堀江車輌電装株式会社 代表取締役 堀江泰
AI活用とダイバーシティーを推進

「技術者集団」を自負する堀江車輌電装は2012年に4代目社長に就任した堀江泰氏のもと、コーポレートスローガンとして掲げる「ゆるぎない技術、たえまない挑戦」に注力。主力事業である鉄道車両の整備・点検で技術力を磨きながら顧客の信頼を高めるとともに、新事業にも果敢に挑んで多角化を実現した。障害者支援 にも積極的に取り組む。堀江社長は「ベテランの職人と若手との融合、ダイバーシティー(多様性)の達成が理想」と言い切る。人的資本経営でさらなる成長路線を進む。
- ――「2024年度しんきん優良企業表彰」で東京新聞賞を受賞した
- 事業の多角化で強固な経営基盤を築き、独自の障害者支援に取り組む企業として評価された。12年の事業承継後、15年に障害者の就労支援事業を開始、16年にはビルメンテナンス事業を開始した。新事業に挑戦しシナジーを起こすことで成長できた。障害者の独立支援にも取り組んできた。
- ――今、力を入れていることは
- 職人から若手への技能伝承にAI(人工知能)を活用することだ。AR(拡張現実)技術を使って、職人の目の動きなど属人的な技能を可視化して若手に伝える取り組みを進めている。例えば、車両のブレーキの分解・整備や検査工程に生かす。マニュアルでは理解しづらい細かい力加減や分量は動画で見ると理解しやすい。しかも現場にいる必要はなく、自宅で学べる。
- ――「背中で教える」世代の職人に若手は遠慮しがちだ
- 若手は疑問点があっても職人が忙しいとなかなか聞けない。「見て覚える」ことで技能を習得してきた職人は言語化するのが苦手だ。AIが代わりになって教えることができれば、暗黙知を形式知に変えることができる。効果が確認できれば他の作業にも広げていく。
- ――どんな効果を狙っているのか
- 生産性向上はもちろん、堀江車輌に対する信頼の維持・向上だ。ARを活用して、誰が作業を担っても間違いなくこなせるようにする。1年生(若手)も30年生(ベテラン)も同じ技能水準で作業ができるようになれば、誰が担当したの?その人は信頼できるの?という顧客の疑念を払しょくできる。これにより我々への信頼が増し、ライバルとの差別化につなげられる。
- ――AI化に取り組んできた成果は
- 若い人にインパクトを与えられている。ホームページなどにAIへの取り組みなどを掲載すると、興味を持つ人が来るようになった。採用にもつながっている。3K(きつい、汚い、危険)のイメージが強い業界だが、AIのような新しい取り組みに関心がある人が多いと感じている。
- ――離職者の減少にもつながっているのか
- これまで技能を習得できずに辞めていく若者は少なくなかった。しかし、AI化で1年生と30年生をうまく融合させることができれば、離職者は減り、20代が多くなるだろう。パソコンなどデジタル機器を使いこなす若者は報告書をうまく作成する。現場仕事では圧倒的優位な職人世代は(報告書作りが)難しいので若手を認めるようになった。大卒の若手と高卒の職人が見事に融合できている。
- ――障害者支援については
- 障害があるサッカー選手との出会いから、14年に「障害者支援事業部」を新設。就職先の紹介や障害者雇用の企業向けコンサルティングを始めた。一方で、自社でも雇用するため16年にビルメンテナンス事業を始めた。障害があってもなくても誰もが得て、不得手があり、得意なことは障害者でもパフォーマンスは高い。このため、どんな障害を持っているかを気にすることなく職場に配置している。誰も気にしないし、あとで障害者と気づくくらい。うまくかみ合わなければ軌道修正すればいい。
- ――障害がある子供も楽しめる野球盤「ユニバーサル野球」を開発した
- 実際の野球場の6分の1くらいのスケールで、体の可動域が1センチメートルあれば誰でも参加できる。超重度障害者も楽しめ、ボールを打つと盛り上がる。野球ゲームをしながら健常者も、障害者との接し方を自然と学び、配慮できるようになる。知名度が上がり全国から貸し出し依頼を受ける。しかしボランティアではなくビジネス(未来創造事業)として展開しており無料では貸し出さない。
- ――外国人雇用にも乗り出した
- 横浜の車両工場(横浜作業所)でバングラデシュ人が働く。低賃金で雇えるからではなく、優秀だから採用した。イスラム教徒なので宗教上の配慮が必要だが、拝礼のためにモスクに行くのは昼休みで済む。日本人が病院に行くのと同じだ。ビルメンテでは中国人が戦力になっている。76歳のシニアも孫のような年齢の若手と一緒に働いている。誰もが活躍できる職場が理想だ。
- ――事業承継後の手ごたえは
- 今まで試行錯誤しながら挑戦し成長してきた。事業は車両整備・改造・点検のみだったが、今や障害者支援、ビルメンテナンス、ユニバーサル野球(未来創造)の4事業になった。従業員(パートを含む)も15人から63人に、売り上げは約1億8000万円から約6億円に増えた。新型コロナウイルス禍前は売り上げ目標として10億円を掲げた。コロナ禍の影響を受けて売り上げは落ち込んだが、ダイバーシティーとAIによる生産性向上で、早期に10億円を達成したい。
堀江 泰(ほりえ・やすし)
堀江車輌電装株式会社 代表取締役
2000年に堀江車輌電装株式会社入社。鉄道車両の整備・改造の現場で7年働き、2007年に常務取締役、2012年に四代目代表取締役に就任。代々続く車両事業の拡大の一方で、2015年には障がい者支援事業、2016年にはM&Aによりビルメンテナンス事業、2022年には未来創造事業(ユニバーサル野球)を立ち上げ事業領域を多角化。【人】への想いと経営理念である「柔軟な発想と実行力で、広く深く社会に貢献する企業」を軸に事業へ取り組む。45歳。埼玉県所沢市出身。