株式会社クレスコ  コーポレート統括本部 広報部 担当部長    米崎 道明

最高のテクノロジーと人との絆の掛け合わせで「わくわくする未来」を描く

「DX(デジタル変革)をリードする」ことを目標に掲げ、ソフトウェア開発、組み込み型ソフトウェア開発などに取り組んできた独立系システムインテグレータのクレスコ。今期から事業セグメントをITサービスとデジタルソリューションに変更し、グループの新ビジョンである「CRESCO Group Ambition2030」の実現に取り組んでいる。「中期経営計画2023」(2021~23年度)もスタートし6カ月が過ぎたが、滑り出しは順調だ。同社がビジョンと中期経営計画を同時に公表したのは今回が初めて。広報部 担当部長の米崎道明氏に、その狙いを聞いた。

コロナ禍で加速し始めた日本のDX

――IT業界はコロナ禍による影響は限定的で、従来のSI(システムインテグレーション)からDX(デジタルトランスフォーメーション)に成長の軸足が移るという動きが起きています。
顧客先のIT投資計画が順調に回復しており、当社の2022年3月期第1四半期決算では主要顧客を中心に受注が改善。売上高は前年同期比5%増で、営業利益が同87.4%増と大きく伸びました。
当社のお客様にも、従来型のSI案件が主流のところもあれば、最近の言葉でいうDXに寄ってきた案件も増えています。
――最近のDXの傾向、潮流をどう捉えていますか?
DXという言葉自体が非常に曖昧ですが、あくまで一般論として、DXは企業の競争力をいかに強化し、経営課題の解決にいかに貢献するかという意味で、従来のIT投資とは路線が異なるという話をよくしています。
ただ実際には、個社でみればそれぞれ温度差があり、すべてのお客様が同一の感覚でDXに取り組んでいるわけではありません。その意味で、DXの潮流は1本だと思われがちですが、そんなことはあり得ないのです。
そもそも日本では、DXはもちろんIT化も非常に遅れています。一部の企業はかなり進んでいますが、全体を見渡せば、日本はIT後進国になっているのが現状で、コロナ禍でその事実が浮き彫りになりました。
そうした中で、DXやIT化の本来的な意味、役割に気付いたお客様はもちろん、多くの企業が先を争うようにして、ITのビジネス活用を強化し始めたのです。
以前から取り組んでいたWebサービスのベンダーさんであれば、IT化のレベルをもう一段階引き上げ、DXに相当力を入れなければ勝ち残れません。一方、これまでアナログ的なやり方で仕事がうまく回っていた会社でも、競争力の低下を防ぐために、IT化をまず検討するという動きが生じました。
――コロナをきっかけにして自社のIT化を見直す動きが起こったわけですね。
そうです。ほかにも「働き方改革」はもちろん、多様性の尊重やSDGsといった社会的な動きが、ある意味の外圧として加わりました。多様性の尊重、SDGsの考え方に立てば、働き方に多様性を持たせることはきわめて当然、という結論になります。
こうした外圧も重なって、テレワークが広い意味でDXの1つに位置付けられるようになり、後述するように、これがカーボンニュートラルの話にもつながっていくわけです。「Zoom」が普及し始めた頃は、こういうことを考えている人はほとんどいませんでした。
これらのさまざまな変化が新型コロナ禍の中で起こり、DXや、IT化の持つ本来的な意味、役割に気付いた会社が増えてきたのです。いわゆるプラスのインパクトです。その流れの中で、少なくともAIは単なる興味・関心事ではなく、実装する前提で、検討が行なわれるようになり、DXも先端技術を利用し、競争力向上や課題解決に役立てる1つの手段や方法論という意味合いで語られるようになってきました。
当社にとっても、コロナ禍によるマイナスの影響は多々ありました。一気にテレワークに移行したことによって、生産性が低下したり、進行していた仕事が中断等で行き詰まったり、想定外の色々なことが重なり、一旦は業績を落としました。でもこれらは、たまたまコロナ禍で新たに顕在化した出来事で、トラブル自体は日常茶飯事に起きるものです
その意味で、あくまで私論ですが、影響は大きかったとはいえ、今回のコロナ禍がもたらしたプラスのインパクトは確かにあったわけです。

「非接触」と「省力化」が「Withコロナ」のキーワード

コロナ禍で浮かび上がった最大のキーワードが「非接触」です。以前からもITビジネスの中で非接触というニーズはありましたが、それがコロナ禍でよりクローズアップされたのです。ソーシャルディスタンスに始まり、本当に物理的な意味での非接触、あるいは人を介さなくてもすむソリューションが求められるようになりました。
もう1つのキーワードである「省力化」にも、コロナ禍によってさらに意味が加わりました。感染症の流行拡大により人材採用が困難になるとか、景気悪化で会社に雇用を維持する力がなくなってきた。あるいは店舗を減らさなければならないといった、経営を圧迫するリアルの問題にどう対処するのかを本気で考えなければ、明日はないという状況になってきたわけです。
当然、経営の観点からIT投資の費用対効果が一層重視されるようになりました。つまり、無駄が許されないので、優先順位をつけて重要なものから手を着けなければならない。また従来のように、大きな予算と長い時間をかけて行うシステム開発では、効率が悪い。そういう中で、本当の意味でのクラウドの価値が認識され、これまでなんとなく聞き流していた「クラウドファースト」という言葉も、かなりのリアルさをもってその大切さが実感されるようになってくるわけです。
これに伴い、IT業界の果たす役割やIT技術がもたらす付加価値が以前とは大きく変わり、そこに「働き方改革」などの要請や、SDGsやESG(Environment Social Governance)といったグローバルの要求が合わさり、今の潮流が形作られていると私は確信しています。

IT業界が地球環境保護に果たす役割

――カーボンニユートラルの話題が出ましたが、クレスコさんは日々のビジネスの中で、カーボンニュートラルをどう意識しているのでしょうか?
今年6月、ソフトウェアがIT機器を無駄なく使うという観点から、エネルギー効率を的確に評価できる日本発の国際規格「ISO/IEC23544:2021/APEE)が、経済産業省から発表されました。これは「ITサービスが提供する価値」をIT機器の消費電力量で割って、エネルギー効率を算出するというものです。
たとえばデータセンターを所有している企業なら、消費電力をおさえることはもちろん、(ソフトウェアベースで)いかに効率の良い仕事をしてユーザーにサービスを提供するかがポイントになるわけです。また、お客様が提供しているサービスそのものがクラウドベースになってくると、自社でサーバーを保有する必要がなくなるので、そのぶん消費電力量も減少します。
そこで、昨年12月に経済産業省が発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、IT業界は「グリーンbyデジタル(デジタル化によるエネルギー需要の効率化・省CO2化の促進)」と「グリーンofデジタル(デジタル機器・情報通信産業自身の省エネ・グリーン化)」を、両輪として進めていくと定められました。
――となると、IT業界が社会に果たす役割が、これまで以上に大きくなるのではないですか?
これからそうなっていくことは、むしろ自然な流れと思います。そうした要求に応えられる企業こそが、本当に評価される社会に、なっていくのでしょう。
自分たちは関係ないというスタンスではいけないし、少なくともプライム市場を狙う企業にとってはマストです。われわれIT業界のベンダーとしては、サービスの担い手の倫理の基準として、「グリーンbyデジタル」と「グリーンofデジタル」をつねに意識する必要があると思います。
気候変動の問題に対し、自分にできることも、会社でできることも限られています。ならば、自分たちならお客様に何を提供し、事業を通じてどう貢献できるのか。そして、われわれ自身がお客様にサービスを提供するにあたり、結果的に社会に貢献したといえるためには、どんなことに気をつけなければならないのかを、よく考えることも重要です。
私たちの仕事のやり方や、提供するサービスの質そのものが、今世界が目指している方向に合ったものであるかどうかが大切なのです。

「挑戦の10年」への決意――新グループビジョンがスタート

――こうした中、クレスコさんはビジョン「CRESCO Group Ambition2030」を打ち出しました。
以前から、5年ごとにビジョンを作っていましたが、それは基本的には社内向けのものです。今回は、公開を前提に、グループ全体の変革を見据え、10年のビジョンを策定したのです。国連のSDGsの目標年度とも合致し、切れの良い2030年を、同ビジョンのゴールに設定しました。
ビジョンでは、目指すべき経営目標として、売上高1000億円の達成を掲げていますが、われわれ中堅企業からみると、業界内でのポジショニングとして1000億円企業というのは1つの夢です。後述の「中期経営計画2023」で売上高500億円を目指しているわけですから、その2倍。年8%以上の成長率を維持し、各年度で複数のM&Aを行えば、達成可能なものです。
――2030年に向けて、どんなことに取り組んでいくのでしょうか?
今期から事業セグメントを変更し、クラウド関連やRPA関連、AI関連などからなる「デジタルソリューション」に加え、主にエンタープライズ・金融・製造分野に向けてSIおよびシステムの保守を手がける「ITサービス」に整理しました。
この体制のもとで、クレスコグループとしてできることは何かを追求していく、挑戦の10年ということになります。逆にいうと、この10年で次の10年のビジョンを作り上げていく。その時代時代のライフスタイルの中で、われわれが果たすべきミッションを設定し、どんなパーパス、すなわちクレスコは「何のために存在するのか」という存在意義をより明確にしなければなりません。
その中で、自分たちが目指す未来がみえてきて、具体的にわれわれは何をどう行っていくのかを、今後の中期経営計画で改めて設定していくことになります。
――「人が想い描く未来、その先へ」と題された同ビジョンには、「わくわくする未来を描いていく」と記されています。
2021~30年度を見据えたクレスコグループのビジョン「CRESCO Group Ambition2030」
わくわく感は人を成長させますし、新しい発明のキーワードでもあります。どんな業界でも、わくわく感は大事です。
人間個々の成長においても、楽しく仕事をすることは大きなポイントで、チームで仕事をするにも、わくわく感がなければ盛り上がらないし、ポジティブになれません。それゆえクレスコは、設立当初から「わくわく」という言葉を大事にしてきたわけです。
「これから世の中はどう変わり、私たちはどうしていくのか?」という、この「わくわくする未来」が、企業も個人も、市場をも成長させていくのではないかというイメージです。
「人が想い描く未来、その先へ」というタイトルは、「人々の想像を越える『その先』とは何か?」と問いかけるような気持ちで作りました。「その先」を越えて提案し、挑戦していきたいというのが、このタイトルが意味するところです。
――AIやロボットを始め、テクノロジーの進歩による弊害が強調されがちですが、テクノロジーが拓く「わくわくする未来」に目を向けたいものですね。
だからこそ、同ビジョンの名称に「Ambition(野心、大志)」という言葉をあえて使っているのです。大志は、われわれがずっと持ち続け、半永久的に追求すべきものであって、どこかでゴールに到達し、終わるようなものではないという発想がそこにあります。
今われわれが1人1台スマートフォンを持っているとは、10年前には誰も考えていなかったはずです。同様に、今のようにAIやクラウド、自動運転が実現するとは、10年前には誰も思っていない。みんな「ドラえもん」の感覚でみていたわけです。それらが次々に現実のものになっているように、この先の10年は、おそらく誰も想像できないものになっていくでしょう。
しかも、そのスパンがどんどん短くなっていて、10年後はおろか、5年先もどうなるかわかりません。5年後にはスマートフォンはなくなり、まったく違うデバイスに姿を変えているかもしれません。PCもなくなっているかもしれないのです。
同ビジョンでいう「最高のテクノロジー」とは、何か特定のものを指しているのではありません。クレスコでいうと、デジタルソリューションも含めたITテクノロジー全般を指しています。その時代時代に求められるものであったり、その時々に最先端テクノロジーといわれているものを駆使し、お客様を含めたステークホルダー全員が信頼関係、すなわち絆を大事にし、皆で感動できる未来を作ろうというイメージです。

今後3年で新たなビジネスの柱を生み出し、コアビジネス領域をより強固に――「中期経営計画2023」

――ビジョンを実現していくにあたって、まずは「中期経営計画2023」(2021~23年度)に取り組むわけですね。
そうですね。今回は(「新たなビジネスの柱を生み出すための重点戦略」と「コアビジネス領域をより強固にするための基本戦略」について)それぞれわかりやすく3つの柱を設定しました。
今年4月にスタートした「中期経営計画2023」。2023年度までに新たなビジネスの柱を生み出し、コアビジネス領域をより強固にすることを目標とする
重点戦略については、これから投資を行う事業がぞくぞく登場し、当社の事業に占める比率も大きくなっていくと思います。基本戦略については、われわれの主たるビジネスであるSIを中心にしたもので、ベースの部分でしっかり収益を上げ、新事業に取り組むための原資を確保するという形にしていくことを意図しています。
――「新たなビジネスの柱を生み出すための3つの重点戦略」の中に、「機動的経営の進化」と「人間中心経営の深化」が位置付けられているのはなぜですか?
機動的経営とは、グループの総力を結集しましょう、ということです。お客様からみて、クレスコにパーパス(存在意義)があるとすれば、われわれが価値あるビジネスを行うことができているということになります。2023年にはグループ全体として、お客様にとって価値あるビジネスを素早く展開できるようになっていることが、機動的経営のゴール。
そのためには、われわれ自身がDX企業として、DXをきちんと体現することができていなければなりません。「DX銘柄」認定の取得を目指すのもそのためで、それにふさわしい経営基盤を構築していかなければならないという意味合いを込めています。
「人間中心経営の深化」については、われわれの仕事は人が行うものなので、「健康経営優良法人」上位企業を目指すのも、次世代人財育成を充実させていくのも当たり前のことでしょう。

企業は人なり、DXも人なり

――ホームページの「エンジニアブログ」に書かれているAIやRPA、クラウド、UX/UI、データ分析、アジャイルの記事を見ても、社員の皆さんが生き生きとして仕事に取り組んでいる姿がうかがえます。
そう見ていただくのが一番嬉しいですね。これもわくわく感につながる話で、やはり1人ひとりが仕事を楽しむ事が大事。仕事が楽しければ能力も発揮でき、結果的に「最高のテクノロジー」を提供し、お客様や世界に認められるようになるという発想です。
ですから、昔の人がいったように「企業は人なり」なのです。とくにソフトウェアの部分は、人に負うところが非常に大きいですね。
――AIもしくはITの進歩で「人がいらなくなる」という面が強調されがちですが、人間中心というキーワードを打ち出されている点には共感するものがあります。
そこがDXの大事なポイントです。人がいらなくなるからDXをやる、というのは本末転倒です。人々が働きやすい環境を構築し、非効率もしくは定型的な業務から開放されることで、人間が人間らしい仕事をすることが大事であって、AIが人に取って代わるというのは、そもそもあり得ない話です。
AIは、あくまでツールであり、それを開発することで人が幸せにならなければ意味がありません。DXについても、それを推進することで会社を変えた結果、人間中心の経営ができるようになったというのが、最も望ましいあり方です。

「さらなる高み」を追求し、挑戦し続ける

――「さらなる高みへ」という言葉から始まるクレスコさんの行動指針に「Ambition(大志)」を感じます。
「さらなる高みへ」「勇敢に進もう」「もっと面白く」という行動指針は、まさに「Ambition」を表したものです。
繰り返しになりますが、仕事は面白く、わくわくするものでなければパフォーマンスを発揮できません。新たな挑戦とはわくわくするものであり、そこに困難もあるからこそ楽しいわけです。(さらなる高みに向かって)果敢に取り組んだことの結果が、お客様や社会から認められ、多くの人から「よかったね」「素晴らしいね」といってもらえたら、人はさらに成長したくなるものです。私も褒められて、ここまで育ってきました(笑)
その意味で、この行動指針は、ラテン語で「成長する」ことを意味する「CRESCO」という社名にぴったりではないかと、私は思います。
――新中期経営計画がスタートして約半年が経ちますが、手応えはどうですか?
出だしの数字としては、予想したよりも良い結果だと思います。デジタルソリューション事業がまだスタートしたばかりで、これから成果が次第に現れてくるはずですが、スタートの段階でつまずくことがなかったのは幸いでした。
――今後の抱負を聞かせて下さい。
こうしたグループビジョンや新中期経営計画がスタートし、グループとしてコミットし始めた以上、そこに定められた目標の達成に向けて、約束をきちんと果たさなければいけない。要は、階段を無理に跳び越すのではなく一段一段着実に上っていくということです。
地道ながら、決めたこと、皆様にお約束したことを必ずやり抜く。これがある意味、クレスコの真面目な部分、持ち味だと自負しています。堅い会社だと思われるかもしれませんが、クレスコは、『誠実な会社』だということを、皆さんにしっかり理解していただけるよう、これからも精進してまいります。
「取材・構成 ジャーナリスト 加賀谷貢樹」

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