EL JEWEL・森みどり社長
シャンデリアや欧州クラシックスタイルの室内装飾…。まだまだ日本ではニッチな分野ではあるが、輸入住宅などに住み購入意欲が高い顧客層に支えられているのも事実だ。この領域にターゲットを絞って事業展開しているのが「EL JEWEL(エルジュエル)」。モットーは「エルジュエルでベルサイユを」だ。
創業者である森みどり社長が事業に乗り出したきっかけは、夫が転勤族で田舎暮らしが長かったため。自家用車もなく、近くの田んぼでサギが子育てをしていたり、コンビニエンスストアには自転車で15分を要するといった不便な場所に居を構えるケースが多かった。
◆あしき商習慣残存
必然的にインターネット経由で買い物を行う機会が増えていった。これに伴い適正な価格で購入し高い価格で転売するという、ネットショッピングのコツも把握していく。そんなとき、「ヤフオク!」を通じてある装飾品を販売したところ、想定以上の売り上げを記録。「他の商材でもヒットにつながるものはないか」と、一段と真剣に取り組むようになった。
その頃、森さんは1人暮らしをするようになる。マリー・アントワネットの生涯を描いた映画に触発されたこともあり、白色の家具とシャンデリアを購入しようと思ったが、なかなか見つからなかった。
日本の場合、照明器具には部屋全体を明るくする機能が求められる。シャンデリアは、こうした明るさに欠けるため欧米のように主流の器具になりにくい。しかし、普及が進まない理由は文化的な問題だけでなく、価格の問題もある。
欧米ではシャンデリアがホームセンターでも販売され、割安な価格で購入できる。しかし、日本ではいまだに1980年代後半~90年代前半のバブル価格が残っており、仕入れ値の10倍で取引されるケースも珍しくはなかった。また、家具販売店が顧客を海外に連れて行くといった商習慣も残存していた。
◆適正価格と短納期
「適正価格を守らなければ市場価格はおかしくなる」。そう感じた森さんは、新たなビジネスモデルを構築する。その一つが中国・広東省にある自社工場での設計・製作で、大幅なコスト削減を実現した。顧客の要望に沿ったデザインにも対応できる態勢を整え、他社は平均で2カ月以上の期間を要するのに対し、2週間からといった短期間で製造できるようにした。
これと並行して取り付け・清掃技術を磨き、4年前の東日本大震災では、設置したシャンデリアが一つも落ちなかった。現在の取り扱い数は12万種類以上と業界では圧倒的な存在感を誇っている。
シャンデリアを核としながら関連事業の強化にも力を入れる。2020年の東京五輪に向けて顕著な伸びを示すとみられるのがホテルや結婚式場、レストランといった建物の内部のデザイン・設計施工関連事業だ。
事業の拡大に向け、5月からは壁紙市場に本格参入した。米国の大手デザイン会社と商品使用権の契約を締結し、高性能デジタルプリンターで建築基準法や消防法に適合した不燃・防煙壁紙に印刷し、安い価格帯で提供する。使用権を得たデザイン素材は当初600種類で、毎月100~200種類を増やしていく。同社の17年12月期売上高は14年12月期比で約3倍に相当する、19億6000万円を計画しており、このうちの半分近くをデザイン・設計施工で占める計画だ。
同社の事業を支えるコアな一般顧客層は、宝塚ファンやバレエ・社交ダンスの愛好家、輸入住宅の居住者などで約500万人に上るとみている。これに加え、商業施設関連の改装需要が牽引(けんいん)役を担う。数年後には株式公開を目指しており、知名度向上を図ることによって市場の裾野を広げる考えだ。(伊藤俊祐)
≪Q&A≫ 日本製前面に新ブランド展開
--主力の照明事業は、どういった形で強化していくのか
「2015年12月期の売上高は約6億2000万円を計画している。17年12月期は5割増の約9億4000万円まで拡大する方針を掲げており、国内のシャンデリア市場で圧倒的な首位の座を目指す」
--目標達成に向けての最大の課題は
「日本発のシャンデリアメーカーは実質的に存在しない。こうした中、独自ブランドを立ち上げてメーカーとしての機能をしっかりと訴求する。それだけ、シャンデリア分野においても日本製に対する信頼度は高い。事実、欧米に旅行して現地の製品を購入したとしても『この部分を交換してほしい』といった要求は少なくない」
--具体的にはどういった形で事業を進めるのか
「ブランド名はイタリア語で『光』を意味する『LA LUCE(ラルーチェ)』として本格展開し3000点以上を投入、複数のコレクションに分類して販売する計画だ。シャンデリアの製造では、とくに電気系統の作業や溶接の部分で高度な技術が不可欠となる。このため千葉市花見川区にある配送センターの一角に新たな設備を導入。最終的な組み立ては日本で行うという体制を構築し、品質をアピールしていきたい」
--他の営業強化策は
「販路の拡大だ。札幌や神戸、福岡など地方の主要都市に支店を開設し、18~20年にかけては雑貨店かライティングショップという形で30~100カ所で展開したい」
【プロフィル】森みどり
もり・みどり 1986年広島会計学院専門学校卒。同学校法人に入社し常務理事秘書、ワープロのインストラクターや検定対策を担当。89年退職し専業主婦。2006年3月にEL JEWELを設立し現職。広島県出身。
【会社概要】EL JEWEL
▽本社=東京都港区麻布十番3-10-12 シティ麻布1階
▽設立=2006年3月
▽資本金=1000万円
▽売上高=約6億5000万円(14年12月期)
▽従業員=31人
▽事業内容=シャンデリアの製造販売、施設などの空間設計・施工
「フジサンケイビジネスアイ」