【対談】イノベーターの視点

危機を乗り越える力は「人とのつながり」

株式会社アーツエイハン 代表取締役 飯塚𠮷純

危機を乗り越える力は「人とのつながり」

変化の激しい時代に、新たな価値を創り出し、未来を切り拓こうと挑む人たちがいます。
既存の枠を越え、変革を起こす意志と行動力を持つ“イノベーター”たち。

「イノベーターの視点」は、イノベーションズアイ代表・加藤俊之が、その発想の原点や挑戦の背景、そして変革を支える戦略や思想に迫る対談シリーズです。

第7回は、最先端の顔認識技術を手がけながら、「デジタルよりも人が大切」と語るアーツエイハンの飯塚吉純代表取締役に話を聞いた。
2002年の創業以来、派手な成長戦略を追うのではなく、着実に事業を積み重ねることを第一に考えてきた。リーマン・ショック、東日本大震災、新型コロナウイルス禍と相次いで経営危機に見舞われたが、その都度、立ち止まって考えることで乗り切る一方で、次の可能性を探し続けてきた。人との出会いを何よりも大切にし、常にアンテナを張りながら、新しい価値を創出し続ける。

好きなことが気づけば仕事に

――学生時代は、どのように過ごされていましたか。

幼少期は、特にこれといったことをしていたわけではありません。運動神経もあまり良くなく、どちらかというと目立たないタイプでした。背が低かったこともあって、中学から「背が伸びるかもしれない」と思い、バレーボールを始めました。高校まで続けて、キャプテンも務めましたが、結局、背は伸びませんでしたね(笑)。

ただ、もともとオーディオや機械いじりが好きで、高校卒業後はそうした技術を学べる専門学校に進学しました。

――専門学校を卒業し、どのような進路を選ばれたのですか。

専門学校に在学中、テレビ局関係のカメラアシスタントのアルバイトをしていました。その流れで、その会社に就職しようと考えていました。仕事はかなり厳しかったのですが、メジャーなテレビ番組も担当していて、やりがいはありました。

ただ、あるとき社員の方たちと食事をする機会があって、そこで給料の話を聞いて驚きました。これだけ過酷に働いているのに、原付バイクを1台買ったら給料がなくなってしまう、と。当時、原付は15万円くらいでしたから、「これはさすがに厳しいな」と思い、その会社に入ることはやめました。

そして映像制作会社に就職、その後も同業界の会社を何社か経験しました。そして1989年に、現在のアーツエイハンの前身となる会社に入社しました。

「エイハン」という名前を受け継ぐ

――起業までの経緯を教えてください。

前身となる会社の社長は、今で言うとパワハラ気質でした(笑)。かなり厳しい人でしたが、人としてはもちろん、仕事も本当に鍛えてもらいました。ただ、直後にバブルが崩壊し、業績が悪化。最終的には会社が成り立たなくなり、倒産することになりました。

それでも僕は、お客さまがいる以上、迷惑をかけるわけにはいかないと思い、新しく会社をつくる決断をしました。そのことを社長に伝えたところ、「意志を継ぐのはお前しかいない」と言ってくれただけでなく、「エイハンという名前を残してほしい」と頼まれました。

エイハンは、「エイ=映像」「ハン=販売」の意味です。単純ですけどね(笑)。

そして、当時の同僚に声をかけて、3人で1人100万円ずつ出資し、資本金300万円で「アーツエイハン」を立ち上げました。

――社長に就くことに不安はありませんでしたか。

正直、準備万端で社長になったわけではありません。やらざるを得ない状況だった、というのが本音です。会社の運営も、銀行口座のつくり方も、何から何まで分からないことだらけでした。

ただ、ありがたかったのは、倒産した前の会社からお付き合いのあったお客さまが、そのまま新しい会社とも取引を続けてくれたことです。仕事があった、というのは本当に大きかったですね。

――アーツエイハンとしての強みは何ですか。

僕自身、機械いじりが好きだったので、自動車関係の仕事やチューニング系は得意でした。専門性が高いので、知識がないと提案すらできません。その点では、自然と強みになっていました。

チューニング系でお客さまとなった会社からは「余計な説明をしなくていいし、提案もしてくれる」と言ってもらえました。映像制作やWebサイト、展示会など幅広い仕事につながっていきました。

危機が経営者としての視点を変えた

――事業は順調に伸びていきましたか。

しばらくは順調でしたが、2008年のリーマン・ショックで状況が一変しました。お客さまが減り、売り上げも落ち込みました。そのとき初めて、「これは何とかしなければいけない」と、経営について本気で考えるようになりました。

コンサルタントに入ってもらい、何とか乗り切ることはできましたが、11年に東日本大震災に見舞われました。リーマン・ショックの経験を踏まえて、資金繰りや組織面を多少強化していたこともあり、この危機も乗り越えることができました。

ただ、「次に何かが来たら終わるな」と思いました。今のままではダメだ、と。そこからアンテナを高く張り、積極的に外に目を向けるようにしました。世の中が変わっているのに、同じことを続けていても意味がない。まずは自分自身が変わらなければいけないと感じました。

――そこから新規事業が生まれたのですね。

まず取り組んだのが、デジタルサイネージ事業です。既存事業との親和性も高く、今後日本でも広がっていくと考えたからです。ただ、価格競争になりやすく、決して楽な事業ではありませんでした。

そこで始めたのが顔認識マーケティング事業です。年齢や性別、表情(笑っている、怒っているなど)を取得し、マーケティングに活用するシステムです。「BeeSight(ビーサイト)」というサービス名で展開しています。この事業を推進するため、新たに子会社「エイコム」を設立しました。

おかげさまで、多くのテレビ局で採用いただき、イノベーションズアイ革新ビジネスアワードやCEATEC JAPAN、東京都主催「世界発信コンペティション」などで受賞する機会にも恵まれました。

コロナ禍の影響もありましたが、新しい挑戦を続けることの大切さを改めて実感しています。

――次なる事業については、どのように考えていますか。

もちろん、今の事業を大切に育てていくことが前提ですが、同じ場所にとどまっているつもりはありません。顔認識から画像認識への横展開や、取得したデータの高度なマーケティング活用、ビッグデータ化による新しいサービスなど付加価値を高める取り組みを考えています。

何よりも大切なのはコミュニケーション

――長年続けていることはありますか。

会社を設立してから23年間、今でもトイレ掃除を続けています。立ち上げ当時、「小さい会社のトイレ掃除は社長の仕事だよ」と言われたことがあって、それがきっかけです。きっと社員も知らないと思いますけどね(笑)。

そのために毎朝、一番早く出社しています。9時30分の始業ですが、7時30分には会社にいます。社長として当たり前だと思っています。

――育った家庭の影響を感じることはありますか。

父は教師で、姉も教師です。母は外国人向け保険代理店を個人で営んでいました。小さい頃から母の働く姿を見ていましたので、「自分で何かをやるのは嫌だな」と思っていたのですが、結局、会社を立ち上げてしまいましたね(笑)。

両親の影響があるとすれば、人とのコミュニケーションを大切にする姿勢です。父はとても人徳がありましたね。92歳で亡くなったのですが、昨年、俳優の稲川淳二さんから「墓参りに行きたい」と連絡があり、本当に来てくれました。父の教え子だったそうです。

生前も、多くの教え子が会いに来てくれていましたし、亡くなった後も墓参りに来てくれています。人とのつながりの力を父の姿から学びました。

――最後に、一番大切にしていることを教えてください。

仕事でも人生でも、一番大切なのは「人とのつながり」だと思っています。AI(人工知能)を含め、どんなにデジタル技術が進歩しても、結局は人がいなければ成り立ちません。

デジタルは1+1=2になるような正解を求める世界ですが、人とのコミュニケーションからは新しい価値が生まれます。曖昧さも、触れ合いも、そして愛も必要です。

会社が危機に直面したときや新規事業を立ち上げるときに、コンサルタントなど多くの人に助けられました。

これからも、お客さま、仕事仲間、従業員、家族、そしてこれから出会う人とのつながりを大切にしながら、歩み続けていきたいと思います。

株式会社アーツエイハン 代表取締役 飯塚𠮷純

エイコム株式会社代表取締役

1964年生まれ、東京都日野市出身。

座右の銘は「継続は力なり」。機械好きが高じて放送系専門学校に進学。在学中よりテレビ局関係でカメラアシスタントとして働く。映像制作会社を経て、2002年に株式会社アーツエイハンを設立・代表取締役就任。

映像制作、Webコンテンツ制作、デジタルサイネージに加え、近年は顔認識関連アプリケーションの開発にも注力し、クライアントのビジネス活性化に貢献している。

株式会社アーツエイハンの企業情報はこちら

イノベーションズアイ株式会社 代表取締役 加藤俊之

1968年生まれ・茨城県出身。大学卒業後、証券会社、IT企業、物流企業、政府系プロジェクトを経て、2006年にイノベーションズアイ株式会社(現在)を設立し代表取締役に就任。グローバルベンチャー、ローカルベンチャー、大学発ベンチャー、日本のものづくりを卓越した技能で支える中小企業など、多様なイノベーターと向き合ってきた。「未来を創る企業を増やす」を使命に、「発掘×発信×発展」を事業コンセプトとしたビジネスプラットフォームの創造に取り組んでいる。

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