□オリィ研究所・吉藤健太朗CEO
政府は5年後にロボット市場を、現在の4倍の2兆4000億円に引き上げる新戦略を策定した。ロボットは産業用や医療・介護、災害現場での活用が期待されている。そんな中で、病気で学校に通えない子供や、単身の高齢者などの孤独をコミュニケーションロボットで解消しようという試みが注目されつつある。「OriHime(オリヒメ)」を開発したロボットベンチャーのオリィ研究所の吉藤健太朗最高経営責任者(CEO)は「会いたい人に会えて、行きたいところに行ける社会をつくりたい」と話している。
--オリヒメとはどんなロボットか
「自らの分身として離れた家族や友人の元に置き、パソコンや携帯端末で遠隔操作する。体高20センチでコンパクトだが、目、耳、口があるので、操作する人は自分がその場にいるような感覚で、相手の姿を見て音を聞き、会話を楽しむことができる。うなずく、首を振る、手をたたくという動作によって感情を表現することもできる。このため相手にとっては、その人が本当にそこにいるような臨場感を得られる」
--開発のきっかけは
「ものづくりが好きで高校生のころ、段差を登るときに絶対に傾かない電動車いすを開発して、国際学生科学技術フェアで3位になった。それを機に障害者や高齢者の悩みを相談されるようになる。すると身体的なことより、孤独や寂しさからストレスを抱えている人が多いことを知った。実は私は小学校から中学校にかけて不登校になり、鬱と孤独で3年間自宅に引きこもったことがある。自らが苦しんだ経験から、孤独を解消するためのロボットをつくろうと思い立った」
--これまでの導入例は
「福祉、教育関連を中心に試作タイプが約80台導入されている。急性白血病で無菌室に入っていた女性の自宅にオリヒメを置いたときは、子供たちから『お母さんがいるみたいだ』と言われた。学校から帰宅すると母親が『お帰り』と声を掛ける。子供は『ただいま』と返事をして、自然と親子の会話が始まる。寝たきりの高齢者がオリヒメを通じて墓参りや結婚式に参加したこともある」
--7月から量産機のレンタルを始める
「ようやく初の量産機を開発することができたが、月額5万円になってしまうので、個人は手が出しづらい。そこでスポンサーを募り、CSR(企業の社会的責任)の一環として費用を負担してもらい、必要な人に貸与することを考えている。すでに関心を示している法人と話を進めている。初年度は200台の利用を見込んでいるが、さらにコストダウンを図るとともにサポートを充実させることで、2年目には1000台の出荷を目指す」(佐竹一秀)
【プロフィル】吉藤健太朗
よしふじ・けんたろう 早大創造理工在学中。2012年9月オリィ研究所を設立し、最高経営責任者(CEO)。27歳。奈良県出身。
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【会社概要】オリィ研究所
▽本社=東京都武蔵野市西久保1-3-11
▽設立=2012年9月
▽資本金=2010万円
▽従業員=7人
▽事業内容=コミュニケーション支援ロボットの企画・製造・販売
「フジサンケイビジネスアイ」