国内の酒類市場は、ほぼ右肩下がりで推移している。2007年にピークを迎えた芋や麦などを原料とする本格焼酎も同様。少子高齢化社会が進展する中、国内需要に依存するだけでは今後の発展が見込みにくい。こうした中、奄美大島に本社を構える黒糖焼酎の大手、町田酒造は中国や米国での販路開拓に乗り出し、海外市場への攻勢で成長路線を歩む方針を固めた。
知名度向上へ試飲会
同社は主力の酒造を含め、不動産や遊技、建設資材関連といった多岐にわたる事業を奄美群島で展開している。
今年4月に就任した中村安久社長(54)は鹿児島銀行の加世田支店や大島支店など大規模店の店長として活躍。町田酒造は主要取引先の一つで、率直な物言いと献身的な仕事ぶりに、後継者問題で揺れていた町田側が熱烈にラブコール。社長就任を要請した。
町田酒造の中村安久社長
中村さん自身、焼酎マーケットの厳しさを身にしみて感じていたが、やはり経営トップは魅力的。「声をかけていただいたときこそが絶好のタイミング。火中の栗を拾おう」と決断し、社長就任を引き受けた。
黒糖焼酎の主原料である黒糖は、サトウキビをしぼった汁を煮詰めてできる。焼酎は全般的に味の濃い料理との相性が良いといわれているが、黒糖焼酎は癖が少なく、中村社長は「料理に寄り添うタイプのお酒で、繊細な香りを楽しむ料理に適している」と話す。主力製品は「里の曙」。43度の「原酒」や奄美特産のスモモやタンカンを漬け込んだリキュールなど、多様な商品群を製造販売している。
里の曙を中心とした町田酒造の商品群
焼酎は蒸留を行うため糖分はない。ところが黒糖焼酎は、芋や麦などに比べると知名度は低い。「糖」という言葉も手伝い島外の人からは「相当に糖分が入っていて甘いのでしょう?」「飲むと糖尿病になるのは本当?」といった質問が寄せられることも少なくないという。
これを受けて同社が力を入れているのが百貨店やスーパーなどを舞台にした試飲会。黒糖焼酎メーカーとしては珍しく東京と大阪、福岡、鹿児島に営業所を設置しており、地道な営業活動を行っている。ホームページやSNSを通じて、糖分がゼロであることを積極的に訴求していくこともこれからの課題だ。
また、今後は乙類の焼酎消費量が少ない北海道や東北で攻勢をかけていく。
両地域にターゲットを定めた理由は、南九州と同様にアルコールに強い体質の人の割合が多いからだ。透明で焼酎独特の匂いも弱く、口当たりもサッパリとしている甲類は寒い地域でも人気が高いが、「深い味わいの黒糖焼酎を味わってもらったら、寒い地域でも触手を伸ばす人が出てくるはず」と中村社長は見ており、専門の営業チームを発足し半年から1年かけて行脚する計画だ。
現地市場掘り起こし
並行して開拓に力を入れていくのが海外市場。これまでは香港や欧州連合(EU)で販売していたが、主な購入者は日本人。現地マーケットの掘り起こしは難しかった。
今後の取引が期待されるのが中国。大連市の有力な関係者からは「芋焼酎よりもクセがなく、香りも良いので、中国でも受け入れることが可能。周辺を含めた3省限定で総代理店契約を締結し、里の曙を売りさばきたい」との打診があった。
米国も有望市場の一つだ。先日はロサンゼルス在住の流通関係者が奄美大島を訪問。「里の曙をメーンに据えて、全米で黒糖焼酎ブームを起こしたい」との意向を伝えてきたため、手応えを感じている。
中国ではイッキ飲み文化が有名なように、日本と海外ではお酒の楽しみ方が大きく異なる。中村社長は「日本文化の特性を伝えながら、黒糖焼酎の素晴らしさを浸透させていきたい」と海外市場の本格的な開拓に意欲を示す。
【会社概要】町田酒造
▽本社=鹿児島県大島郡龍郷町大勝3321
▽創業=1983年
▽資本金=2000万円
▽従業員=53人
▽売上高=25億円(2016年3月期)
▽事業内容=黒糖焼酎の製造、販売
「フジサンケイビジネスアイ」