トッパン・フォームズは、請求書などの帳票を紙だけでなく電子化して通知するウェブビジネスを強化、スマートフォンだけで証明書類の送付作業を完了できるサービスなどで顧客開拓を進めている。帳票の電子化が紙使用量の削減や業務の効率化などをもたらすためで、利便性を訴求するアニメーション動画をベンチャー企業InSync(インシンク、大阪市淀川区)を通じて制作。1年前から販売促進ツールとして活用し、特に地方で電子化対応ビジネスの引き合いや受注を増やしている。
取引先に帳票の電子化について説明するトッパン・フォームズの販促担当者
アニメの導入効果もあって、トッパン・フォームズの仕入れ明細書や支払い通知書など紙の帳票使用量(2015年度上期)は2年前に比べ大幅減少。スマホを活用したマイナンバー取得サービス「ファストナンバー」の受注は14年度の1件から15年度は94件に急増した。「担当者が時間をかけて説明しても伝わらない内容をアニメにするとイメージしやすく簡単に理解してもらえるから」と末永京吾IT統括本部IT開発本部長は説明する。
分かりやすく伝達
末永氏は12~14年度、帳票の電子化対応ビジネスを手掛けるWebビジネス本部長に就任。しかし紙の帳票でトップシェアを持つだけに帳票印刷会社のイメージが強く、売り上げは伸びなかった。
そこで目を付けたのがアニメ。以前受けたテレビ局の取材で動画が持つ優れた伝達力を理解していたからだ。しかもアニメは実写に比べシンプルで、表現の制限がない。それだけに商品・サービスの内容やコンセプトを分かりやすく明快に伝えられる。
インシンクがトッパン・フォームズ向けに制作したアニメ動画の1場面
ちょうどこのタイミングでインシンクと出会った。明治安田生命保険が東京で開催した14年7月の異業種交流会で、インシンクの慎祥允(しん・しょういん)社長がビジネスチャンスを求めてトッパン・フォームズの福嶋賢一常務と名刺交換。数日後に慎氏が上京し、末永氏らにアニメを紹介。末永氏は「タブレットで営業担当者がアニメで説明すれば、電子化ビジネスの知名度アップにつながる」と判断、14年8月に2本の動画制作を依頼した。
決め手は低コスト
決め手となったのが低コスト。「100万円以下になるとは思っていなかった」と末永氏が驚く約80万円で請け負った。トッパン・フォームズとも何度もやり取りし、こだわったナレーションを入れながら要求通りのストーリー展開を1分間という制約の中で実現。トッパン・フォームズは「アニメなのでテロップを入れられ、テンポもよくサービス内容をイメージしやすい」(米田奈美子Webビジネス本部販促部企画グループ主任)と評価。今後はアニメを他のサービスにも展開する方針だ。
顧客満足度を高められる理由について、インシンクの慎社長は「何回も意見交換しながら顧客の意図をくみ取っていくが、実際のアニメの全シーンをフルカラーのイラストで事前に確認できる工程が寄与している」と説明する。
インシンクはベンチャーとはいえ、アニメ動画を制作できる数少ない企業として注目を集めている。すでにソニーや楽天、ヤフーなどと取引実績をもっており、3年後には「現在の年間100本前後の受注件数を数倍に伸ばしたい」と慎社長は意気込む。さらにグローバル企業としての事業展開も視野に入れる。(松岡健夫)
「フジサンケイビジネスアイ」