□アタックスグループ主席コンサルタント・丸山弘昭
新年早々、F社の新年幹部会に招かれた。31年前、現社長が脱サラで始めた訪問入浴サービスがスタートで、現在、名古屋市近郊で訪問介護、訪問入浴、施設介護を広く手掛ける。
社長は介護保険制度が始まるはるか前の1983年、1台の訪問入浴車と看護師、ヘルパーとともに3人で訪問入浴サービス事業をスタートさせた。
動機を尋ねると、とにかく人に喜ばれる仕事がしたかったことと、親元から離れて仕事をしていたが久しぶりに故郷に帰り、寝たきりの父親を風呂に入れたとき、大変喜ばれた経験があったからだという。
今年の新年幹部会は、例年とは違っていた。社長が波乱(はらん)万丈の人生をまとめた自伝「バキュームカーに乗ってみた夢」(幻冬舎)を出版した感謝の場であり、次世代の幹部に事業発展の一翼を担ってほしい、という思いを伝える場となったからだ。
会場には演題「第二の創業期…苦難の大海原へいざ!」が掲げられた。社長は夜逃げ同然で東京から名古屋に来て仕事を探し生活を始め、いくつかの仕事を経験し37歳で創業した苦労をユーモアを交えて話した。
さすが創業者と実感したのは、「無計画の計画」という考えを絶えず意識しているという話だ。経営計画を立てていないと社員に言われるが、大まかな計画はある。だが「頭でつくった計画」は絶対に計画通りにならない。目の前の出来事に一生懸命対処することが大切だ。
以前「会社、組織も大きくなった。きちんと予算制度を立てられては」とアドバイスしたが社長から「予算はあまり重視していない」と言われたことを思い出した。大きな時代の流れを読んでいれば経営はできると言いたかったのだ、と推察した。
経営者の姿勢として、(1)元気はつらつとして周りの人を元気づける(2)思い切った決断と実行(3)言ったことは必ずやり遂げる-の3つを挙げ、自分もそうありたいとした上で、幹部社員はリーダーシップの取れる人材になってほしいと語った。
新年幹部会に参加して、良い会社とは、どんな会社かを改めて考えさせられた。
CS(顧客満足)とES(社員満足)のどちらに軸足をおいて経営すべきか意見は分かれるが、長期の発展を考えれば社員を中心に据えることになる。
筆者は現場の経営感覚から、CS経営は第1に社員が仕事に誇りの持てる会社にすること、第2に社員同士が連帯感を持てる会社にすること、第3に部下が上司との信頼関係で結ばれていることが基本と考えている。
F社の社長は人間的魅力がある。日頃から社員との信頼関係ができ上がっているからだ。社員も仕事に誇りを持っている。現場はきついが、要介護者や家族から「ありがとう」と言われることが仕事の誇り、やりがいになっている。
経営者の仕事は会社が進むべき大きな方向性を社員に示し、日常の細かなことに心を配り、社員一人一人が輝く職場とするための環境を整備すること。最も重要なのは社員に「生きがい」と「働きがい」のある会社を作り上げることであり、社長はその先頭に立ってほしい。
【会社概要】アタックスグループ
顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。
「フジサンケイビジネスアイ」