」という方でも、別の手法が適切と判断すればそちらを提案します。

M&Aは確かに「時間を買う」手段として強力です。使いこなせれば、競合が追いつけないスピードで成長できます。それは事実です。しかし、買うこと自体が目的になってしまっては本来の効果は生まれません。

弊社は創業当初から「M&Aを中心とした経営戦略アドバイザリー」というスタンスを掲げています。これは、究極的にはM&Aをやらなくてもいい、という意味でもあります。

M&Aは経営戦略の選択肢に過ぎない

――M&A支援業界が抱える課題については、どのように考えていますか。

最大の問題は、日本では「仲介」という構造が当たり前になってしまっていることです。売り手と買い手の双方から報酬を受け取る仲介モデルは、海外では通常あり得ません。利益相反が構造的に内包されているからです。

それにもかかわらず、日本ではこのモデルが市場に定着しつつあります。経営者の多くは「おかしい」と感じながらも、「案件を持ってきてもらう対価」として容認しているのが現状です。

本来あるべき姿は、売り手、買い手のそれぞれにFA(ファイナンシャルアドバイザー)が付き、それぞれの利益を守る形です。日本でもそうした文化が根づいていけば、M&A市場全体の健全性は大きく高まっていくはずだと思います。

――日本の中小企業の現状については。

この国の繁栄を長きにわたって支えてきたのは、間違いなく中小企業です。独自の技術や尖ったサービスを磨き続けてきた無数の中小企業があったからこそ、日本はここまで発展してきました。

逆に言えば、尖ったサービスや技術を突き詰めるためには、「大きくしない」という選択が有効なケースも少なくありません。私自身もそうですが、規模より深さを追求する企業が、この国の底力を支えてきたのだと思います。

ところが現在、政策的には中小企業の統廃合を促し、規模拡大へと誘導する方向に向かっています。一見すると合理的に聞こえますが、産業の多様性や強靭さを損なう危険性があるのではないでしょうか。

実際、産業界のさまざまな方と話していると、同じような危機感を持つ人が確実に増えています。今後5~10年が日本の産業構造にとって一つの分水嶺になるのではないかと感じています。

――最後に、これからの目標を教えてください。

今は55歳ですが、これからの10年は第一線で思い切り仕事をしたいと考えています。その後の10年は、それまでに積み上げてきた経験や人脈を生かしながら、少しペースを落として続けていく。75歳まで働くことを一つの目標にしています。

なぜ75歳かというと、これまで多くの経営者の方々とお付き合いする中で、自分なりに一つの節目として意識するようになった年齢だからです。その頃まで第一線でしっかり仕事を続け、その後は経験を生かしながら社会に貢献していければと考えています。

仕事は本当に楽しいですし、趣味と仕事が一致しているという感覚があります。やりたいことを諦めずに続ける。それが結果として、長く良い仕事をすることにつながるのではないかと思っています。

株式会社M&Aコンサルティング 代表取締役 髙野健二

上場企業にてM&Aの交渉から調査、買収後の統合、子会社のマネジメントまで幅広い経験を積む。その後、M&A専業の公認会計士として10年以上開業。2016年に法人化し、株式会社M&Aコンサルティングを設立。 M&Aの実務経験と公認会計士としての専門知識を活かし、特に買収後の統合支援に強みを持つM&Aアドバイザーである。

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イノベーションズアイ株式会社 代表取締役 加藤俊之

1968年生まれ・茨城県出身。大学卒業後、証券会社、IT企業、物流企業、政府系プロジェクトを経て、2006年にイノベーションズアイ株式会社(現在)を設立し代表取締役に就任。グローバルベンチャー、ローカルベンチャー、大学発ベンチャー、日本のものづくりを卓越した技能で支える中小企業など、多様なイノベーターと向き合ってきた。「未来を創る企業を増やす」を使命に、「発掘×発信×発展」を事業コンセプトとしたビジネスプラットフォームの創造に取り組んでいる。

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