天然木の優しい素材感を、見て触れて感じるキッチン
2025年9月1日、住設機器大手のクリナップ(東京都荒川区)は主力の中高級価格帯システムキッチン「STEDIA(ステディア)」のリニューアルを行い、受注を開始した。
2025年9月1日にリニューアルを行い、
受注を開始した
クリナップの主力システムキッチン
「STEDIA(ステディア)」
「居心地の良さ」と「キレイ」を軸にした価値提案力の向上を目的とした、今回のリニューアルの目玉は2つある。1つは、天然木の素材感を活かした「天然木ワークトップ」の採用。もう1つが、排水口の掃除の手間が大きく軽減される「かってにクリントラップ」の標準装備だ。
まずは「天然木ワークトップ」から話を始めよう。ワークトップ(天板)は文字通り、システムキッチンの「顔」となる部分だ。
2022年2月にフルモデルチェンジした「STEDIA」は、ワークトップにステンレスやクリナップ独自開発の人工大理石、セラミックなどのバリエーションを用意していた。そこに今回、天然木という新たな「顔」が加わった。
「天然木ワークトップ」の素材は、家具材として人気のオークとウォールナットの挽(ひ)き板で、カラーバリエーションはオーク、ウォールナット、オークグレーの3種類=写真=を用意。
「STEDIA」の
新たな顔としてラインナップに加わった
「天然木ワークトップ」。
写真下より
オーク、ウォールナット、オークグレーの
3つのカラーバリエーションがある
(図解)断面図
天然木には優しい素材感があり、挽き板1枚1枚に節や色合い、木目のばらつきといった個性がある。経年変化による素材の色合いや風合いの変化もまた、天然木の魅力の1つ。
ワークトップの縁の部分にも、挽き板と同じ素材の無垢材を吟味して使用した=図解。ゆるやかなカーブを描く木口からも、天然木のぬくもりが感じられるように、細部の仕上げにもこだわった。
一品一品異なる天然木の個性が醸し出す、世界でただ1つの風合いとぬくもり、そして天然の無垢材に触れた感触に癒やされる――。従来のキッチンにはなかったそんな新たな体験が、装いも新たになった「STEDIA」の「天然木ワークトップ」を通して、広がっていく。
「天然木ワークトップ」は、クリナップと、銘木商として1910年代に創業し、天然木建材にこだわり続けてきた朝日ウッドテック株式会社(大阪市中央区)との共同開発によって生まれたものだ。
天然木フローリングで初のグッドデザイン賞を受賞した実績を持つ同社は、空間価値を向上させる銘木内装材「WOODRIUM(ウッドリウム)ボード」(カウンター/挽き板)を展開している。新「STEDIA」の「天然木ワークトップ」は、同社の「WOODRIUM」をベースに開発された。
一方、クリナップも1949年に創業者の井上登名誉会長(故人)が個人事業としてケヤキ材の座卓の製造販売を始め、会社を設立。その後キッチンに特化し専業メーカーとして成長を遂げた歴史を持つ。
「クリナップ×WOODTEC」の名の下で、市場に一石を投じる両社のコラボが始まったのだ。クリナップによれば、キッチンのワークトップの素材に天然木を使用している大手住設機器メーカーは、現在ほかにない。
リビングと調和するキッチン
最近の住設機器市場では、家族とのコミュニケーションがとりやすく、料理中でも開放感が得られる対面キッチンが施主に好まれ、主流になっている。また、家族が食事を取るダイニング(D)とキッチン(K)を組み合わせた「ダイニング・キッチン(DK)」や、そこに家族がくつろぐリビングを組み合わせた「リビング・ダイニング・キッチン(LDK)」と呼ばれる間取りを取る住宅も多くなってきた。
クリナップでも、2022年2月に「STEDIA」のフルモデルチェンジを行った際、「デュアルトップ対面」キッチンをラインナップに加えた。
リビングに面する側の対面カウンターをキッチン側よりも高くし、段差を設ける。そうすることで、キッチンの作業面やシンク内が、リビング側の視線からほどよく隠れるようにしたのが、「デュアルトップ対面」だった。
リビング側の対面カウンターとキッチン側が同じ高さの「フラット対面」は、開放感が高く、家族とのコミュニケーションが取りやすい。だがその一方で、リビング側からキッチンで作業をしている人の手元や、汚れたシンク内が見えてしまう。
それを気にする生活者の「非満」(製品を使うエンドユーザー自身もまだ自覚していない潜在的な不満。クリナップの商品開発におけるキーワードになっている)に応え、段差をつけたのだ。
そのようにして、システムキッチンがリビングの中に受け入れられていった。そうした中で、クリナップの開発部門では、「キッチンは単なる調理場としてだけでなく居住空間の一部としても求められるようになっている」と感じていたという。
「居心地の良い空間」作りが、「STEDIA」のリニューアルにおける1つの大きなテーマとなった。開発部門で議論を進める中で、キッチンの「顔」として製品の印象を大きく左右するワークトップに、天然木を採用するというアイデアにたどり着いた。
天然木なら、家族がくつろぐ場であるリビングの雰囲気により調和する。自然素材の天然木が醸し出す「木の温かさ」をシステムキッチンの「顔」にする意味は、そこにあったのだ。
今回、「天然木ワークトップ」と同じ素材、同じ仕様で作られた「天然木ライフテーブル」もオプションで用意された。「天然木ワークトップ」と同じ方法で強度、耐水性、清潔さを高めている(後述)ので、天然木ワークトップの横に据えて、調理の作業テーブルとしても使用が可能だ=写真。
オークタイプの「天然木ワークトップ」の横に「天然木ライフテーブル」を置いている。
日常の生活感の中にキッチンが溶け込んでいる印象だ
長年地中に埋まり、黒く変色した希少な「神代(じんだい)オーク」を再現したオークグレーのワークトップは、
リビングにシックで落ち着いた雰囲気を添える
施主の住宅の間取りやリフォーム需要も考慮し、同社製の既存システムキッチンと同様に、オーダーメイドキッチン並みのミリ単位での寸法微調整にも対応している(I型の場合)。
天然木を、水回りでも安心・手軽に使える素材に
「天然木ワークトップ」と聞いて、「水回りに木材を使って大丈夫か?」と思う人もいるのではないか。
木材は、とくに切断面である木口から水分を吸いやすい。クリナップのキッチンはほぼ全機種で、ワークトップの開口部の下部からシンクを固定するアンダーシンク構造になっているので、シンク周りの天然木の木口が水に濡れやすいのだ。
朝日ウッドテックの「WOODRIUMボード」は、本来ベンチやテーブル、キッチンサイド、洗面台のカウンタートップなどでの使用を想定したもので、それをキッチンのワークトップに使うというのは、同社でも予想外だったという。
しかも、木材はクリナップがワークトップ材として使用しているステンレスや天然大理石よりも柔らかく、凹んだり傷がつきやすい。加えて、食品を直に扱うワークトップだからこそ、天然木の表面に雑菌などが繁殖しないよう、衛生面にも配慮が必要だ。
つまり、天然木がキッチンのワークトップとしての使用に耐えられるように、強度、耐水性、清潔さの3つに要求される、高いハードルをクリアする必要があったのだ。
クリナップには、キッチン部材の強度や耐久性、耐水性を始めとする試験・検証の方法や基準について、専業メーカーとしてのノウハウの蓄積がある。今回も、新たに天然木素材について、試験・検証の方法や評価基準を作成するところから、プロジェクトが始まった。
(図解)塗装
「天然木ワークトップ」に求められる強度、耐水性、清潔さをクリアしたポイントは、塗装にある。ワークトップ表面に5層、裏面に2層、木口面に7層のウレタン塗装を行い=図解、天然木素材を傷や衝撃から守り、水の浸透を防いだ。上塗りには抗ウイルス・抗菌塗装を施してある。
水を入れたコップをワークトップに直接置いて、90日が経過しても「水染み」ができないことも、耐水評価試験で検証されている。
「キレイアイテム」も進化させ、日常の手入れもさらに手軽に
今回の「STEDIA」リニューアルの2つ目のポイントは、「キレイ」を軸にした価値提案力の向上だった。「STEDIA」は従来から「キレイ」にこだわり続けてきた。
たとえば、料理中に使う水で自然にゴミが排水口に流れていく「流レールシンク」。また、シンク表面から汚れを浮かせて落としやすくするための、シンク全面にわたる「美コート加工」(特殊セラミックコーティング)。さらに、汚れやすい排水口をシンクと一体成形して継ぎ目をなくし、掃除の手間を省いた「とってもクリン排水口」。
これらが、「あなたの“がんばらない”を支える」をキャッチフレーズに掲げる、「STEDIA」の「お手伝いアイテム」に加わっていた。
今回のリニューアルでは、排水口の一部に水をためてふさぐことで、配水管を通って悪臭や害虫が入ってくるのを防ぐ排水トラップに改良が加えられ、「かってにクリントラップ」が標準装備された。
(図解)かってにクリントラップ
排水トラップの側面にある噴射口から水を噴射し、うず状の水流を作って定期的に洗浄することで、排水トラップ内の掃除が自動で行われる=図解。
クリナップでは、キッチンに付着しやすい調味料や油分など、さまざまな汚れを想定して取り除く検証を行っており、水拭きやアルコール拭きで、ほとんどの汚れが落とせるという。
「天然木ワークトップ」に調味料や飲料、お酒などをこぼしても、水拭きすれば簡単に汚れを落とすことができる。キッチン用の塩素系除菌漂白剤やアルコールを掃除に使っても、表面の塗装は守られ、汚れだけを取り除けるとのことだ。
システムキッチンの構造材は、従来ながらの「ステンレス エコキャビネット」。錆びにくく堅牢なステンレスは、カビやニオイにも強く、キッチンの内部を清潔に保つ。
キッチンは「家庭の中心」に近づいていく
今回の「STEDIA」のリニューアルは、製品・販売戦略的にも大きな意味がありそうだ。最近クリナップのキッチンでは、最上位機種の「CENTRO(セントロ)」と普及価格帯の「rakuera(ラクエラ)」が同時に販売を伸ばしている。
高級価格帯の製品と、普及価格帯の製品が同時に売れ行きを伸ばすという現象が、市場に起きているのだ。
「STEDIA」は中級価格帯に位置づけられており、「CENTRO」と「rakuera」の中間からやや高級寄りに設定されている。
マーケティング的には、今回のリニューアルを通して、フルモデルチェンジから2年半以上が経過した主力「STEDIA」の高付加価値化を図り、高価格帯の製品を求めるエンドユーザーの購入ニーズを取り込みたいという意図があるものと考えられる。
今回のリニューアルのもう1つのポイントは、キッチンの購入を検討している顧客の「憧れ」(理想の空間、暮らし)への訴求力を高めることだ。天然の無垢材が持つ温かさや個性をデザインに活かすことで、顧客のキッチンに対する「親しみ感」や「愛着」を高め、「STEDIA」の購入検討層のボリューム拡大を図った。
2022年のフルモデルチェンジで登場した「デュアルトップ対面」。そして今回の「天然木ワークトップ」のリリースと、「STEDIA」は、よりリビングと調和する方向に向かっているように見える。
「天然木ワークトップ」の登場で、リビングに一層溶け込んだ「STEDIA」。そのすぐ横には、ワークトップとお揃いの「天然木ライフテーブル」があり、そこで家族が食事をしたり団らんを楽しむ。ときには、子どもたちが遊んだり、勉強する姿も目に浮かぶ。
家族にとってのくつろぎの場のすぐそばに、キッチンがあるというライフスタイルが、普通のことになっていくのではないだろうか。今後キッチンとリビングの融合が進み、やがてはキッチンが家庭の中心的な存在になっていくのかもしれない。
業界初にこだわり「No.1ブランド」を目指す
「クリナップらしい商品、そしてクリナップにしかない商品を開発してほしい」
これは、クリナップの竹内宏代表取締役社長執行役員が、同社の開発部門の社員たちに普段かけている言葉だ。「クリナップにしかない商品」ということは、必然的に業界初の商品ということになる。
クリナップは今回、「天然木ワークトップ」と「かってにクリントラップ」という2つの業界初のアイテムで、これまでにない市場を新たに創るという挑戦に打って出た。
新「STEDIA」リリースの
意気込みを述べる、
クリナップ代表取締役社長執行役員の
竹内宏氏
今回リニューアルした新「STEDIA」は今年度下期からの受注となるため、今期は若干のプラスにとどまるが、来期以降は大幅な販売増を見込んでいるという。
クリナップの中級価格帯キッチンのシェアは2024年時点で業界2位。新「STEDIA」の販売を強化し、2030年までにシェアトップを目指す。「システムキッチンNo.1ブランドの獲得」が、クリナップの主力キッチン「STEDIA」の開発方針だ。
クリナップは昨年度から「2024中期経営計画」(2024~2026年度)に取り組んでいる。同中計の基本方針は以下の3つだ。
1.「ファン化促進」による成長拡大、収益力の向上
2.「専業力強化」による経営基盤の次世代化
3.資本収益性の重視と利益還元の拡充
この3つに取り組みながら、同社は最終年度の2026年度の売上高(連結、以下同様)1450億円以上、経常利益60億円以上、ROE(自己資本利益率)7%以上 という、同中計の財務目標の達成を目指す。それぞれ、2023年度の売上高1279億円から約13.7%以上の増加、同年度の営業利益12億円から5倍、同年度のROE2.6%の約2.7倍という大きなチャレンジだ。
竹内社長は、2025年8月27日に同社ショールームの「キッチンタウン・東京」(東京都新宿区)で行われた新商品発表会で、
「われわれの主力中の主力である、この『STEDIA』(の販売目標)を達成しなければ、中期経営計画の数字も達成できない」
「新『STEDIA』の良さと、新たに提供する価値を、より多くのお客様にお届けするべく、社員一丸となって拡販に努めていく」
と決意を述べた。
取材・構成:ジャーナリスト 加賀谷貢樹
クリナップ株式会社