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公益財団法人川崎市産業振興財団     井出 裕之、山関 章司、木村 佳司

中小企業を育むための数々の取り組みを行う川崎市

新型コロナウイルスの流行に伴い、中小企業を取り巻く環境が変化するなか、公益財団法人川崎市産業振興財団の中小企業支援の取り組みについて、中小企業サポートセンター 所長 井出裕之氏、新産業振興課長 山関章司氏、新産業振興課 担当課長 木村佳司氏の3人に話を聞いた。

チャレンジする企業を応援し、新たなビジネス展開を支援(中小企業サポートセンター 所長 井出裕之)

中小企業サポートセンターで実施している経営相談とは、どのような支援と企業を対象に行っていますか?
川崎市内の事業者を対象に直面する経営、税務、企業法務などの様々な課題に対し、中小企業診断士、税理士、弁護士等、各分野の約160名の登録専門家が無料で適切なアドバイスを行っています。
大企業を除く、中小事業者等を支援対象としていますが、なかでも自社では経営課題を解決できない小規模事業者や個人事業主の方などの利用が多くを占めています。
特に力を入れている活動はどのようなものでしょうか?
経営相談と創業支援が中小企業サポートセンターのメイン事業となります。創業支援の分野では「かわさき起業家オーディション」に力を入れています。新たなビジネス展開を図る元気な企業を育てることを目的に開催しており、『全国の起業家の登竜門』として創業や新分野進出につながるビジネスプランを所在地や国籍、事業分野などの制限を設けずに募集し、各分野の専門家が3段階の審査により事業可能性を評価します。優秀なビジネスプランには発表の機会(プレゼンテーションの場)を提供するほか、販路開拓や資金調達、事業パートナー等とのマッチングなど、継続的・多面的な伴走型支援を行います。平成13年からスタートして20年の歴史があります。2021年7月16日に127回目の最終選考会を開催しました。
他の自治体では年1回開催というケースが多く、開催場所の自治体出身者に限る、あるいは女性や学生などに限定するなど対象者を絞ったものが多いです。当財団では入口の門を拡げて年4回開催することで法人、個人を問わず全国から応募を頂いております。そういった応募者の中にはオーディションをきっかけに川崎に本社や事業所を移して頂いた企業もあります。
一昨年までは年6回と開催回数が多く、オーディションがイベント化して創業支援の意味がやや薄れていました。現在では年4回に変更し、受賞者のフォローアップに力をいれるようにしています。広報の支援や、ベンチャーキャピタル、金融機関などと連携した資金調達支援、見込み顧客を紹介するなどマッチングにも取り組んでいます。
新型コロナウイルスの影響を踏まえて工夫している点はありますか?
起業家オーディションに関しては、最終選考会後の懇親会を通じて協賛頂いている金融機関やベンチャーキャピタル、支援機関等と受賞者の関係作りをしていました。新型コロナウイルスによって人が集まることが制限されてしまった現在は、規模を縮小しながらも協賛企業と受賞者と名刺交換する場の提供は継続しています。
一般視聴者の受け入れも取り止めになった一方で、ビジネスプランの発表を、YouTubeを通してリアルタイム配信して、開催後1か月間は見られるようにしました。距離や時間の制限でオーディションに参加出来なかった人が視聴出来るようになったと好評です。新型コロナウイルス終息後もオンライン配信は継続していく予定です。
経営相談に関しては、新型コロナウイルスの影響で苦戦をしている事業者への支援策を国や県、市などが数多く打ち出しました。一方でそのような支援策の活用に慣れていない事業者も数多く存在しています。そういった事業者を支援しなくてはならないという状況も踏まえて、2020年7月~8月にかけて川崎、武蔵小杉、登戸などの駅近くに相談会場を設けました。
この相談会は会場を徐々に縮小しながらも2021年3月まで実施し、700件以上の相談を受けました。4月からは新型コロナウイルス対策として中小企業庁から打ち出された支援策である一時支援金の相談対応を行い、2か月間で400件以上の相談を受けました。これらの相談を通してこれまで接点の少なかった事業者の方々にも当財団の存在を知って頂くことが出来ました。まだ知名度が不足している感は否めませんが、1人でも多くの事業者に当財団を知って頂き、ご利用頂ければと思います。

川崎市の中小企業や起業家支援の取り組みについて聞いてきたが、次は、特にコロナ禍の影響を受けているであろう中小企業の海外事業の支援について、川崎市海外ビジネス支援センターの運営に携わる山関章司氏に話を聞いた。

中国、ASEAN諸国などへの進出相談に対応、越境EC導入も支援(産業支援部 新産業振興課長 山関章司)

川崎市海外ビジネス支援センターは、海外展開の相談対応をどのように実施していますか?
川崎市海外ビジネス支援センター「KOBS/コブス((Kawasaki City Overseas Business Support Center))は、2012年度から市内中小企業者の海外展開支援を目的に、販路開拓、技術移転、知的財産保護、ネットワーク構築等の諸事業を実施しています。海外ビジネス経験豊富な海外支援コーディネーター3名が、海外への販路開拓、海外進出などを考えている企業や、既に海外展開を行っている企業の課題解決など、ビジネスの段階に応じてサポートしています。JETROやJICAなどの関係機関とも連携して、外部関係機関のメニューも活用しながら支援を行っています。
面談は新型コロナウイルス感染防止に配慮して対面で実施していますが、ご希望によりオンラインやメール、電話での相談にも対応しています。事業の状況を聞きながら支援策の説明や課題解決のサポートを行っています。力を入れているメニューは海外現地のローカル企業とのマッチング支援です。
市内企業が海外展開を考える国はどの国が多いですか?
要望の多い国は、中国、台湾、タイ、ベトナムなどへの進出の相談です。新型コロナウイルス流行前は、海外商談会を年2回行っていましたが、2020年3月以降は海外への渡航ができず、タイの商談会は中止しました。ベトナムでの商談会は現地企業とオンラインで実施をして、市内企業11社が参加しました。
また、市内企業の希望にあわせて海外商談会と同じように自社製品の販売パートナーとなるような企業をリストアップし、アポイントをとって面談を行う海外ビジネスマッチングサービスを実施しています。昨年来、オンラインのみで実施しているので新型コロナウイルス感染リスクも少ないです。申し込みが多く人気があるメニューのひとつです。
海外進出の手段として越境EC(インターネットの通信販売サイトを通じて行う国際的な電子商取引)の相談も多いです。越境ECに適した商品、ターゲット国、実施手法など、越境ECに関する悩みや相談を専門家に直接相談できます。越境ECのための補助金やトライアル出店メニューも川崎市が用意しており、トライアル出店には20社からの申し込みがあり、3社が採択されました。
その他にも越境ECの相談者には、JETROの海外バイヤー専用オンラインカタログサイト「JAPAN STREET(ジャパンストリート)」を活用し、商材をJETRO経由でPRすることを案内しています。
相談者の多くは、社内に海外展開の機能を持っていない企業です。担当者も他業務と兼任しています。そのため、海外に販路を持つ国内商社などを活用することで海外展開の最初のハードルを下げて商談会を実施しています。
川崎市産業振興財団の中で連携した支援の例があれば教えてください。
海外展開の相談に来られた企業には、専門的な課題を抱えておられる場合も多々あり、そういった場合には、別部署である中小企業サポートセンターが行っているワンデイ・コンサルティング(経営改善の支援を行う短期の訪問コンサルティングとして、中小企業、個人事業者及びNPO法人を対象に適切な登録専門家を無料で派遣。)をご紹介させていただいています。
ワンデイ・コンサルティングで各分野の専門家が課題解決のご協力をさせていただくほか、海外展開以外のビジネス課題に対しては、川崎市産業振興財団の各担当部署が協力して課題解決のお手伝いをさせていただいています。これまでにも産学連携、知的財産活用など、川崎市産業振興財団内の各担当部署が連携をして総合的な相談支援サービス体制で支援した事例がいくつもあります。

これまで、川崎市の中小企業支援の取り組みについて話を聞いてきたが、他にも「知的財産マッチング事業」という、中小企業が大企業の特許、技術を活用し、新たなビジネスを創造するための支援活動も行っている。最後にこちらについて話を聞いた。

知財マッチングを実現させるためには、地元企業とのつながりの深さが重要(産業支援部 新産業振興課 担当課長 木村佳司)

知的財産マッチング事業とは、どのような事業でしょうか?
知的財産マッチング事業は、大企業に蓄積されている特許や技術などの知的財産を中小企業へ移転し、知的財産を軸とした双方向の交流により、中小企業の新製品開発などの新事業展開を支援する事業です。約14年前に川崎市が全国に先駆けて創設し、今では他の自治体にも広がり、財団が“ハブ”となって広域的な取り組みへと発展しています。
知的財産マッチングによって成果を生み出すためには、企業とのつながりの深さが何よりも重要で、その裏付けとなるのが「現場主義」です。長年続けてきた企業訪問活動を通じて、地元中小企業と顔の見えるネットワークを築いてきたことがベースとなり、マッチング成果につながっています。
知的財産マッチングでは、これまで大企業と中小企業の間で39件のライセンス契約が結ばれています。他方で開放特許の移転だけでなく、大企業側から「研究開発で連携できる中小企業やスタートアップを紹介してもらえないか」、「こういう試作開発や特殊な加工ができる中小企業はないか」といった個別的な相談も多く寄せられるようになり、双方向での技術交流やマッチングが行われています。精度の高いマッチングを行うためには、コーディネート機能を担う支援機関として、中小企業やスタートアップの強みや特徴、経営者の人柄も含めて緻密な情報を把握しておくことが必要となり、企業との顔の見えるネットワークが活かされています。
顔の見えるネットワークを築くための企業訪問活動はどのようなものでしょうか?
「出張キャラバン隊」という支援チームによる企業訪問です。約17年前にスタートした支援活動で、新製品開発などの新たな事業展開に挑戦する中小企業に対して、財団の職員とコーディネータが主体となり、時に市や国、県の支援機関担当者も加わり、“ワンチーム”となって直接企業を訪問し、公的施策など最適な支援メニューの紹介や、大学・研究機関や企業等の連携先とのマッチング、大企業との知的財産マッチングなどのコーディネート支援を行うとともに、中小企業サポートセンターの技術・経営に関する課題解決支援や、KOBSの海外展開支援の機能と一体となって総合的な支援を実施しています。
最近では企業訪問活動を更に拡充すべく、出張キャラバン隊とは別に、生産性向上や働き方改革の支援を目的に、業種や規模を問わず企業を訪問し、そこから新事業創造につながる案件があれば、出張キャラバン隊が出向くという伴走支援の流れをつくっています。こうした企業訪問活動を通じて緻密に情報を把握し、支援チームで共有することでマッチングにつなげています。
地域で連携した取り組みがあれば教えてください。
地域の地方銀行や信用金庫と連携しています。そのなかでも地元の信用金庫は市内だけで40店舗のネットワークがあります。財団が独自にできる企業との顔の見えるネットワークづくりには限界もありますので、地域金融機関と緊密に連携し、よりきめ細かな中小企業支援体制を築くことが重要と考えています。財団には複数の地域金融機関からの出向者が在籍しており、彼らが主体となって、支店ごとに出張キャラバン隊や知的財産マッチングに関する勉強会を行いながら、企業訪問活動やマッチングの機会を拡大しています。
今後も「現場主義」を貫き、企業訪問を軸とした支援活動を行い、地域金融機関や他の自治体、支援機関などとも連携しながら、地域を越えて”産・学・官・金の顔の見えるネットワーク”を広げ、知的財産マッチングをはじめとした市内中小企業の新たなビジネスの創造を促進するための支援活動を推進していきたいと思います。

以上、多岐にわたる中小企業支援について川崎市産業振興財団の井手裕介氏、山関章司氏、木村佳司氏の3人に話を聞いた。 川崎市の企業の方でビジネスに関する悩みなどがあれば、豊富なサービスメニューと手厚い支援を有する同財団に相談されてみてはいかがでしょうか。

産業支援部 中小企業サポートセンター 所長 井出裕之(いで・ひろゆき)
1994年 株式会社あさひ銀行(現 りそな銀行)入社
2013年 同財団入社 新産業創造センター 係長就任
2019年 中小企業サポートセンター 所長就任 現職

産業支援部 新産業振興課長 山関章司(やまぜき・しょうじ)
1979年4月 川崎信用金庫 入庫
2017年1月 同金庫 退職 川崎市産業振興財団 入職 かわさき新産業創造センター(KBIC) 副所長就任
2017年4月 産業支援部 新産業振興課 課長就任 現職

産業支援部 新産業振興課 担当課長 木村佳司(きむら・けいじ)
1994年 川崎市役所 入庁
2016年 川崎市役所 経済労働局 産業政策部 企画課 担当課長
2020年 同財団に派遣 産業支援部 新産業振興課 担当課長就任 現職

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