■高スキル主婦を中小の戦力に
アットホームな雰囲気の中で太陽光発電パネルの仕組みをパートに説明するループの深谷辰三ゼネラルマネージャー(右隅)。主婦は会社を和ます潤滑油でもある=東京都文京区
出産や育児を機に労働市場から退出した主婦の中には、結婚前に培った管理職の経験や特殊技能を生かしたいと望む女性が多く潜在している。その高度人材を中小企業の戦力に結びつける事業が注目を集めている。仕掛けるのは、主婦層に特化した人材サービス会社「ビー・スタイル」(東京都新宿区)だ。
東京都文京区のオフィスビルに、主婦の明るい声が飛び交う従業員約30人のベンチャーが入居する。太陽光発電所の開発から販売・施工まで手がけるLooop(ループ)だ。2011年4月設立の若い会社だが、日曜大工のような感覚で設置できる「発電所キット」を主力に急成長し、12年度は売上高30億円が射程圏内に入った。
同社の成長の一翼を担うのが「パートタイム労働者(短時間労働者)」として週3~5日働く7人の主婦だ。
深谷辰三ゼネラルマネージャーは「『ビジネスの要』として活躍してもらっている。優秀な主婦の就労経験をコストを抑えて吸収できる利点は大きい」と話す。
たとえば派遣社員として働く子育て中の40代主婦は、外資系の化粧品メーカーや陶磁器を扱う企業に就労した経験を生かして、太陽光発電関連部材の輸入に必要な通関から国内物流業務まで携わる。
この主婦は、ビー・スタイルが昨年夏に始めたサービス「エグゼパート」を通じてループと出合った。結婚前に年収が500万円以上あった「エグゼクティブ主婦」をパートとして中小などに紹介する仕組みだ。
ビー・スタイルに登録する主婦約6万人の社会人経験年数は平均約12年。そこに含まれる高度人材の前職は、財務や営業の責任者からIT(情報技術)専門家までと多彩だ。
資金力が乏しい小規模企業ならなおさら、経営の中枢を支えられる「右腕」人材の確保は至難の業だ。しかし、高スキルの主婦を「フルタイムで働く必要のない専門業務」に配置すれば高度人材も手が届きやすい。
仮に、年収が800万円あった主婦を週3日勤務のパートとして採用すると、480万円まで抑制できるという。
国税庁がまとめた11年の民間給与実態統計調査結果によると年収500万円超の女性は9.2%。この数値を約1000万人と推定される専業主婦にあてはめると、92万人がエグゼパートの潜在的な対象者だ。
ビー・スタイルの三原邦彦代表取締役は「主婦の利点を企業に認識させ、人材活用の有力な選択肢の一つにしたい」と意気込む。エグゼパートで掲げる13年の売上高目標は2億円だ。
民間に呼応するかのように、中小企業庁も再就職をめざす主婦に職場実習の機会を与える支援策を12年度補正予算案に盛り込んだが、家計の足しに働く印象が強い主婦を「企業の新戦力」として広める活動は発展途上にある。
ニッセイ基礎研究所生活研究部門の松浦民恵主任研究員は、主婦と中小が歩み寄れるよう導く人材会社のマッチング力を期待した上で、「職場復帰した主婦は、休職中に進んだ技術革新や市場変化に追いつく壁にぶつかる。それらを補う教育・訓練サービスの情報発信拠点を整備すべきだ」との課題も示す。(臼井慎太郎)
「フジサンケイビジネスアイ」