【ウーマンシップ】ハーモニーレジデンス・福井真紀子社長

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■シングルマザーの社会進出支援

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ハーモニーレジデンスの福井真紀子社長

 「35歳以上で、シングルマザー。加えて仕事のブランクが長い…」。一昔前まで、こうした事項が記された履歴書は、じっくりと目を通されることなく即座に捨てられるケースが圧倒的だった。誰も関心を持たず手をつけないことから、「デッドストックマーケット」と揶揄(やゆ)されたこともある。こうした中、“火中のクリを拾う”ような形で、シングルマザーに焦点を当てた人材紹介業のハーモニーレジデンスを設立したのが福井真紀子さん。採用企業の間では「簡単な理由で仕事を諦めない」といった理由でシングルマザーに対する評価は高まっており、採用実績も着々と増えている。

◆ロールモデル不在

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素敵女子リーダーの会の模様

 福井社長は父親の仕事の都合により、8歳までニューヨークで過ごした。住んでいたのは日本人街。その地で、漠然と違和感を覚えるようになった。外国人の友人の母親は全員働いていたのに対し、日本人宅は100%専業主婦だったからだ。

 女性が自立するのが当たり前の文化だったので、日本に帰国して数々のカルチャーショックを受けた。「大人になったら、どのような職業に就きたいのか」という作文の課題が与えられたところ、「日本の女性は子供の頃に職業の夢を持っていながら、なぜ、それを諦めて専業主婦になるのか」と周囲の大人の女性に疑問をぶつけた。

 大学を卒業後、大手証券会社に就職。男女機会均等法の3期生として男性同様の働き方を期待されたが、当時の上司からは「出世したければ、男にならないとだめだ」と言われる。周囲にも仕事と子育てを両立しているロールモデルになるような女性はいなかった。「女性らしくキャリアを追求するのは不可能」と悟り、退職の道を選ぶ。

 その後、結婚、出産、夫のニューヨーク駐在などを経て、2007年に娘が8歳になったとき、転機が訪れる。自分が同じような年頃に覚えていた違和感と向き合って、「小学生の時にどんなに素晴らしい夢を抱いたとしても、ほとんどが結婚、出産を経て仕事を辞めている。誰かが世の中を変えなければ」との思いに至った。それを契機に仕事と子育ての両立を支援する、ハーモニーレジデンスを設立した。

◆優秀な人材の宝庫

 起業に当たっては、福井社長自身が「不在」と感じていたロールモデルとなる人材像を模索する。たどり着いたのはシングルマザーだ。

 当時、シングルマザーは採用の対象になりにくいといった風潮が圧倒的に強かった。しかし福井さんにとって、この“市場”は「人材の宝庫」だった。企業が求めている優秀な女性のロールモデル像は、「働く目的がしっかりしている」「子育てと仕事の両立を見事に実現している」「より上を目指す、キャリアアップ志向が強い」など。こうした条件に適合すると判断したのがまさに、シングルマザーだったのだ。

 ハーモニーレジデンスには現在、約1700人の女性が登録。このうちシングルマザーの比率は8割に達する。採用側のニーズは「頑張る女性がほしい」。これに応える形でせっせと紹介していったら、口コミで広がり、12年には100社を超える企業への紹介実績を残した。「仕事と育児の両立を果たしている“身近なお手本”が職場にいるため、若手女性社員のモチベーションも向上し、定着率も上がっている」と福井社長は指摘する。

 今後の目標は、多くのシングルマザー管理職を輩出すること。これまでの実績は20人程度だが、2~3年後をめどに100人まで増やす計画だ。(伊藤俊祐)

 ≪Q&A≫

 

■次世代女性の能力引き出す

 --政府は指導的地位に占める女性の割合を、2020年までに30%程度とする目標を掲げている

 「政策だけが走っている感じ。女性社員の育成法が分からない企業が大半で、積極的に活用しているのは氷山の一角だ。事実、45カ国を対象にした調査の中で、女性役員の比率は44位。日本より下はカタールだけ。東京五輪の招致にも成功したのに、こうした状況を放置していればマイナスイメージとなる。一方、管理職への登用を打診されても『家庭との両立を図れるのか』と悩み、断りを入れる女性が多い。そういった人たちを引き上げなければ30%には達しない」

 --女性の登用は、なぜ必要なのか

 「先進国の中で最も若年労働人口が減少しているのは日本。現状を放置したままでは、国の財政がもっと悪くなっていく。しかし、30、40代の女性を積極的に活用していけば、税収入が増え、消費も活性化して経済成長につながる。こうしたサイクルを構築するためにも、学童保育の問題などを改善する必要がある」

 -- 一連の課題を踏まえた事業展開は

 「『素敵女子リーダーの会』という会員制倶楽部を発足させた。講演などを通じ、次世代の新しい女性リーダーの能力を引き出すのが目的だ。また、社外には女性のネットワークの場が少ない。質の高い組織にするのとともに、心の支えになる場になればと思っている」

【プロフィル】
福井真紀子 ふくい・まきこ 横浜国大経済卒。証券会社や法律事務所勤務を経て、2007年11月にハーモニーレジデンスを設立し、現職。13年6月には内閣府による13年度「女性のチャレンジ賞特別部門賞」を受賞。46歳。東京都出身。

                   ◇

【会社概要】ハーモニーレジデンス
 ▽本社=東京都杉並区下井草3-39-21
 ▽設立=2007年11月
 ▽資本金=1000万円
 ▽事業内容=人材紹介業

「フジサンケイビジネスアイ」

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