Warisの3人の代表取締役。左から米倉史夏氏、田中美和氏、河京子氏(同社提供)
創業の際、親しい仲間とチームを組むことで負担を小さくする「チーム型創業」という選択肢が増えている。複数人による経営は「考え方や方針の違いから対立を招きやすい」などと批判されがちだが、創業時の困難の共有や、個々の強みを武器にできれば、事業を成功に導くことができる。
効率的に特性生かす
JR田町駅近くにオフィスを構えるWaris(ワリス、東京都港区)。フリーランスの女性と仕事とのマッチングサービスを手掛けている。米倉史夏(ふみか)代表取締役は、前に勤めていたリクルートで婚礼関連の新規事業立ち上げをしていたが、取得したキャリアカウンセラーの資格を生かそうと2012年に退職した。フリーランスで働いていたとき、日本経済新聞社グループの出版社、日経BPの元記者、田中美和氏と知り合った。田中氏も09年にキャリアカウンセラーの資格を取得しており、すぐに意気投合。田中氏の知り合いで、元リクルートキャリア社員の河京子氏も加わり、起業することになった。
3人に共通していたのは、「フリーランスで働く女性のためのキャリア支援をビジネスにしたい」という思いだった。「1人で起業するよりも、3人で力を合わせて分担しながら進めたら、もっと効率よく会社を立ち上げ、ビジネスを軌道に乗せられるのではないか」。そう考えた3人は早速、ビジネスプラン作りを並行させながら、13年にワリスを立ち上げた。米倉、田中、河の3氏は全員、共同創業者であり代表取締役だ。 3氏にはそれぞれの得意分野がある。リクルートの前にコンサルティング会社に籍を置いていた米倉氏は経営管理や経営企画、マスコミ出身の田中氏は広報やマーケティング、河氏は営業を主に担当する。特に創業初期は資金調達や販路開拓において、「それぞれが持つ人脈が生かせた」(米倉氏)と振り返る。
事業方針などで3氏の意見が割れることもあるが、「両極端の意見があっても、間に立った1人が客観的にそれぞれの良い点、悪い点を指摘することで、結局は落としどころができる」(同)と打ち明ける。
オリジナル結婚式の企画を手掛けるCRAZY(クレイジー、東京都墨田区)の創業には4人が関わった。12年7月、同じコンサルティング会社の同期だった山川咲、遠藤理恵の両氏が共同で同社の前身の会社を創業し、新事業「CRAZY WEDDING(クレイジーウエディング)」を立ち上げた。
弱点は相互にカバー
一方、山川氏の夫である森山和彦氏も自身が務めていたコンサルティング会社を11年夏に退社し、クレイジーウエディングに合流。森山氏は、企業の組織改革のコンサルタントとしてトップセールスの実績があった。
そんな森山氏と十年来のつきあいなのが、榊伸一郎氏。「健康で楽しく生きる、人間関係が良好でフラットかつオープンな会社」という森山氏の考え方に共感し、創業メンバーに加わった。
創業メンバーの「4人が皆、社長をやりたかった」(森山氏)というが、共同代表という形は取らなかった。何カ月もの間、4人で話し合いを重ねた結果、理念が共有され、人事や労務関係に精通した森山氏が社長に就いた。
森山氏は自らを「プロデューサー型経営者」と話す。カリスマ性のある山川氏、営業に強い遠藤氏、行動力にたけた榊氏と、それぞれ持ち味や強みを生かし、弱い部分はお互いにカバーし合えることが「チーム型創業の魅力」と強調した。
その半面、「なあなあ」で物事を済ませる風潮ができ、経営に緊張感がなくなる危険性もはらむ。森山氏は「時間は守る、言い訳を許さないなど、最低限、人として当たり前のことをきちんと守ることが大切」と指摘する。
ワリスもクレイジーも共通するのは起業から短時間で事業を軌道に乗せたことだ。
チーム型創業について詳しい東京都中小企業振興公社の斎藤麻衣子・人材支援担当係長は「互いの能力を補うことで、事業を早く軌道に乗せられるのが大きなメリット」と話す。同公社は、開業率の向上につながるとみて5月中旬、東京都立中央図書館で、チーム型創業をテーマにした基調講演などを実施した。
また、出産や子育て、介護などの理由でビジネスの現場から一時的に離れた女性が、チーム型創業で社会復帰するケースも徐々に増えている。チーム型創業が日本経済の活性化に貢献する日も近い。(松村信仁)
「フジサンケイビジネスアイ」