□ルーセントドアーズ社長・黒田真行氏
転職を考え始める二大理由は「賃金への不満」「人間関係」。特に、住宅ローンや教育費用がかさむ30代後半になると、賃金水準は自分のためだけのものではないのでいっそう重みを増してきます。正社員だけでも、毎年100万人以上のビジネスパーソンが転職をしている中、実際の年収はどう変化しているのでしょうか? リクルートワークス研究所の調査によると、35~39歳の正社員の転職前後の年収は以下の通りです。
●転職前年収(416万3000円)
●転職後1年目の年収(422万円)
●転職後2年目の年収(443万7000円)
(出典はリクルートワークス研究所「ワーキングパーソン調査2014」)
転職1年後は、ボーナスの在籍期間規定などで下がりやすいはずなのですが、むしろ平均は5万円近く上がっており、2年目になるとさらに上昇しています。
ただ、これはあくまで平均の話。年収の増減率を同じ年齢層で見ると、
●転職後の年収が10%以上の上昇(44.5%)
●転職前後で年収に変化なし(21.2%)
●転職後の年収が10%以上の減少(34.3%)
ということで、大きくばらつきがあることが見えてきます。「転職後の年収が20%以上の減少」という人も14.1%と、かなりの割合に上ります。この中には「親の介護のために実家のある地方に戻ったためにやむを得なかった」という方や、「昔からの夢だった職業にゼロから挑んだため、収入が下がるのは覚悟の上」という人なども含まれています。
ちなみに、転職後の満足度は、あまり年収の増減にリンクしておらず、期待値の高低に個人差はあるものの6割の方が「転職に満足」という幸せな結果となっています。
●転職に満足している(58%)
●どちらともいえない(28.7%)
●転職に不満がある(12.8%)
「賃金水準に不満がある」という理由が、転職を考え始める大きなきっかけになっているため、目先の年収の増減が重視されるのは仕方がない一面ではありますが、60代から70代まで長く働いていくことを想定すると、年収以外の条件(たとえば、自分の強みが生かされることや、共感できるテーマに携われること、信頼できる人と働くこと)など、できるだけ複眼的に意思決定をしたほうが、より長期的な満足度が得られます。
「仕事と報酬」は切っても切り離せない重要な要素ではありますが、仕事や人生の価値は、決して報酬だけが決めるものではありません。転職する・しないにかかわらず、自分の人生を豊かにする収入以外のものさしを準備しておくと、いざというときに必ず役立つはずです。
◇【プロフィル】黒田真行
くろだ・まさゆき 1989年リクルート入社。約30年にわたり転職・中途採用サービスの企画に関わる。2006年から8年間「リクナビNEXT」編集長。14年にルーセントドアーズを設立し、日本初のミドル向け転職サービス「Career Release40」(http://lucentdoors.co.jp/cr40/index.html)を提供している。