今年3月、戦後初の独立系生命保険会社、ライフネット生命が、東証マザーズに開業から3年10カ月で上場した。最近はテレビCMを放映しており、同社と出口治明社長をご存じの方も多いであろう。
最近、筆者は出口氏と対談形式のセミナーを行う機会があり、同社の成功ストーリーを直接聞くことができた。
◆自信ある商品
出口氏は大手生保で長年仕事をしていたが、高度経済成長が終わって人口減少時代に突入し、既存の生命保険が時代のニーズに合わなくなっていると強く思っていた。そんなときにある起業家との出会いからインターネットを利用した生命保険ビジネスを起業した。
同社の保険は掛け捨て型の死亡保険、医療保険、就業不能保険の3商品のみであり、「分かりやすい、安い、便利」を特徴とする。また、同社が提供する死亡保険の保険料は、条件によっては、同じ額を保障する他社の約半額であり、子供の教育にお金がかかり、所得もさほど多くない30代の子育て世代を中心に加入者がうなぎ上りで増加している。
出口氏は創業時から次の3つのビジョンを唱えている。(1)保険料を半額にしたい(2)保険金の不払いをゼロにしたい(3)生命保険商品の比較情報を発展させたい。
また、「自分たちの友人や家族に自信をもって薦められる商品しか作らない、売らない」とも明言している。出口氏の言葉からは「自分たちはこんなことで世の中の役に立ちたい、世の中を変えていきたい」という強いメッセージが伝わってくる。それらの思いを「ライフネット生命のマニフェスト」にまとめて堂々と公表している。
同社が作り上げた商品は、品質やコスト、分かりやすさなどでの面で文句のつけようがない。まさに「本物志向」の商品といっても過言ではないだろう。
◆口コミを重視
同社のこのような経営姿勢は、採用にもたいへん良い影響を及ぼしている。大企業に引けを取らないほど優秀な人材が数多く入社を志望してくるのは、同社のマニフェストと社員が発信するブログに共鳴・共感しているからだという。
創業時の同社は知名度がなく、資金も十分でなかったため、口コミを認知度獲得の有力手段としていた。出口氏の言葉を借りれば「10人以上であればどこでも行きます」と会合や勉強会、セミナーを熱心に行った。このセミナー行脚はテレビCMを放映するようになった今でも積極的にこなしている。ライフネット生命に関心のある読者は、セミナー依頼をしていただければ、同社の経営姿勢が分かるはずである。
このようなマーケティング戦略は、商品を売るより、商品が「本物である」ことを知ってもらい、応援してくださるファンを増やそうというところに真意があるようだ。
こうした活動について、出口氏は「共感マーケティング」という言葉で表現している。
内需関連産業は人口減少により市場が縮小し、日本経済は閉塞(へいそく)感が漂っている。
しかし、ライフネット生命のように、時代の潮流を大局的に理解し、どこで自社は勝負するのかを考えれば、商機はまだ十分にある。
その時に忘れてならないのが、「本物志向」と「共感マーケティング」の発想であろう。
【会社概要】アタックスグループ
顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。
「フジサンケイビジネスアイ」