特許や商標という言葉を知っていても、その専門家である弁理士の存在を知らない人は多いようです。特許や商標の使い方を知らないと損をすることがあります。例えば、カラオケの発明者は、特許を出さなかったことで100億円の利益を失ったといわれています。私は、特許や商標の使い方を世の中に伝えるため、弁理士として、また、講師として知的財産権の重要性を話しています。
講師をしていると「商標権はなくても商売できますよね」と、よくこの質問に出合います。商標権はなくても商売することはできます。ところが、自分に商標権がなく他人が商標権を持っている場合には損をすることもあります。
例えば、堂島ロールを販売する「モンシュシュ」は、商標権者のゴンチャロフの商標である「モンシュシュ」があったことから、現在店名を「モンシェール」に変更、さらには、ゴンチャロフに対して5100万円の損害賠償を支払っています。
また、吉本興業の「面白い恋人」は、石屋製菓の「白い恋人」に商標権があるため和解により継続使用が許されています。和解による相当の対価が吉本興業から石屋製菓に動いていると想像できます。
さらに、中国では、アップルが商標権を取る前に、中国の企業が「iPad」の商標権を取っていました。その結果、アップルは中国で「iPad」の商標を使うために約50億円の和解金を支払っています。
日本においてのアップルは「iPhone」を使うために、類似の商標「アイホン」の権利を持つ日本企業、アイホンに使用料を払っているそうです。ちなみに、アイホンは1955年から権利を持っています。
これらの共通点は、他人が商標権を持っている場合には、商標権で損をして商売に影響するということです。アップルのように大きな会社であったとしても、他人が商標権を持っている場合には使用することができないのです。
商標権は、よく土地に例えられます。例えば、他人の土地を駐車場として使用するときには賃貸料を支払います。また、土地が空いているからといって勝手に駐車場として使用すると、レッカー車で運ばれたり、後で使用していた分の料金を請求されることになります。商標権はこのような土地の考え方と同じで、他人が権利を持っている場合には権利を持っている人が利益を受けるのです。
商売は商標権がなくてもできます。ですが、商売で損をしないためにも他人よりも先に商標権をとることを弁理士の講師としておススメをしています。
【プロフィル】富澤正 とみざわ ただし 1980年、愛知県出身。知財コンサルタント、コスモス特許事務所の弁理士。2012年、自ら知的財産を生かしたベンチャー企業を設立、「資格合格箸」などのアイデア発明品を製造販売する。発明を生み出す技術と知的財産の知識から、企業の知的財産関連の仕事も担う。
「フジサンケイビジネスアイ」