米アカデミー賞公認のアジア最大級の国際短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」が、6月に東京や横浜などで開催される。映画祭は今年で18回目。最初のうちは年100~200本程度の応募しかなかったが、現在は5000本以上がグランプリを目指してしのぎを削る。フェスティバルの代表を務め俳優でもある別所哲也・パシフィックボイス社長は「ショートフィルムは21世紀のコミュニティームービー。企業の商品情報はCMを通じ提供されていたが、これからはショートフィルムで物語にし消費者に届ける時代が本格化するはず」と語る。
昨年のフェスティバルの光景。5000作品以上が集まりグランプリを目指す
別所社長は大学を卒業後、俳優として日米合作映画などに出演。日本と米国を行き来する中、1997年にショートフィルムに出合った。「凝縮された情報伝達能力と人を動かす力に表現者として憧れた。映画は長さではない」。これまでの常識が覆されるほどの衝撃を受けたという。当時はインターネットが台頭し始めた頃。動画配信の時代を迎えようとしており「インターネット時代の新しい映像コンテンツになる」と確信を得た。
ショートフィルム文化を支えるシステムも新鮮に映った。欧米では映画祭を通じて監督が投資家と出会い、資金援助を受けてステップアップを図るという仕組みが構築されている。文化そのものが産業ということをアーティスト自身が理解していたのだ。
また、現地の関係者による「日本はものづくりができるけど、日本から物語は聞こえてこない」といった指摘も耳が痛かった。日本には民話や落語、昔話など豊富なソフトがある。こうした“金塊”を磨いて、なぜビジネスに転換できないのか、といった疑問をぶつけられたそうだ。
こうした経験を踏まえ、99年に日本で映画祭をスタート。1作品の放映時間は3~5分から長いもので25分。これまでに関わった映像作家は2万5000人に及ぶ。
国内の自治体の間では観光資源を物語化するため、ショートフィルムを制作する動きが活発化してきた。企業も同様。CMはショートフィルム化が進み、取扱説明書の代役として本格活用されるとみられる。将来的には、NPO(民間非営利団体)法人にも広がりそうだ。
「ショートフィルムの潜在市場は極めて大きい。パシフィックボイスは、世界中から人的資産やテクノロジーが集まってくる集積回路的な役割を果たすので、企業や自治体との橋渡しをきちんと行っていきたい」と、別所社長はフェスティバルを通じた事業拡大に意欲を示す。(伊藤俊祐)
◇【会社概要】パシフィックボイス
▽本社=東京都渋谷区千駄ケ谷4-12-8 SSUビル4階
▽設立=1994年8月
▽資本金=1000万円
▽従業員=25人
▽事業内容=アーティストのマネジメント、映画祭の企画運営
「フジサンケイビジネスアイ」