
日本を代表するビジネス街である東京の大手町・丸の内地区に「交流」をキーワードとする施設が相次いで誕生した。オフィスビルのテナントはこれまで大企業が圧倒的に多かったが、中小・ベンチャー企業が集まりやすい空間整備に注力。新たな“住民”を誘致することで大手企業との化学反応を起こさせ、新たなビジネスを創出するのが狙いだ。世界に向けた発信力も高まるだけに、新施設に対する期待感は大きい。
世界への原動力
東京駅近くに建つ日本ビル。この一角に2016年3月末までの期間限定で「TIP*S/3×3 Labo」(ティップス サンサンラボ)という施設が稼働した。運営するのは三菱地所と中小企業基盤整備機構。広さは約850平方メートルで、最大150人を収容する大会議室や、利用者が自由に交流できる「カフェライブラリ」などで構成されている。
大手町・丸の内の“大家”である三菱地所は、会社でも自宅でもない第3の場所「サードプレイス」と位置づけ、市民大学などのコミュニティーと大手町・丸の内の大企業をつなげる交流・活動拠点を目指す。
共同運営に対する期待度は大きい。開発推進部の西本龍生・副長は「大企業との接点が弱かった中小企業がつながれば、地方へ広がるはず。新しいシナジー効果を発揮することで、世界に向けた産業を生み出す原動力になればいい」と語る。
大手町・丸の内は同社が主体となって再開発が進む。交流により新たな事業創出に成功すれば、東京都心部だけでなく、国際都市間で激しさを増すテナント招致合戦も有利に展開できるからだ。
中小機構も「(中小・ベンチャーが)大企業で働く個人とつながること」(経営支援部人材支援グループTIP*S担当の越智稔之参事)に期待を寄せる。中小企業は、独自技術を保有していても外部とのネットワークが乏しく、新たなステージへと発展するケースが少ない。特に大手町・丸の内に本社を構える大企業との連携を構築することは難しかった。
このため中小機構は、TIP*Sで参加型プログラムなどを積極的に開催し、「創業や新事業のヒントを得られる拠点とする」(高田坦史(ひろし)理事長)考え。
企業が集まる大手町・丸の内に着目し交流施設を設ける企業も出てきた。東急不動産は会員制のサテライトオフィス「ビジネスエアポート東京」「同丸の内」を丸の内に相次ぎ開業した。一般のビジネスマンが“第2のオフィス”として活用したり起業を志望したりする人たちが集う。同社が大手町・丸の内に本格進出するのは初めてだ。
他企業も注目
ビジネスエアポートは青山、品川に次いで3、4カ所目となる。東急不動産は大企業に勤めるサラリーマンの多さに注目、東京店ではイベントを通じて異業種の人々が出会い、「共創が生まれるような環境づくりをサポートする」(事業創造本部新規事業検討グループの酒見健一氏)考えだ。
そのために用意したのが、独自のイベントやセミナーなどを提供する「遊学堂」というサービス。将来的には週1回のペースで開催する計画だ。
中小・ベンチャーと大企業のマッチングを図る動きは各地で顕在化している。中小・ベンチャーの武器はアイデアとスピード。一方、大企業はブランド力と販路に大きな強みを持つ。これらを組み合わせることで相乗効果を発揮し、各自の事業を発展させるのが目的だ。
■付加価値の必要な分野で連携
トーマツベンチャーサポート(東京都千代田区)は毎週木曜日の朝、ベンチャーが大企業を相手にプレゼンテーションを行うイベント「モーニングピッチ」を開催している。大企業が参加する狙いは「本丸の事業は独自で取り組み、付加価値が必要な分野で連携を進めること」(斎藤祐馬・事業統括本部長)にほかならない。テレビ局や大手百貨店、文房具メーカーとベンチャーの間で事業提携の動きも活発化、この流れは加速するとみられる。
有楽町を加えた通称「大・丸・有」地区は120万平方メートル。このエリアに日本を代表する企業が4000社も集まっている。
これまでの大・丸・有地区は横の連携がうまく機能せず、“地の利”が十分に生かされていないとの指摘がある。
しかしフットワークの軽い中小・ベンチャーが参入すれば、高い壁も軽く乗り越えて新たなビジネスを誘発する機会も拡大するのは必至。そういった意味でも、交流拠点が果たす役割は大きい。(伊藤俊祐)
<フジサンケイビジネスアイ>